《推定睡眠時間:30分》
衝撃! 観に行ったらキャパ300のシアターで客入り7割強! ということは少なく見積もっても150人もの大衆が惨殺と鮮血と肉片を観に映画館に押し寄せたことになる! アメリカでスマッシュヒットを記録した前作『テリファー 終わらない惨劇』を日本公開時に観に行った時は劇場も違うから単純比較はできないとはいえやはりゴア映画のくせに上映時間138分とかいう謎の超大作っぷりが響いたか客足はまばらであくまでも好き者だけが気持ち悪く興奮している感じだったが…しかし今回は違う! 前作の日本公開時キャッチコピー「全米が吐いた!」を超えて「世界が吐いた!」へと進化したキャッチコピー通り今回は日本人もちゃんと観てちゃんと吐いた!
最近『M3GAN/ミーガン』みたいな全然怖くなく逆に家族愛とかを推してきてほっこりさせられるやさしいアメリカのホラー映画がSNSで話題になったりしていたので怖いホラーとか残酷なホラーはもう時代が求めていないのか…と悲観していたが、いやそんなことはない! プーさん大虐殺映画『プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち』も新宿のシネコンで堂々と上映されて結構お客が入っていたし、結局いつの時代も大衆は怖いものや残酷なものを観たがるのである! フランス革命だって最後はマリー・アントワネットの残酷ギロチン処刑ショウで革命大衆は大喜びしてたっていうもんな! まったく人間てのはろくでもねぇもんだぜ!
さてハロウィンを舞台にゴア殺人鬼アート・ザ・クラウンが大暴れしていた前二作と違って今度の舞台はクリスマスだがその変更に深い意味はなくやってることはまぁ基本的に同じだ! すなわち惨殺! ひたすらに惨殺! ただしカット割りやカメラワークなど見せ方は前よりちょっと洗練されているのでハーシェル・ゴードン・ルイス的な人体解体ショウの趣は後退し一般的なスラッシャー映画に近くなったかもしれない(といってもヒドい殺し方には変わりない)。新機軸は拷問系ゴアシーンとファンタジー設定。前作は途中から唐突にファンタジーになって「エッ…?」みたいなところがあったが今回は最初からアート・ザ・クラウンをこの世に降臨した地獄の悪魔と設定、そのため殺しても殺しても殺すことはできず死んだ肉体は乗り換えて再び惨殺、更にはアート・ザ・クラウンの犠牲となった人間も魂を悪に染め上げられゴア殺人鬼と化してしまう! 拷問ゴアというのはこの魂を奪われてしまった人が「ぐわははは! 憎め! 恨め! 絶望しろ! 貴様の魂がドス黒くなったときにその肉体は我が物となるのだー!」とかいってやるのである。
ストーリーテリングは一作目から変わらず下手なので何をやっているのかよくわからないところもあるがいろいろと盛り込もうとして失敗していた観のある前作に比べれば作品の軸が明確になってずいぶんとちゃんとしたスラッシャー映画になったなぁと思う。アート・ザ・クラウンの傀儡となった一作目の主人公らしい女の人とアート・ザ・クラウンの残酷殺人バディは役割分担も明確で(アート・ザ・クラウンが喋らないので女の人が状況説明をしてくれる)なかなかサマになっていたし、前作の生き残りの主人公女子とアート・ザ・クラウンの剣とチェーンソーが火花を散らす宿命の対決も盛り上がる。単に残酷な殺しがたくさん出てきておもしろいだけではなく悪と恐怖に屈さぬ勇気を持てば極悪非道の殺人鬼にだって打ち克つことができると明確に示してくれているのでタメになる映画といえよう(その反面で初作にあったアングラ感とか恐怖感は薄れているのでコアなゴア映画ファンには物足りなさがあるかもしれないが)
結構寝ていたためにどこに出ていたのかわからなかったが『デビルスピーク』でホラー映画ファンの心にその名を刻んだクリント・ハワードもエンドロールによれば特別出演、更にはホラー特殊メイク界のレジェンドの一人トム・サヴィーニも出演に加えてゴア描写監修もやっているようなことがエンドロールに書いてあったと思ったがゴア描写監修に関してはIMDbのスタッフリストを見ても載ってなかったので詳細不明。まぁともかく、ホラー映画ファンには嬉しいサービスである。
思えば『13日の金曜日』も一作目では殺人鬼はジェイソンの母、二作目はジェイソンが殺人鬼だが被っているのはホッケーマスクではなく布袋(この姿のジェイソンが一番怖いと思ってる)、ホッケーマスクを被った不死身の殺人鬼ジェイソンというキャラクターが完成すると共にシリーズの基礎が固まったのは三作目だった。アングラ・ゴアの空気色濃い一作目、商業映画として作品の方向性を模索した二作目を経て、『テリファー』シリーズも今回の三作目で諸々固まった感じなので、なにやら権利関係で揉めて続編が全然製作されない『13金』なんかに代わって『テリファー』シリーズには今後も続いてもらいそのうち『ジェイソンX』みたいにアート・ザ・クラウンさんには宇宙に進出してもらいたいと思います!