《推定睡眠時間:40分》
さいきんの中田秀夫はすっかりダークサイドに堕ちたと『女優霊』ぐらいからのファンに言われることはいまだにあるようで近作『“それ”がいる森』もクソ映画として評判になってしまったわけだが、中田秀夫といえば日活撮影所出身の職人監督、あくまでも想定観客の望む映画を作る人であるから、中田秀夫の映画がしょうもなく見えるとすれば、それは想定観客のレベルに合わせているだけなのだとはこのブログで過去5回は少なく見積もっても書いている気がする。じっさい中田秀夫の近作というのはなんだかんだどれも話題になってしかもちゃんとヒットしているのであった。『スマホを落としただけなのに』は意外な人気によりシリーズ化され先々月ぐらいに公開された最新作ではスマホを落としただけなのに核ミサイルが飛んでくるかもしれないというまさかの危機的状況が予告編で示唆されSNSでネタ映画として大喜利的大盛り上がり、『“それ”がいる森』も笑えるクソ映画としてアマゾンプライムに入ってからはカルト映画的な人気を博しているようだ。
数年前に『スマホを落としただけなのに』を映画館で観たときには『女優霊』や『リング』の頃のコワさなどもはやカケラも無い説明過多のドヌル演出っぷりに中田秀夫 is DEAD!!! と叫び出しそうになってしまったが、その後も辛抱強く中田秀夫映画を観続ける中でわかったのは今の中田秀夫は明確に小中学生あたりをターゲットに映画を撮っているということ。『スマホを落としただけなのに』は映画を観に来ていた高校生カップルが映画館にスマホを落として帰るシーンで終わり「次はあなたかもしれませんよ~」とやっていたし、『“それ”がいる森』は小学生軍団が森で遭遇した宇宙人に食われる映画である。そのいずれの作品も身体的にか精神的にかは知らないが小中高生と思われる観客たち(ぼくもふくみます)にネタ枠認定されながらも大いに楽しまれているということはすなわち中田秀夫の勝利であった。負けていたのは中田秀夫の路線変更を見抜けなかった映画マニアたちの方だったんである。
さてJホラー中興の祖からキッズムービーの名手へと変貌を遂げた中田秀夫にとってこの映画はもうぴったりの企画であっただろう。『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』、といえば俺のようなアダルトパーソンには馴染みがないが、小学生対象の好きな本アンケートなどを取るとここ何年もトップに君臨しているほどのキッズ必読書である。現代の『ズッコケ三人組』か『地獄堂霊界通信』とでも言えばいいのだろうか、それともいろんな願いの叶う不思議なお菓子をくれる店がありキッズがそのお菓子を食べて大成功したり大失敗したりするという基本構造からすれば新世紀の『ドラえもん』か『笑ゥせぇるすまん』とでも言うべきだろうか、ともかく、『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』といえば今や知らない小学生はいないほどベストセラー児童書なのである。これを監督するに数々のバカっぽい映画でキッズたちを楽しませてきた中田秀夫ほどの適任はない。しかも脚本は数々のヒットアニメを手掛けた吉田玲子とサポート体制も万全であった。
というわけでワクワク気分で観に行きましたがうんこれはすごくキッズムービー! すごくキッズムービーだよ! なんか懐かしいな! むかし東映アニメフェアで『ズッコケ三人組』の実写映画を観たような気がするが、あの感じだ! 今の邦画には珍しい実写のキッズムービー! 大人観客や大きいお友達の目など完全度外視した子供展開と子供演出! 楽しそうなお菓子ガジェットとわかりやすい教訓! あえて作り物感を出したと思われる温かみのある駄菓子屋のセット! すべてが子供向けに完成されている! 完成されているがゆえにあんまり面白くないところも含めてかなりパーフェクトに近いキッズムービーであった!
ということで俺はこの映画が観客に想定している年齢層じゃないし今回は本格的なキッズムービーなのでネタ要素もなく書くこともあんまないのだが、しかしこういうしっかりと子供に向けて作られたキッズムービーを観るとなんか安心するよな。だってさいきん作り手自身が精神的に子供だから子供向けに作ってても自分の欲望願望が混ざって子供向けになりきれてないみたいなキッズムービーって多いじゃないすか。まぁ実際に多いかどうかは知りませんが体感として。あとは最初っから大きいお友達向けに作られてる疑似キッズムービーとかね。
『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』はそういうんじゃなかったすね。これはもうちゃんとした大人があくまでも子供向けに作ってる。大人だからこそ作れるキッズムービー。俺は大人が大人になることは大事だと思っているので、こういう映画はいいものです。あと銭天堂店主の老婆を楽しそうに演じている天海祐希、楽しそうなのも良かったし老けメイクでも隠しきれないカッコよさに改めて惚れました! こーんなお人がお菓子をくれる駄菓子屋さん、俺も行ってみたいぞ!