《推定睡眠時間:50分》
同じブラムハウス製作のロボットホラー『M3GAN/ミーガン』とよく似た構図のポスターには不安げな表情をこちらに向けた少女の後ろにクマちゃん人形が座っていてカメラのピントはクマちゃん人形に合っているからこのクマちゃん人形がきっと夜な夜な果物ナイフなどを手に家の中を徘徊し寝ている家族のアキレス腱を切るなどの地味にかなり厭な攻撃を仕掛けてくるたとえば『チャイルド・プレイ』や『ベニー・ラブズ・ユー』みたいな恐怖の人形映画なのだろうと思って観てみたら途中まではたしかにそんな感じで進むのだが寝て起きたら主人公一家が異次元構造のナイトメア・ワールドを駆けずり回っておりそれを追うのはクマちゃん人形ではなく不定形の黒くてでっかい謎生物、寝ぼけ眼でぼんやり観ていたので誰が言ったことなのかはわからないが登場人物の台詞によればその不定形の黒くてでっかい謎生物は子供たちの願望によって生まれたものなのだという。
なんだ人形ホラーじゃなかったのか…いやそもそもジャンプスケアは結構あるとはいえ終盤のしっちゃかめっちゃかなナイトメア・ワールド大決戦なんかを見るにあんまりホラー味もないというか、孤独な子供たちのお友達ほしい願望から生まれた不定形の夢生物とかいう設定からしてもジュブナイル向けダーク・ファンタジーといった方が内容を正しく言い表せているような気がする。よくわからんが寝ている間にいろんな登場人物のトラウマ的過去なども出てきたらしく、みんながナイトメア・ワールドでその過去と向き合いこれを克服するというのがおそらく物語の核心、不定形の黒くてでっかい謎生物はトラウマの象徴だ。そのヒューマンドラマ的側面の方がホラーテイストよりも強く感じられた(寝ているが)のがこの映画だったのだ。
最近のブラムハウス映画はなんかこういうのが多いな。『ナイトスイム』も『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』もホラー要素があるヒューマニスティックな健全家族ドラマという感じであまり怖くなく(そういえばどっちも寝ている)、どれも人死には0~2人程度、結末はハッピーエンドだしご家族で見られるほっこり映画とさえ言えそうな気配である。たぶんこれが今のブラムハウスの路線なんだろう。ブラムハウスといえば個人的には厨二ホラー『パージ』シリーズの会社であるが、全ての犯罪オールオッケーの日の恐怖といういかにも俗悪な設定だった『パージ』シリーズに比べて『イマジナリー』はなんと品行方正なことか。『パージ』シリーズは別に面白くないのでその路線に戻って欲しいとも思わないが、こうも違う方向に進まれると多少は戸惑う。
なんかアレじゃねぇか最終的にユニバーサル・スタジオの一角とかにブラムハウス・ランドみたいなエリア作ってもらってご家族みんなでちょっと怖い世界をお楽しみください的な感じにしたいんじゃないのか。今はもう俗悪ホラーが売れる時代じゃないからな…と言いつつ昨年は血みどろ大作『テリファー/終わらない惨劇』が謎のスマッシュヒットをアメリカで記録したりしているが、まぁ、血みどろ映画はレーティングが付くから血の出ない映画に比べて潜在的な観客数はどうしても少なくなる。早い話が血が出て人が死ぬホラーより血が出ず人が死なないファミリー向けホラーの方が儲かるのである。今のアメリカであえてリスクをとって血みどろ映画を作るのはよほど暇な趣味人ぐらいだろう。実際『テリファー』シリーズなどはもともとゴア趣味人の自主映画であった。
大部分寝てるとはいえ人形ホラーと思わせといてのファンタジー展開があり映像的にもわちゃわちゃしていて楽しいので『イマジナリー』、つまらない映画とは思わないが、しかしこうなんというかアレですな、金に汚い醜い大人になってしまったのでこの家族愛路線にどうも金の匂いを感じてしまって、素直にわーおもしろーいとなれない。その意味でこれは今のディズニー映画とわりとテイストが似ている。ホラー界のディズニーを目指しているのかもしれないなブラムハウスは。やれやれ。