ディズニー冒険拒否映画『モアナと伝説の海2』感想文

《推定睡眠時間:40分》

映画館でこの映画の予告編を見て大丈夫か? と思ってしまったのだがそれというのはCGアニメがいやにチャチく見えたからで、なんやかんや言われても天下のディズニーさんがこのクオリティのアニメーションを劇場用アニメの最新作として出してくるんじゃろかしかもプリンセスもので、とか考えてたところ人から元々は配信用アニメだったのを劇場用に作り直したのがこれらしいということを教えられる。はーなるほどそういうことですか。配信用アニメと劇場公開用アニメならかける予算も違うだろうし求められるアニメーションのテイストも違うだろう。元々は配信用アニメだったといっても全面的にブラッシュアップされてはいるのだろうが、それで補いきれなかった結果がこれというのがたぶん実際のところじゃないかと思います。

CGがチャチいといっても基礎的なレベルが低いわけではないと思うので、そう見えるにはおそらく構図やカメラワークに依るところが大きいんじゃなかろうか。こうね、なんついますか日本のテレビドラマみたいに映像がベタッとしてる。ひとつひとつの画作りにこだわりというものが見られない。映画を作っているという感じじゃなくてあくまでも物語をただ撮っているという感じ。だからCGの限界みたいのが露出してしまう。背景に映り込む森の自然はまるで生気がないし、ソフトフィギュア的な質感のキャラクターは手を抜いたように見えてしまう、前作でワクワクさせられた水の動きもコンピューターががんばって演算してるなー感満載だ。今のディズニーになにかを期待しているわけではないがそれでもこれはちょっとガクッとさせられる。なによりアニメーションのスゴさ面白さで天下を取った映画スタジオなのに、こんなに作り手の美意識のないシケた映像をプリンセスものの新作としてお出ししていいんでしょうか…まぁ売れてはいるようだからいいのでしょうが…。

アニメーションにもガクッときたがストーリーの方もあんま面白くないのでガクガクであった。今回のお話はというとなんでも世界にはその昔シリアのような(タイムリーですね)交易の要衝の島があったのだが神様が怒って封印してしまいそのため世界の様々な島が孤立してしまった、そのような神託を受けたモアナが島を復活させ世界を再び繋げるために再び大航海に出るということでだいたい『ドラゴンクエストⅦ エデンの戦士たち』。現在『ドラゴンクエストⅢ』リメイク版が絶賛発売中なのでこれまた謎にタイムリーな感じである。

しかし…このへん元々は配信アニメだった所以なのだろうか、プロットもキャラクターも弱くてどうも大航海にワクワクさせられない。この島が崩壊の危機に瀕してそれでモアナが旅に出るとかならおう頑張れってなるがそういうわけでもなくモアナの島は平和そのもの、モアナ自身も新しい島があれば面白いなぐらいは思っているらしいが深刻な悩みを抱えているわけではないので、失われた島を探す危険かもしれない航海に危機感や冒険感が出ないのだ。旅に同行する島のほかの住民たちももう前作なんか7年も前の映画なので(知ってびっくりしてしまった)前作でどんな感じだったか覚えてないが、少なくともこの映画ではその性格やバックボーン等々キャラクターの掘り下げはほとんどされないので、みんなで一緒に大航海! とやられたところで盛り上がれるわけもなく「誰?」となってしまうのであった。

たぶんこんな風にアラばかりが目立ってしまうのは身も蓋もないがこれが『モアナと伝説の海』という世界を描いたものだからだろう。多少アラがあったって完全新作なら気にならないわけで、ディズニープリンセスでいえば『ラーヤと龍の王国』なんか新境地を切り拓こうという志にあふれた力作で面白かったのだが、改めて考えてみればラストバトルが盛り上がらないとかライバルキャラがあんま生かせてないとか無駄に広げた世界観がわりと空気とかいろいろダメなところは結構ある。でもそれよりも目新しさの方が勝るんだよな完全新作だと。『モアナと伝説の海2』の場合はその世界もキャラクターも面白い水の表現なんかも全部前作で見てるので…知った世界の冒険というのは、もうそれだけであまり面白くないものだろう。

それでも完全新作ではなく『モアナ』より後年の『ラーヤ』の続編でもなく7年前の『モアナ』の続編がディズニープリンセスの新作としてわざわざ映画用に作り直されたのはぶっちゃけそれが安パイだったからだろう。『ラーヤ』が売れなかったのはちょうどコロナ禍というタイミングの悪さとディズニー経営陣が映画館の都合など考えずテメェらの懐具合だけを気にしていくつかの映画の公開を取りやめディズニープラス配信に回したカス経営判断のせいだと思われるが、『ラーヤ』が売れなかったという数字はともかく残ってしまった。『ラーヤ』は売れなかったけど『モアナ』は売れたよな、じゃあ『モアナ』の続編作ればイイじゃん。たぶんそんなカス経営判断の結果がこの映画なんじゃないだろうか。みんな冒険して新しい世界に出よう! みたいな内容なのに、それを作ってるディズニーの経営陣は冒険する気がゼロというのは皮肉が強すぎないか。

もっとも、今のディズニーの主要観客はぶっちゃけディズニー映画に目新しさなんか求めていないかもしれない。むしろよく知ったお馴染みの世界が与えてくれる安心感や最低限の面白さは保証してくれる安定感をディズニー映画に求めているんじゃないだろうか。その証拠になるかどうかはわからないが最新の全米映画興行収入ランキングを見ると1位が『モアナと伝説の海2』、2位が日本ではこれから公開の『ウィキッド ふたりの魔女』、3位は日本でも公開中の『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』で、上位3作がいずれも続編かリメイクというつまらなさ。ケッ! ディズニーもつまらなくなったがアメリカ映画界もつまらなくなったもんだぜ! 表面的には先進的なようでいて本質的には保守的なアメリカ映画のダブスタっぷりにもガッカリさせられる『モアナ2』なのであった。

※ただしモアナの活動的で健康的なキャラクター、とくに物を掴んだときの二の腕の筋肉の盛り上がりなどの表現は良かったと思います。強い女だいすき。

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4 Comments
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匿名さん
匿名さん
2024年12月9日 7:29 PM

本当に本当におっしゃる通りだと思います…。
今のディズニーにはクリエイティビティが全く感じられなくて悲しいです…。
ラーヤ、大好きなのでにわかさんが褒めてくださっていて嬉しいです!確かに色々アラはある映画なんですがそれが気にならなくなるぐらい色々な要素が魅力的なんですよね…!

カトケン
カトケン
2024年12月10日 1:44 PM

「ウィッシュ」(あちらも粗いが挑戦的ではあったという意見もあった)などでの昨今のディズニーの過剰な思想の押し付けに怒ったりしていたディズニーファンの人達にとっては「こういうのでいいんだよ」的な感じで安堵の声が広がったりしている感じですが、まあ結構そこのバランス取りは難しい所ではありますね