《推定睡眠時間:50分》
むかし『ティックス』というデカいダニが襲ってくる昆虫パニック映画があって結構面白かったのだがそれとは関係なくこちらは『ディックス』、スペルはDICKSでDICKは俗語でチンチンの意だから、そのまま訳せば『チンチンズ』ということになる。みなまで言うな感満載の丸出しタイトルである。だが日本ではR15ということもありチンチンが丸出しになる場面などはおそらくなかったのでチンチンが苦手な人でもご安心。そもそもそんな人は下ネタが売りであることをポスターや予告編等で全面的に打ち出しているこんな映画は観に行かないだろうが。
さてお話は。半分以上寝てたのでなんかよくわかんない。生き別れの双子バカが会社で出会って意気投合、両親を再婚させようとするらしい…というあたりまでは記憶にあるがそこで寝てしまい目を覚ますとパパがエイリアンの赤ちゃんを育ててるぽい場面で双子が「ママのアソコが光った!」とか言ってて意味不明。なんなんだあのエイリアンは。もぎりでこいつらのステッカーをもらってなにこれ別の映画で渡すやつ間違ってもらったんだろうかと思ったが間違ってないらしかった。
下ネタ満載でかつ狂騒的なミュージカルなのに寝るとはさすがの睡眠鑑賞者と呆れられるかもしれませんが、しかしこれに関してはそれなりに寝る必然性があった。楽しいけど面白くない。楽しげなムードはあるけど演出が平板でギャグが笑えず、ミュージカルシーンの歌やダンスにも目を見張るようなところがない、面白くないんである。主演二人のジム・キャリーのフォロワーみたいな過剰芝居もついこのあいだ『ソニック×シャドウ』で本人の至芸を見たばかりなのでまぁフォロワーはフォロワーやね~という感じだ。
面白くない理由はエンドロールを最後まで見るとなんとなくわかった。そこには2015年にオフブロードウェイでこの映画の舞台版が上演されたときの映像が映し出され、ということはこの映画もともと舞台だったのだ。楽しいけど面白くないの正体はこれである。三谷幸喜の『ギャラクシー街道』とかあのへんの映画と同じで、一口に喜劇といっても楽しい空気で観客を包む舞台の喜劇と積極的に観客を笑わせに行く必要のある映画の喜劇ではコントと漫才のように作り方が異なると思われるのだが、『ディックス』はその映画向けの翻案に失敗してるんである。
監督は『ボラット』や『ブルーノ』といったサシャ・バロン・コーエン製作・主演の映画で監督を務めたラリー・チャールズと知って妙に納得する。『ディクテーター』は普通のフィクション映画だった気がするがサシャ・バロン・コーエン映画というのは基本いたずらドキュメンタリーのようなもんであるから、映画的な演出はあまり施されてなかったわけである。そういう人が監督ならカット割りやカメラワークや編集のリズムといった映画としての演出が平板になるのもまぁそうかと思う。
だからこれはきっとなんかあれだろうほら『サタデー・ナイト・ライブ』のスペシャル版みたいな感じで観ればいいんじゃないすかね。三谷幸喜の映画と同じで面白くはないけど楽しい感じはあるからね。同性愛反対者たちが教会に押し寄せてきて神様が俺もゲイだよと打ち明けるラストはすったもんだの末にすべてがうやむやになってみんなでわいわい踊り出すハッピーさ。あとバカ二人の上司がSMの女王様みたいなサドいデカパイの人でぼくそういう女の人超好きなので超好きでした。