《推定睡眠時間:50分》
クモといえば基本的にとくに悪さはしないが見た目がキモイというだけの理由で人々のヘイトを集めている昆虫であるが俺は家なんかでクモちゃんを見つけると手に乗せたり紙相撲みたいにぴょんぴょんさせたりして遊ぶ程度にはクモちゃんが好きなのでクモがたくさん出てきてめっちゃ怖い~死ぬ~という『アラクノフォビア』とかこの『スパイダー/増殖』みたいなクモものパニック映画は面白いかどうかは別として怖い怖くないでいえばやはり怖くない。たとえばネコ好きなみなさんならネコちゃんが大挙して押し寄せてくるアニャマルパニック映画を想像していただきたい。押し寄せるネコに潰されて画面の中の誰かは圧死するかもしれないわけだが、しかしそうだとしても怖いの感情よりもきゃわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! になるのではないだろうか。いくらなんでもネコと同じくらいクモが可愛いとは思っていない俺ではあるが、しかしともかく、まぁつまりだいたいそういうことである。
なので逆にというかクモがたくさん見たくてこの映画を観に行ったのだがやがて判明のびっくり事実、なんとクモじゃなくて人間が中心…! いや、それはなにもびっくりするような事実ではなくアニマルパニックなんて全部そうだろとは思うが、そういうことではなくて演出面が人間中心なのだ。たとえばクモの顔面どアップみたいなのが俺の観ていた限りでは(半分寝てるので大いに怪しいが)なかった。クモといえばガシャガシャした感じの口の動きが俺的にはチャームポイント、ホラー映画的にはクモこわいポイントだろうが、だとしたらクモの顔面どアップを撮りたくさんある目とかガシャガシャした口とかを撮って観客をひ~と言わせるのは大いにアリだろう。
でもそういう撮り方はしないんだなこの映画は。クモ単体じゃあなくクモの大群のコワさを見せるためにカメラはクモから結構引いたところに置かれ、登場人物が立っているその後ろの壁にクモいっぱい! とかそういう撮り方をする。まぁ壁にびっしりクモがいるというシチュエーションは人によってはたいへんにおぞましきものであろうと想像はつくが、クモ好き派からすれば無料の蜘蛛カフェというべきシチュエーションなので怖くないばかりか、そこはちゃんとクモをアップで撮ってくれという気分になってしまうのである。こっちは人間じゃなくてクモが見たいんだから!
そうした演出面の淡泊さに加えて、これは最近のフレンチ・ホラー(書き忘れていたがこの映画はフランス映画であった)のどうも流行り?のようなのだが、なんか人種差別がどうだとか貧困がどうだとか社会派風のシリアスな人間ドラマばっかやってるんだよなぁ。こないだ観た『ザ・タワー』というこれと同じく団地ものの(更に書き忘れていたがこの映画は団地に毒グモが入ってきてギャーってなるお話であった)フレンチ・ホラーもそうだったが、本当に怖いのは人間だという感じで「怖いもの」は画面にさほど映らず、その「怖いもの」が人間関係にどのような影響を与えるかというようなドラマを映す。だからこの映画でも見た感じ危険度が高いのはクモよりもクモパニックで発狂して主人公らに襲いかかってくる隣人のオッサンであった。たしかにクモパニックで発狂して襲ってくるオッサンは怖いかもしれないが…でもクモの映画でそっちの方を怖く見せられても、と俺は思うのである。警察の横暴とかさ…。
そんなわけであんまり面白い感じはしない、少なくともアメリカやイタリアの往年のアニマルパニック映画のようなもの(『スラッグス』とか『スクワーム』とか…)を期待すると肩透かしを食らであろうこの『スパイダー/増殖』ではあるが、これも『ザ・タワー』同様なのだがケレン味がないという点を気にしなければ映像センスは悪くないし、人間ドラマばっかりやってるといってもその人間ドラマの出来が悪いというわけでもない。この手のフレンチ・ホラーにしては珍しく主人公が善良な人とかラストが意外と明るいというのもあって、まぁ肩肘張らずに観られるホラー映画ではあるんじゃないだろうか。
それにしても昨今のフランス映画はマジで団地を舞台にしすぎである。フランスの団地にいったい何があるんじゃい(たぶん予算の節約というメリット)