田舎農場最後の一夏映画『太陽と桃の歌』感想文

《推定睡眠時間:30分》

スペインはカタルーニャ地方の大家族田舎農園が舞台なので都会っ子なんかと違ってこの家のキッズたちは裸で家の中なんか走り回ったりしちゃうのだがそのキッズの一人が女児だってんでこの日本公開版では乳首にモザイク。法令に触れたりしたら嫌だな~嫌だな~という稲川淳二的自主規制なのだろうがいらんことすんな。日本版がモザイクで台無し映画といえば『ぼくのエリ』が有名だが局部ならまだしもこちらの場合は乳首にモザイク。乳首にモザイク!? あのな。5歳くらいの女児の乳首が見たいわけじゃない。そういうことじゃないんだ。

いいですか、大人の女の人でも男の人でもいいが乳首にモザイクなんて映画で見たことありますかあなた。そりゃゲームとかだったらレイティングを下げるために裸体の乳首を描かないとかあるよ? 映画でも『パラサイトイヴ』の葉月里緒奈は乳首がCG処理され見えなかった。しかしそれは最初からそのように作られているからであって、完成品の乳首に後からモザイクをかけるのとはワケが違う。なにかと児童ポルノに厳しい昨今であるが5歳児の乳首にモザイクなんて…そんなの逆効果ではないか。

なぜならロリコンのみなさんには申し訳ないが一般的に言って5歳女児の乳首はエロの対象ではないからである。だからモザイク必要ナシ。反児童ポルノを標榜するならこれを一般認識とすべきである。ところが今回は配給さんがビビって5歳児の乳首にモザイクをかけてしまった。5歳児の乳首に成人のチンコマンコと同様にモザイクをかけてしまうということは、即ち5歳児の乳首をエロ対象としているわけであり、むしろ「幼児の乳首はエロいもの!」というロリコンの視点に立ち、その理屈を追認する行為だろう。これじゃあ本末転倒だよ!

映画自体は良い映画だった。代々家族でやってきた桃農園がある夏とつぜん地権者から明け渡し要求、地権者の方は農地をソーラー発電所に転用したいらしいが桃農園以外の仕事なんかやったことないしだいたい地元から全然出ない桃農園家族としてはそりゃ困るなのだが、地権者といっても知り合いだし大袈裟に抗議することもできず、最後の一夏はこれといってドラマティックなこともなくいつもの夏と同じように淡々と過ぎていく。その中で何も変わらないような風景が、表情が、関係が少しだけ、しかし確実に変わっていくこのポエジーである。

リアリズムのタッチで半ばドキュメンタリー的に田舎の家族農園の日常を捉える映画なので物語的な面白味は乏しいが、世の中が犠牲を伴いドラスティックに変化する時には世界から都合良く真っ先に忘れられる田舎とそこに住む人々の姿を、真正面から見据えてはっきりカメラに収めてやろうとする大胆不敵な作劇は、手法こそ違えどジョン・フォードの『怒りの葡萄』『我が谷は緑なりき』等々の田舎者家族ドラマを彷彿とさせて、じんわりと感動的。終わる終わると言いつつとくに終わる気配がないのでなんや終わる終わる詐欺かと思ったところで不意に訪れる終わりの衝撃と切なさ。その一方でメジャー資本による果物買い叩きに抗議する農民たちによるトラクター大渋滞デモのシーンなどささやかなユーモアもふんだんにある。まことに豊穣なる映画と思う。

そういう見事な映画を5歳児乳首モザイクとかいうビビり自主規制で台無しにしないで欲しいよなー。そりゃ日本語字幕を付けて日本で配給してくれるのはありがとうございますだけどさー。今やキッズが家ん中を裸で走り回ることさえ許されない時代かい。まったくなんという不寛容、未成熟。そんな世の中の波にこの映画もまた(日本版だけだと思いたいが)飲まれてしまったのだと思うと、見渡す限りすべてが遊び場という例の5歳児の奔放な遊びっぷりがとりわけ印象的な映画であっただけに、より一層切ない。

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さるこ
さるこ
2024年12月20日 5:52 PM

こんにちは。
おお、これは『ミツバチと私』的な瑞々しいアレか?と思ったらスペインの『家族を想うとき』風味で、でもやはり独自固有の少しドロ臭い(誉)ヤツでした。
ボカシには気付かなかった…(『ぼくのエリ』のはひどいですよね、同感。アレでは映画が伝わらない!)少し前に見た、北欧のサウナの映画(だったかな?)では、成人男性の性器は映ってるけど子供のはぼかしてあって驚いたことがありました。小児性愛に厳しいお国柄では?と友人に言われました。
本作は、あのちびっこギャングの牽引につきますね。最初の双子のTシャツ、ビックリしました!

さるこ
さるこ
Reply to  さるこ
2024年12月20日 5:53 PM

ところで、桃をあんな風に乱雑に扱って大丈夫なんですねー。日本の白桃とは違うんですね…