《推定睡眠時間:40分》
びっくりである。この『うちの弟どもがすいません』を含めてわずか一ヶ月の間に『あたしの!』『矢野くんの普通の日々』とキラキラ映画が三本も公開、キラキラ映画が第二黄金期というべき活況を呈しているではないか(第一黄金期はいつだったのか?)。戦争だの物価高だの戒厳令だのシルベーヌバーの売り切れだのなにかと暗い世相が人々をキラキラの夢へと向かわせているのだろうか。いや、そんなことはまったくないだろう。ただ単純にキラキラ特攻映画『あの花の咲く丘で、君とまた出会えたら。』が去年大ヒットしたのでそれを受けて急遽製作された作品たちが今公開されているだけだと思います。
ということで『どもすい』であるがすいませんとタイトルで謝っているのでこの弟ども何かやらかしたのかと思えばとくになにもやらかさない。えぇ…。更に意外なのはイケメン弟たちはみな旧ジャニーズ(現STARTO)の連中ということで予告編はポップで明るく楽しい感じだったのだが実際はむしろ暗さすら感じさせるしっとり系。えぇ…。意外ではなかったのは監督が面白くないキラキラ映画を撮る三木康一郎という点だった。ついこないだの監督作『先生の白い嘘』がウソのような凡庸演出っぷりにやはりこの三木はダメな三木と再確認。ダメっていうかたぶんキラキラ映画は仕事と割り切って撮ってるから面白味が出ないんだろう。
お話は主人公の女子高生・畑芽育が母親に連れられて4人の息子を持つ再婚相手(麒麟の川島明)の家に引っ越してくるところから始まる、とこう書けばワケアリ感も漂うが母親の再婚に主人公はとくに異存がないらしく再婚相手の新パパも良い人そうな感じとあってすぐに馴染んでしまう。その後、新パパ転勤。母親も同伴。かくして主人公と義理のイケメン弟たち4人の親なし共同生活がキラキラ映画らしく無茶に始まり、主人公が4人の母親代わりとして料理したり洗濯したりあれこれ頑張っているうちに(弟ども手伝えや)、キラキラ映画なので恋心らしきものが双方に芽生えてくるのであった。
キラキラ映画の楽しみの一つといえばデートに最適なロケ地やミュージックビデオ的な構図だが、ほとんどの場面が家の中か学校の中で展開されるこの映画にはそうしたものがたぶんなく、その家もこれといった特徴のない雑然とした住宅街の中にあるので、リアルといえばそうかもしれないが、映えないことこの上ない。カット割りやカメラワークは工夫がなく基本はただ会話を撮ってるだけ。そこにおそらくコトリンゴのやさしい調べがBGMとして乗るが、演出として安直だしワンパターンで気分が全然盛り上がらない。そりゃまぁ色調はパステルでは常時ソフトフォーカス気味なのでキラキラっぽい質感の映像には一応なっているが、それだけで誤魔化すのはちょっと無理があるだろう。
そして根本的にダメなのは主人公の心情変化がわりとガツッと抜け落ちて、途中から主人公に恋する義理の弟たちがメイン被写体になってしまうところ。まぁ4人も弟いるしそれぞれ事情を抱えている風だから原作のいろんなエピソードを取捨選択して2時間以内の映画にまとめるのが難しかったみたいなのもあるんだろうな。それもわからないでもないけれども、キラキラ映画はやはり主人公の女子高生の心情の変化と精神的な成長が柱だと俺は思う。それがなおざりにされているわけだから、そんなもん面白いキラキラ映画になるわけねぇだろとおもいます。プロットも弱くなりますしね、主人公の心情変化にきっちりフォーカスしないと(だから日常生活が起伏なくダラダラ続くような感じになってる)
ネコ顔の畑芽育が嬉々として義理の弟たちのお母さん代わりを演じるのはなんだかギャップがあって面白い。俺にとってこの映画のよかったところはそれぐらいだった。せっかく設定が無茶で夢があるんだからもっと伸ばせたと思うが…。