ヒーリングゾンビ映画『アンデッド/愛しき者の不在』感想文

《推定睡眠時間:85分》

この日は既に映画を2本観ていてそのさなかにも頭痛薬を計6錠ぐらい飲んでいるのでもはや起きて観られるわけがなかった。はっきり言って寝るであろうことは入場時にはわかっていたことである。というか半分は寝るための鑑賞といっても過言ではない。前2本の鑑賞は久々に友達と観に行ったこともありいつもの単独鑑賞に比べて疲労度が高く、そこに眼精疲労に寝不足にアレルギー反応なども重なったかとにかく映画を観る体調ではなかったのだ。しかしそのまま家に帰るのも…なんだか逆にストレスが溜まる。その前2本というのは旧作だったので何か1本はまだ見ぬ新作を観て家に帰りたい、ということで新作でかつ観ながら寝られそうだったのがこの映画『アンデッド/愛しき者の不在』だったわけである。

ストーリーは不明である。冒頭は一人暮らしのような老人が家の中で何かをしてアパートを出てどこかへ行く場面と既にそれも定かではないのだから寝っぷりがハンパないが、これが実に静かな導入なのでさぁ寝てくれと言わんばかり。予告編では死んだ人間が帰ってきたと書いてあったからその後この老人の元にも誰かが帰ってきたのかもしれない。所々起きた場面ではこの老人とは別の人がゾンビ娘に何かを教えようとしていた風だったので群像劇だったのかもしれないが、詳細はぜんぜん不明である。しかしゾンビが人を食ってる場面は予告編になかったのでこのゾンビは肉を食べない安全タイプのようではあった。

そこから無害ゾンビ映画の『ウェイクアップ・デッドマン』路線を想像したがこちらの方は『ウェイクアップ・デッドマン』のような感動作ではないらしい。どういう状況かはわからないがある場面ではゾンビ娘がなにやら動物を絞め殺していた。察するにこのゾンビたちは人肉こそ食さないもののコミュニケーションが生前と同じように取れるわけでもないようで、姿形は生前とほぼ変わらないのに(ちょっと腐っているとはいえ)生前と同じようには意思疎通ができない…どうもこのもどかしさ、この哀しみが『アンデッド/愛しき者の不在』で描かれるもののようである。とすればゾンビが凶暴化しないバージョンの『ペット・セメタリー』と言った方が近いか。あれも死んだはずの大好きな人が蘇ってくれたけどなんか生前とは違う感じになってて困る映画だったもんな。

俺にわかることはそれぐらいだが、時折目を覚ました際にほとんどショット単位で飛び込んで来るその映像は静謐さを讃えて美しく、ノルウェーの映画だそうだが雪に包まれた森や湖の風景はどこか『雨月物語』を彷彿とさせる詩情と幽玄を帯びてヒーリング効果大。まるで夢を見ているような…というか俺の場合は実際に夢を見ながらたまに映画も観ているわけだが、睡眠鑑賞により映像が断片化されたことで夢効果が増幅され、はたしてちゃんと観ていたらどうだったかはわからないが結構イイ映画だったように思う。

そうだなぁタルコフスキーがゾンビ映画を撮ったらこんな風になるんじゃないかみたいな。『ノスタルジア』にゾンビ要素を加えましたみたいな印象も受けましたね。その『ノスタルジア』ももちろん寝てる。

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