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こんなタイトルだし主人公の高校生デブは友達のいない映画好きでレンタルビデオ屋でバイトを始めて云々というから高校中退後レンタルビデオ屋でバイトを始めた友達のいない映画好きの俺としては他人事ではないと思われたが他人事だった。こんなに店員と店長の距離が近く従業員間に確執などない上に主人公が連日遅刻などに加えすごい身勝手な理由で店に大損害を出してもお咎め無しのレンタルビデオ屋なんかいくらカナダといってもあるわけがない。
これはドキュメンタリーじゃなくてフィクション映画なのでということではあろうが、いや、そういう問題じゃあないんだ。映画好きのビデオ屋店員を主人公にするならやっぱこう映画好きのビデオ屋店員がグッと来るようなところを出して欲しかったというか…俺の場合で言えばいかに返却されてレジの後ろに積んであるDVDの山をサッサッサッと棚に返却できるかみたいなのがビデオ屋仕事の楽しいところの一つで、タイトルをパッと見ただけではいはいホラーねはいはいSFねとはいはいこれはラベルに書いてないけどリメイク版の方ねと瞬時に把握できるとフフンと得意げになれたもんである。たいへん漠然とした断片記憶で映画を探しているジジィババァの話を聞いてあぁそれは〇〇ちゅー映画ですね! と正解を出すのもまた楽しい。逆に嫌なところとしては延滞金の支払いを求めたチンピラに殴られそうになるとかがあるわけだが、そういうレンタルビデオ屋あるある、っていうか映画好きあるある、これほとんどなかったな。
それというのもこの映画、実は映画好きのお話では別にないんである。冒頭の劇中劇を観ればそのことはよくわかる。これは主人公がノッポの親友(二人が並んだ姿は『ジェイ&サイレント・ボブ』みたいである)と一緒に撮った学校の課題ビデオという設定なのだが、その内容ときたら茶番そのもの、カメラの前でおどけた芝居をして観客を笑わせようとするんである。まったく…憧れ監督がトッド・ソロンズというこの手の映画が友達デブ高校生がこんなふざけた自主映画を撮るわけがないじゃないか。こんなヤツなら俺は天才なんだと思い込んでクソ面白くない陳腐なカス映画をあくまでも本気で撮るはずなのだ。でもそうではないし、そしてこの劇中劇で描かれるのは主人公と親友が毎週土曜日にやってる『サタデー・ナイト・ライブ』をテレビで見る集いなのである。
ようするに主人公にとってもこの映画の監督にとっても映画は『サタデー・ナイト・ライブ』と同列に並べられる存在であり、って別に『サタデー・ナイト・ライブ』を腐しているわけではないがそういえば日本版『サタデー・ナイト・ライブ』ってあれどうなったんですか? ともかく、映画が本気で好きというよりも、この主人公は友達が親友以外にいないから結果として映画が友達になっているのであって、主人公が映画に閉じこもるのではなくリアルで友達を作ろうとがんばるラストを見れば、この監督は映画愛好をいつか卒業すべきものとすら捉えているフシがある。卒業とまでは言わなくとも、大事なのはあくまでもリアルでありリアルの社交であり、映画はせいぜいその隙間を埋めるための道具に過ぎない。タイトルが「I LOVE」ではなく「I LIKE」たる所以である(『クロウ/飛翔伝説』を店員リコメンド棚に置くよう言われた主人公が『クロウ』はDVDジャケットが怖いから置かないと拒絶する場面があるが、『クロウ』をリコメンド棚に置かない映画好き高校生デブとか考えられない話である。カナダの『クロウ』DVDジャケットがどんなもんかは知らんが)
だからこれは映画好きについての映画じゃなくて友達のいない高校生の映画。友達のいない高校生がいろいろトラブルを起こしたり悩んだり成長したりする、下品さのない『スーパーバッド 童貞ウォーズ』みたいな比較的普遍性のあるティーン映画なんである。そういうものとして観ればそんなに悪くはないが別に良くもない。普遍性と言えば聞こえはいいが言い方を変えればそれはよくある話ということなので。あとなんか全体的に甘いし。身勝手な主人公を誰も怒らない。こいつがどんなやらかしをしても平気で受け入れちゃう。そうねそういうやさしい環境の中でゆっくり成長していくっていうのが理想ですよねとは思うが、主人公にトッド・ソロンズ好きを語らせる映画でその甘さはいかがなものか。残酷薄情なえぐい映画ばっか撮ってるぞあいつ。
かつてコンビニの同僚に格ゲー漫画の『ハイスコアガール』が面白いと勧めたらその人は格ゲーのわりとガチめな人だったのでこれはライト層向けの内容だから自分は楽しめないと言っていた。『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』もそんなようなものなのかもしれない。