三池やさしい映画『BLUE FIGHT ~蒼き若者たちのブレイキングダウン~』感想文

《推定睡眠時間:2分》

ダブル主演の片方であるところの木下暖日というこれが映画デビューとなる新人役者さんの目が素晴らしい。“スリーピング・アイ”ことロバート・ミッチャムを思わせる眠たげで寂しげな傷ついた少年の目。非行少年たちが不良格闘技番組ブレイキングダウンとその主催者・朝倉未来の存在を知って更生の道を辿る物語にはこの目が必要だ。役者の目で映画を撮ることができる監督だから三池崇史は信頼できるよな。むかしの監督はそれが普通だったが最近の技巧派監督とかはできなくなってしまったので(『ナミビアの砂漠』などは貴重な例外かもしれない)

さて居場所のない愚かな人たちの哀しさを三池崇史は作家的なテーマとして繰り返し描いてきたが、今回は不良モノとあって久々にそれが見られた気がする。三池の近作では『初恋』なども居場所のない人たちの話ではあったがやはりメジャー映画ということでどうも本気感が出ないというか、別に手を抜いて撮ったわけじゃあないと思うがどうしてもメジャー映画的な制約が邪魔をして、三池のポエジーとかシンパシーが前に出ていなかったように思う。

それにひきかえこの『BLUE FIGHT ~蒼き若者たちのブレイキングダウン~』は「三池映画を観たな~」という充実感がとてもあって良かった。引き続き『初恋』を引き合いに出せばはっきり言ってこっちは予算的に10分の1もなかったんじゃないかと思う。三池映画的には『太陽の傷』と同じくらいの予算感といえばマニアにはなんとなく伝わるだろうか。篠田麻里子、土屋アンナ、GACKT、高橋克典、波岡一喜など出演陣はある意味豪華なのだが濃厚に漂うこう、ドンキ感というか。ドンキ予算で出てくれそうな人たちというか…失礼なことを言うなよ!

ともかくぶっちゃけ安い映画であることは間違いなく、それは脚本を忠実かつ効率的に映像化することに徹して「遊び」の画が一切ない画作りからも窺える。「遊び」がないといってもそれはカメラの話であって、三池映画らしく着ぐるみ、マンガ的セット、シュールバカギャグなどはしっかり出てくるのだが(頭にダーツの刺さった不良が同じ台詞を繰り返して「同じ台詞言ってる!」とビビられるシーンに爆笑)

『ブレイキングダウン』自体もよく知らんが不良がケンカする番組なんだから高級なわけはないし、まぁ予算的にはVシネと同程度の『ブレイキングダウン』宣伝のための企画モノ映画というのが『BLUE FIGHT』の実際のところでありましょう。しかしそれがかえって良い方向に作用したかもしれない。三池崇史はVシネ出身の監督だから低予算撮影には慣れているし、低予算だからこその予算内で撮って納期間に合えばなんでもいいすよ的な自由が、映画作家・三池崇史を作り上げたのであった。

だから『初恋』に比べれば今回三池はかなり自由に自分の特質を出せたんじゃないか。そのために様々な理由で(だいたい親だが)非行の道に入ってしまった少年たちの哀しみと、その更生への道を共感を込めて描くことができたんじゃないだろうか。三池映画はいつも優しいが今回はとくに優しかったな。ラストシーンがあーなってああなるところなんか「これはケンカの映画ではありません。非行少年たちががんばって更生しようとする映画です」みたいな。不覚にもちょっとグッときちゃったね。

予算はないが不良グループのカラフルなチビがグループ内で一番威勢が良いとか妙なところに不良リアリティがあって良いし、ホリエモン、キングコングの西野と梶原、明日香キララ、宮迫博之(!)などテレビで仕事がなくなったのでYouTube/インスタ芸能界でシノギを稼いでいる裏芸能人たちのカメオ出演も個人的な好き嫌いはともかく『ブレイキングダウン』が好きな人ならこういうのも好きだよネ的なサービス精神もまた良し、ケンカシーンはキレのあるアクションという感じではなく大ぶりの動きの多いどちらかと言えばもっさりとしたものだが、不良のケンカなんてこんなもんだろという気もするのでこの映画にはこのアクションが合ってるんじゃないだろうか。

決して傑作とかなんだとかそういうもんじゃなく、『ブレイキングダウン』みたいのが好きな若いヤンチャな人たちが楽しんでくれればそれでいいっすよ的なまぁ安いプログラムピクチャーという感じだが、でも、良かったなぁ、うん。単純に面白いし、三池の非行少年たちへの寄り添いっぷりにやっぱり泣けてしまうのよ。

※もう一人の主人公・吉澤要人さんは木下暖日の寂しさとは対照的な無邪気な子供の目。この二人のバディ感、というよりも友達感も良いかったです。あと口外不可のゲスト出演者には(意味がわからなかったので)驚かされたがこれは映画を観た人だけのヒミツだ。

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