木曜洋画劇場でやりそう映画『トラップ』感想文

《推定睡眠時間:3分》

M・ナイト・シャマランの監督最新作ということでシャマラン映画らしく具体的な内容は公開直前まで伏せられて謎のベールに包まれており、よって俺は「ライブ会場が舞台らしい」「連続殺人鬼が出てくるらしい」ぐらいのふわっとした情報しか知らずに観に行ったのだが、ここはぜひともみなさんも内容をよく知らんで適当に面白いサスペンス映画が観たいな~ぐらいの気持ちだけ持って映画館に入っていただきたいとYouTubeの予告編を貼っておきながら思う。最近は客入りが悪いと冒頭10分をYouTubeで無料公開! なんて施策を打つ映画もあるぐらいで過剰なほど映画の情報を配給側が出してくるし観客の側もまんまと乗せられて映画を観る前からどんな内容の映画でどんな人が出ていてどんな作品と繋がりがありとか事細かに知っていたりするが、少なくともサスペンス映画に関して言えば、やはり何も知らないも同然で観た方が驚きやドキドキがあって楽しいんじゃないかと思うのだ。それがシャマラン映画なら尚のことである。

といってもこれはある意味でネタバレかもしれないが別にびっくりするような大どんでん返しがあるとかではない。むしろ最近の映画にしてはオーソドックスというか素直な結末を迎える映画なんじゃないだろうか。前情報を入れずに観た方がいいというのはそういうのがあるからって意味じゃないんだな。そうじゃなくて、これはウェルメイドなアイデア系サスペンスで、なんも知らんで名画座二本立ての一本として観たりだとか、木曜洋画劇場とか午後のロードショーなんかで観たりしたら、たぶん「うわっめっちゃオモロ!」ってなる映画なのだ。

最近はすっかりその帯域を韓国映画が独占している気があるが1990年代後半~00年代前半のアメリカ映画にはこういう中規模予算・中規模スケールの捻りの効いた面白い娯楽映画がちゃんとあった。『フォーン・ブース』とか『セルラー』とか『フォーガットン』、そうそうあと『ホステージ』なんてのもありましたねあれも面白かったな…そういう中規模スケールの面白いアメリカ製サスペンス映画を『トラップ』で久しぶりに観た気がする。社会風刺の要素や小さな教訓的メッセージはあるかもしれないが作者の思想を押しつけるわけじゃあない、展開に捻りはあるがその捻りが映画全体の印象を塗り替えてしまうほど大きなものでも風変わりなものでもない、登場人物はどこにでもいそうな無個性な人で、そうであるがゆえに一緒になってハラハラしたりカタルシスを得たりすることができる。記録には残らないかもしれないがなんか面白い映画観たなっていう記憶はちゃんと残る、そんな娯楽映画なのだ。上映時間も2時間以内だから気軽に観られる。

ということであまり内容に触れずに感想を書き進めてきたが、そのせいで過度な期待をされても困るので軽く触れておけば、なんでもあるところでレディ・ガガぐらい超人気のある歌手のアリーナライブが行われまして、主人公である父親は中学生ぐらいの娘と一緒にライブに来たのですが、実はその会場には連続殺人鬼が紛れ込んでいて…というもの。ライブの臨場感が凄くてシャマランこういうのもうまく撮れるんだなーとか思っていたら小耳に挟んだところによれば実際にライブをやりながら撮影をしたらしい。なるほどホンモノのライブを作るところから! それは臨場感があるわけである。劇中の歌手レディ・レイヴンはもちろん架空のアーティストだが、楽曲にせよパフォーマンスにせよ作り物っぽいところはなく、本当にアメリカの超人気アーティストがライブをやっているように見えるから感心する。ちなみにこのレディ・レイヴンを演じているのはシャマランの実子サレカ・ナイト・シャマランという人らしい。え、それはすごいな。すごいけどシャマランすげー親バカ!

アリーナを舞台にした連続殺人鬼と警察の攻防および多彩な人物の交錯にはパニック映画的な意匠もあり無差別乱射映画の傑作『パニック・イン・スタジアム』もどことなく彷彿。最近アメリカのパニック映画なんかほとんど作られなくなってしまったのでこういうのは嬉しい。連続殺人鬼が出るといってもシャマランはもっぱらサスペンスの人であるから血がブシャーとか死体ドシャーとかそういうシーンは一切ナシ。撮り方やシナリオの面白さでハラハラドキドキさせる映画なのだ。

むむ、そう考えると実は絶妙なバランスの上に成り立っているたいへんよくできた佳作なのではあるまいか。サスペンスありミステリーありパニックありミュージカル(ライブ)あり家族愛ありちょっと皮肉な結末ありというわけで娯楽映画の面白さがたくさん詰まった、シャマラン円熟の技巧が光る、匠のウェルメイド映画であった。さぁまだ観てない人はそれ以上の情報は入れず、あまり期待はしないで映画館へ突撃!

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booby
booby
2024年11月5日 10:05 PM

ワタクシ、実は全くの無情報で行ったので、スタジアムから脱出するため女性アーチストに自白するトコまで、ジョシュ・ハーネットがサイコ・キラーなのか、人質を取られてやむなしで何かやらされてる人なのか、ずーっと決めかねて見ておりました。だから「まんまサイコキラーなのかい!」という逆ドンデンをあの時点で体験してしまいましたよ。予告ではそこはバラしてるみたいですね。それ、知らなくてよかったです。ほどほど退屈、時にハラハラのいい湯加減の映画でした。