《推定睡眠時間:0分》
あまりゾンビが出そうな映画のタイトルっぽくないが予告編にゾンビと邪教集団みたいのが出てきてたのでオカルト系のゾンビ映画かなと思って観に行った結果の感想は一言、疲れた。とにかく疲れた…いつ終わるのかいつ終わるのかこれはもう終わりですよねうん終わりに違いないと思ったらまだ終わらないあぁ…そんな感じである。
舞台は韓国山奥のあんまり廃校っぽくない廃校。そこでは低予算の映画撮影がされていて主人公は主演女優として招かれた。だがこの撮影どうもおかしい。監督の演出意図は読めないしスタッフがボイラー室に入ればそこには謎の呪文が壁にびっしり。やがて惨事が起こる。スタッフの一人がフラフラとダンスシーン撮影中の屋上に現れ台本をなぞるかのように(人が屋上から転落死するシーンがあった)他のスタッフやキャストたちの前で飛び降り自殺を遂げたのだ。だがこれで恐怖は終わらないいやむしろ、こんなもんは本当に本当にほんの序章に過ぎなかったのだ…。
最近『韓国映画100年史――その誕生からグローバル展開まで』という本を読んだらなんでもネット大国韓国では日本なんかよりも全然ウェブトゥーンと呼ばれるネット漫画の成立が早く、ゼロ年代以降はウェブトゥーン原作の映画も数多く製作されるようになったらしい。日本で公開された韓国映画でパッと思い出せるものとしては『整形水』とか『怪談晩餐』というのがウェブトゥーン原作。ホラーが多い(俺の嗜好が相当偏っている可能性もあるが)
この『THE SIN 罪』はウェブトゥーン原作ではないと思うのだが、そうした流れを踏まえれば案外腑に落ちる気もするのだった。というのもウェブトゥーンの読者はブラウザのタブを読んでる途中でいつでも切り替えてしまえるわけである。だから少しでもつまらない展開が続いたらアッサリ途中で読むのやめちゃう。すると作者の方としてはとにかく読者を飽きさせないようにショッキングな展開や絵を満載する必要が出てくる。ということでウェブトゥーンはその場その場での刺激を追求する俗悪かつ破天荒、というよりも支離滅裂な展開になりがちである(※漫画ほとんど読まないので想像です)
昨今の韓国娯楽映画にはこういう作りの映画がやたらと多い。急展開に次ぐ急展開、ジャンルは目まぐるしく変わり次々と人が死ぬが、そうと思えば死んだと思われた人がひょっこり出てきてどんでん返し、バイオレンス描写やグロテスク描写はいっぱいで心安らぐ暇がない。まぁホラーを観に来ている観客が心の安らぎを求めたりはしないと思うのでそれはいいのだが…こんな場当たり的なオモシロを詰め込まれると緊張感とか迫真性なんか画面に全然なくなってしまって途中から「もうどうでもいいよ!」って気分になっちゃうのだ。俺の中でこれに該当するのが『オオカミ狩り』とか『デシベル』であった。
でこの『THE SIN 罪』もそういうやつであった。『女優霊』を思わせる序盤(撮影現場での惨事とか転落死体の足の捻れ表現からすると意識はしてると思う)は時系列をとくに意味なく乱した編集やとくに意味のないクロスカッティングがうざったいもののまぁまぁ不穏な雰囲気が出ていてイイしいざゾンビが出てきてからのサバイバル模様もテンポがよくて楽しい、ところが! なにやら宮台真司っぽい見た目の刑事率いる警官隊が撮影クルーに合流してからの展開ときたらもう…ホントにうんざりさせられてしまったよ!
まずこの刑事と警官隊は実はストーリーの本筋と関係ないので出てくる意味が一切なかったというのもすごいが、以降はジャンルがオカルトでもホラーでもなくどんでん返しの無駄な大連続ミステリーになってしまうのでゾンビが出てこない! わかった、どんでん返しの連続は受け入れよう。そのどんでん返しは無理があるだろと思わざるを得ない瞬間が5回ぐらいあったがそれはいいとしてゾンビが出ないのはどういうことなんだ。警官隊は銃を持ってるからゾンビと戦わせることだって出来たはずだ。ところがそれがないではないか! それを描かず回想のまた回想のまた回想のまた回想みたいなことになって続々と「聞いてませんけど!?」的な新キャラが登場して実はこれこれだったのだと説明したりするではないか…これにはガッカリ!
オマケに『The Witch 魔女』の成功に味を占めての二番煎じみたいなラストは続編に繋げる気満々でこれ一作で物語が完結しないというヒドさ。腐っても韓国は娯楽映画大国であるからこの映画も映像力は高いが、映像が良ければイイってもんでもないだろう映画は。だいたいその映像力にしたってさっき書いた無駄なクロスカッティングもそうだが無駄なスローモーションとか無駄な後ろ姿思わせぶりショットとかテクニックを不要なところで無駄に使いすぎているので冷める。こんなことをされたら「THE SIN」というタイトルの不可算名詞に冠詞を付けるのは文法的に正しいのかと完全に難癖な文句を言いたくもなる(「その罪」ということなのだろうが)
まぁ、あえて好意的に言えば、ウェブトゥーンみたいに刺激の連続で飽きない映画と言えるのかもしれません。でも映画とウェブトゥーンってやっぱ別じゃないすかねっていうのはこの映画に対してだけじゃなくて最近のウェブトゥーンみたいな韓国娯楽映画全般に対して思います…!