細胞さんいつもありがとう映画『はたらく細胞』感想文

《推定睡眠時間:15分》

巷ではインフルエンザが流行っているそうで先日俺もインフルエンザかもしれない重めの風邪症状で寝込んだのであったが布団の中でうんうん唸りながら体調の一進一退を半ば機能不全状態の脳細胞で観察して実感する細胞たちの頑張りっぷり、そしてウイルスなのか菌なのか知らないが敵の狡猾っぷり。やはり戦は兵站だ、とにかく細胞たちに物資補給をしなければ話にならぬと栄養分を補給しようとするものの胃は今にも逆流しそうだし頭痛により動きたくない。

淘汰の結果として偶然獲得されたのであろうウイルスだか菌だかによる巧みな物資補給路の遮断戦略に脳細胞は「とにかく寝よう」と実に無能な司令塔っぷり、その間にも栄養の足りない中で白血球たちが懸命にウイルスだか菌だかとの白兵戦を戦い続けてくれたわけだから白血球には大感謝である。ご褒美としてその日の夜はシルベーヌバーを2本食べた。俺へのご褒美ではなくあくまでも白血球へのご褒美として。

とまぁそんなわけで『はたらく細胞』です。ご存じ人体の細胞擬人化コミックを実写映画化。漫画もアニメも観てないのでそちらのストーリーは知らないが、この実写映画版ではごく平凡な父娘の生活と、それぞれの体内細胞たちの働きと戦いをバカバカしい笑いとアクション満載で描く。監督は実写版『テルマエ・ロマエ』とか『翔んで埼玉』の武内英樹。

ミクロ世界の擬人化映画といえば俺の中では『宇宙で最も複雑怪奇な交尾の儀式』、このバカコメディでは精子(オッサン)たちが着床を目指して陸上競技場で必死に競走をするが突如として目の前に壁が現れ激突しゴール断念、チクショーなぜなんだコノヤローと精子たちは叫ぶがそれは精子たちの宿主がコンドームを装着したからなのでしたとまぁそういう感じであった。

なので『はたらく細胞』も精子さんは出てこないだろうとしても同じようなバカっぽいやつだろう監督『翔んで埼玉』の人だしと思ったら映画だからなのか難病闘病展開になってあれなんか思ったよりスケールでけぇあとシリアス。くしゃみ発射とかウンコと肛門括約筋の戦い等々はじつに下らなくて楽しいのだが難病との戦いとなると体内ワールド的には世界滅亡の危機であり、たかだか映画開始から数十分程度の付き合いとはいえ擬人化された各種のはたらく細胞たちが次々と戦死し世界が崩壊していくのだから、精子がコンドームと激突するのとはワケが違うのだ(コンドームに激突した精子も死んでいるだろうが)

アクションは結構本格的でとくに白血球こと佐藤健のナイフさばきはスタントダブルを入れやすい衣装ということもおそらくあって切れ味抜群、NK細胞・仲里依紗とキラーT細胞・山本耕史の戦闘狂っぷりもハマっていて部分的にはすわ『キングダム』(古代中国のやつの方)かと思わされたりする迫力だが、ただ俺としてはどちらかといえば…こう…もうちょいバカな…そうだねウンコを通そうとするナントカ筋みたいのと肛門括約筋のバトルを力士軍団とラガーマン軍団の取っ組み合いで表現したバカシーンみたいなあれだね…全編あの方向性でさまざまな生理現象を映像化してくれたら良かったのにとおもった。

とはいえ劇場に満載の冬休みキッズたちは楽しそうだったし笑ったりハラハラしながら人体の仕組みがお勉強できてタメになる、赤血球さんも健気でカワイイのでこれはこれでまぁよいか。人体という極小にして広大な共産主義社会を維持するために一ミリの自我も持たずに社会奉仕し時には自ら命を捧げてくれている各種細胞さんたちに報いるために体を労り、そして細胞たちの歌に『ブラッド・ミュージック』のごとくたまには耳を傾けようと思える、『はたらく細胞』なのでした。

※自由意志など当然無くあるとすればそれはがん細胞のような破壊的なものでしかありえない細胞たちの世界を人間サイズに置換しようとすれば全体主義国家の形を取るほかないが、それに呼応するかのように阿部サダヲと芦田愛菜の父娘も娘が死んだ母親の代わりに家事をして家計を稼ぐ父を支えているとか保守的な関係性である点は、父の崩壊寸前の体内が敗戦を目前にした戦中日本のパロディとして描かれているあたりも含め、掘り下げれば何かおもしろいものが見えてきそうな気もしないでもない。

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