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田舎のおばあちゃんが振り込め詐欺に引っかかってショックのあまり即自殺という冒頭の超展開からしてバカ丸出しの脚本は信頼のカート・ウィマーであった。カート・ウィマー脚本。みなまで言うなという感じであるが伝わらない人もいると思われるので少しだけ言えばこの人はリメイク版『トータル・リコール』において近未来の世界ではオーストラリアの貧乏労働者が地球のコア貫通地底列車で毎日イギリスの工場まで通勤しているというすごい頭の悪い夢のある(そしてあまり意味のない)設定を考案した人である。監督としての代表作はもちろんボンクラ映画の定番『リベリオン』。配信がないのかなんなのか知らないが(※配信Amazonにありました)近年SNSで無駄に伝説化している気がするがちゃんとした映画じゃなくて中学生の夢が詰まったボンクラ映画ですからねあれは。
そのカート・ウィマーの脚本を武闘派デヴィッド・エアーが主演ジェイソン・ステイサムで撮ったということで、シェーン・ブラック×フレッド・デッカーの『ザ・プレデター』を彷彿とさせるこれはあまりにもドリーム・プロジェクトである。まぁどういう意味でドリーム・プロジェクトなのかはわかる人にだけわかればいい。その結果はであるがなんか意外と跳ねてなかった。おそらくカート・ウィマーの厨二脚本を映像化するにはデヴィッド・エアーは脳筋なりに真面目過ぎたのだろう、振り込め詐欺の犯人グループは秒で判明したが弁護士が強いので警察も事件化できず(そんなわけないだろ)田舎のおばあちゃんの世話になってた一匹狼の養蜂家ステイサムが全員殺しに行くあたりまではまだデヴィッド・エアーの対処可能な範囲だったが、その後の『ジョン・ウィック』二匹目のドジョウを狙ったような厨二展開とパニッシャーよりも強いステイサム無双はもはやエアーの生真面目さでは処理することができなかった…。
これぐらいバカな脚本なら『キック・アス』とか『ガンズ・アキンボ』みたいなお笑いバイオレンスとして映像化してしまえばいいと思うし、実際ウィマーの脚本は随所にコミカルなやりとりを織り込んでいるので(悪役の放つ「そいつは顧客じゃないだろ!」の台詞が最高)コメディを意識している風なのだが、そのへんはあまり活かされなかったようだ。といってもバカはバカであるからきっとこれはアメリカ人が観れば場内大爆笑だろう。日本の観客は意味もなく映画を真面目に観ようとしすぎるが、ステイサムの前に現れる殺し屋的な人の車に殺し屋マニュアル的な本が置いてあったことからFBIがそいつを殺し屋と断定するみたいな展開が当たり前に出てくる映画なんか真面目に観るべきではない。
アメリカ人なら爆笑といえばなのだがこの映画はいわゆる共和党アクションである。みなさんは共和党アクションというジャンルをご存じであろうか。知るわけがないよなだって俺しか言ってないからな。共和党イデオロギーに則った知能指数の低いやたら爆発と殺人が出てくるアメリカのアクション映画、それが共和党アクションであり、代表的なものとして『ランボー 怒りのアフガン』や『コマンドー』を挙げればもうどんなジャンルかはわかるだろう(『ランボー』シリーズはネオコンも入っているためややこしいが)
その共和党アクションの最新作らしくスーツを着て高層ビルの中で働いている人は全員悪人(あとヨガとかなんかそういうヒッピーぽい趣味やってる人も全員悪人)で質素な暮らしをしている現場労働者は全員善人という実に潔い世界観な『ビーキーパー』だが、ネタバレ回避のために詳細は省くが悪役のモデルはおそらくほぼ確実にヒラリー・クリントンおよびバイデン大統領の息子ハンター・バイデン。ヒラリーとハンターは共和党支持者の敵なので、そのへん当てこすっているんだろう。ハードコアな民主党支持者の人なら苦い顔をするかもしれないが、ここも共和党支持者を中心にアメリカの観客なら爆笑なのかもしれない。
はたして日本でこの映画を観ている観客のどのくらいがこうしたことを理解しているのだろうかと思うとなかなか素直に楽しめなくなってしまう感じもあるのだが、ましかし背景がわからなくてもバカでもわかるやさしい作りになっているためにとりあえず楽しめるというのは共和党アクションの美徳である。爆破! 殺人! 陰謀! 秘密組織! 金持ってるやつは全員死亡! こんな映画が面白くないわけはないので、もうちょっとノリ良く演出してもよかったのにどうせバカなんだからとは思うものの、とにかくスクリーンでなんか景気の良い人殺しと悪党成敗が観たいというときにはよい映画だと思います。それにしてもFBIの巻き添え被害っぷりがすごい!
※どうしてヒラリー・クリントンとハンター・バイデンが共和党支持者の敵でどのへんが映画の元ネタなのかわからない人はロイターの「焦点:米国初の女性大統領か、ヒラリー・クリントン氏の横顔」およびBBCの「バイデン米大統領の息子ハンター氏、2度目の起訴 脱税などで」を読めばなんとなくわかるとおもいます。これパンフレットには載ってないんだろうな。