《推定睡眠時間:15分》
友達がいないので死んだ目をしながら1P2Pどっちも自分の『ウォーリー』的俺様スタイルで一人アタリの「PON」をやってる孤独な主人公(犬)の部屋に飾られているのはジャック・タチとのコラボレーションでも知られるピエール・エテックスというフランスの喜劇役者の代表作『ヨーヨー』のポスターで、タチほど極端ではないにしてもエテックスもまた台詞ではなく動きや発想の面白さで笑わせる(そしてペーソスで泣かせる)トーキー後のサイレント喜劇というべき映画を作っていた人、それにオマージュを捧げるこの『ロボット・ドリームス』は台詞らしい台詞は一切ない絵と音楽だけで見せる純度高めのアニメであった。
さて一人「PON」の日々はあまりに虚しい。現代ならオンゲーもSNSもあるだろうが「PON」をやってるぐらいだし街に出ればアース・ウインド&ファイアーの「セプテンバー」が流れるので時代は1970年代後半、場所は大都会ニューヨークのおそらくブルックリンかクイーンズ。窓の外を眺めればヤギさんカップルかなんかが向かいのアパートでぬくぬくとしているがそれにひきかえ自分ときたら…そんな犬が深夜テレビで運命的に目撃してしまったのは新製品の友達ロボットであった。早速注文しIKEA方式で組み立てると出来上がったのはオールドスクールながしゃんがしゃん稼働のあの感じのロボットともだち略してロボだっちである。このロボくんはいつも『ドラクエ』のスライムみたいな笑顔を浮かべて犬といつも一緒に楽しく遊んでくれる。普段は家にこもってばかりの犬だったがロボくんというサイコーの友達を得て街に繰り出すようになり、虚しく孤独な日々は終わりを告げた…と思われたのだが。
ロボットはともだちというのは幼少期より『ドラえもん』を脳髄に刷り込まれてきた俺および日本在住者にとっては逆にそれ以外に考えられないほど当然の常識でありアメリカSFの中でロボットと人間が種の存続をかけるいきおいでめっちゃ対立していたりすると(『ターミネーター2』とかな)どうしてそこまでダイナミックにケンカできるのだろうと不思議に思えるほど、昨今の反AI感情の高まりなどに対してもAIに学習させないために絵にいろんな透かしみたいのを入れたりしたら絵を見たいAIくんが可哀相じゃんか! AI差別反対! と虚空に向けて叫びたくなってしまう。
ともかくそんなわけでよくよく考えてみたら孤独な犬のもとにロボだっちがやってきたというこの映画の設定はだいたい『ドラえもん』か『キテレツ大百科』。しかもその顔ときたらR.I.P.鳥山明のスライムなのだからそんなものは好きにならずにはいられないよな。だから予告編を見たらわぁこれはきっとハッピーでたのしい映画なのだろうなぁと思いましたよ。しかしその予告編に流れてハッピー感を倍増させていたのは「セプテンバー」。曲調は明るいが歌詞に目を向ければ終わった愛を「9月の夜を覚えているかい…?」と12月の寒風の中で振り返るのがこの曲である。ということは…まぁということになるのである。
うう…切ない! とっても切ないし犬お前テメェ! ロボくんが大変なことになってるのにお前何ぬくぬくと家でハロウィンの仮装とかしてんだよ! それどころじゃないやろがい! ロボくんはな! ロボくんはお前頭の中で「セプテンバー」のロボ口笛を吹きながら犬とまた一緒に遊べる日々を夢見てるんだぞ! それに対しておめーはよ! おめーは…いやいくらかはロボくんのために頑張ったとは思うよ! それは認めるけれどももう少しできることはあったじゃないの! ロボくんはね、ロボだから痛みなんか感じませんよ! そうプログラミングされてるらしいからどんな状況でも楽しそうに笑ってますよ! だがしかし! いや、だからこそ! 犬おめー…おめーは友達としてロボくんのためにもっと頑張るべきだっただろうがよぉぉぉぉぉぉ!!!!!
でもまぁそんなのが人間のリアルだよね犬だけどというのがこの映画であった。恋人とか友達と過ごした超楽しい時間ってそのときはそんなこと考えないけど時間が経つと色褪せてくるし愛情なり友情なりっていうのもとくに理由もなく冷めてきたりするよね。それでだんだんそのことが後回しになっちゃって、なんか、別にいっかみたいな。別の恋人とか友達とか作れば良くない? 仕事とか趣味に打ち込んでみるのもいいし…って感じになってくる。
そういうそこらへんにいる普通の人間(犬)のいい加減さを通して人間社会の諸行無常が見えてくる。その一方で純粋一途なロボくんの眼差しを通して犬が気付けなかった世界の楽しさ美しさが見えてくる。切ないけどラストはハッピーエンド。世の中こんなものさ、ちょっと哀しいかもしれないが、ま、くよくよしないで気楽に楽しもうじゃないの。『ロボット・ドリームズ』とはロボットの見る夢でもあれば犬がロボットに見る夢でもあったんだろう。その交わらなさが「セプテンバー」の曲で交わる瞬間は感動的である。そういう瞬間も稀なことかもしれないが、世の中にはちゃんとあったりするのだと教えてくれる『ロボット・ドリームズ』なのだ。
※映画ネタ中心にアメリカン・カルチャーの引用多数なのでオタクはそのへんのノスタルジーにもグッとくること請け合い。