イタリアン・ホラー復活映画『呪われた絵画』感想文

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昨日感想文を書いた『イマジナリー』もそうだが今年日本で公開されたホラー映画ときたら当たり障りのないものばかり、韓国の『破墓/パミョ』はかなり面白いオカルト映画ではあったもののホラー色よりも伝奇色が強く大人向けの場面は実はない全年齢対象映画であったし『ミンナのウタ』の続編にあたる清水崇のJホラー『あのコはだぁれ?』は子供騙しもいいところで、12月に公開予定のゴア・スラッシャー第3弾『テリファー 聖夜の悪夢』はさすがにホラーホラーしている可能性もあるがシリーズ2作目の『テリファー 終わらない惨劇』が変なファンタジー展開になっていたので過度な期待は禁物、まったく最近は映画館でロクにホラー(概念)を浴びてねぇな…といって台湾の『哭悲』みたいな「こんな露悪的なことを平気でやっちゃう俺すごくない?」みたいなホラーもそれはそれでムカつくので求めていないわけだが、そんなところに飛び込んできたのがこの『呪われた絵画』であった。

知ってるこれ? 俺はほぼ全然知らなかった。たしかヒューマントラストシネマのチラシ置き場でタイトルは見たことがあったが予告編は見た記憶がないので内容についてはわからない。まぁ『呪われた絵画』というぐらいだから呪われた絵画が出てくるオカルト映画なんだろうぐらいな感じである。絵画もののホラーといえば最近ではNetflixの『ベルベット・バズソー:血塗られたギャラリー』があったし『BLISS ブリス』という煮詰まった絵描きがラリって血みどろ絵画を描く映画もあった、名作カルト『赤い影』はそういえば最初の方で壁画修復なんかしておりましたな。というわけでこの『呪われた絵画』もなんかそういうやつだろう知らんけど、と思われた…のだが!

ぜ、全然違う! 全然そういうのと違うじゃないか! そしてたぶんこれは今のところ今年2024年に日本公開されたホラー映画の中でいちばんのホラー映画だと思う! 曰くありげな古城! 霧に包まれた森! キモイ巨漢の殺人鬼! 正体不明のおそらく地底人! 僻地に蔓延る邪教! 首切り! 足チョンパ! 目玉抉り! 大腸引き出し! 顔面皮剥ぎ! ボウガン串刺し! 切断手足でいっぱいのドラム缶! めくるめくホラーの見世物小屋的地獄巡り!!! にも関わらず下品にならずどこかエレガントでさえあるヨーロッパ感覚!!! 素晴らしいですね~こういうのが良いホラーだと思いますよあたしゃあ。ホラーはやはり夢を見せてくれるものであってほしい。とびきりの悪夢でうっとりとつまらない現実を忘れさせてほしい。そしてこれは今時珍しくそんな映画だったのだ。

この映画がイタリア映画というのはとてもイイ話である。イタリアのホラーであるから即ちこれはイタリアン・ホラーということになるが、イタリアン・ホラーといえば1970~80年代に世界を席巻した一大ジャンル、折しも現在その代表格であるダリオ・アルジェントの初期作がリバイバル公開中だが、1990年代に入りスプラッターブームが下火になると共に『羊たちの沈黙』の影響でサイコホラーブームとかいうものが訪れてしまうと血と情熱と雰囲気と流行り映画のパクリだけで突っ走りがちな安っぽいイタリアン・ホラーは製作本数激減、その代表的監督たちも次々と鬼籍に入りすっかり「あのころ」なジャンルになってしまった。

あの素晴らしいイタリアン・ホラーをもう一度。『呪われた絵画』の作り手にそうした思いがおそらくあったであろうことはイタリアン・ホラーの立役者マリオ・バーヴァの息子ランベルト・バーヴァの名前がエンドロールのスペシャルサンクス欄に載っていたことからうかがえる(言われてみればストーリーもなんとなくランベルト・バーヴァの『デモンズ5』と父バーヴァによるそのオリジナル版『血ぬられた墓標』に似ている)。イマジネーション豊かな残酷描写、ヨーロッパの歴史の重みを感じさせるロケ地、細部の汚しが見事な美術、おぞましさと悲哀の歪なブレンド、そしてわかったようでわからない見せ場至上主義でいい加減なストーリー展開…ダークなオチも含めて実にイタホラ観てるなーという感じである。これで劇判にピノ・ドナッジオとかファビオ・フリッツィの美しいメロディが入っていれば完璧だったがまぁそれは高望みってもんでしょう(このロックテイストの劇判もそれはそれで良かった)

そういえば今年は『サウンド・オブ・サイレンス』というイタリアン・ホラーも日本で地味に公開されていた(製作はどちらも2023年)が、そちらは幽霊ものであるからして残酷描写とかはないものの、見せ場至上主義の作りにはたしかにイタリアン・ホラーの血を感じたりもした。もしかすると近年イタリアン・ホラーの面白さが見直されてきているのかもしれんね。怖いだけじゃあなくそんなことまで考えさせられて嬉しくなってしまう、実によい、実に実によいホラー映画が『呪われた絵画』でありました! あでも邦題はこれだと内容が伝わりにくいっていうかとくに面白そうな感じしないので、『猟奇地獄! ヘル・デモンズ』とかにした方がよかったと思います!

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