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デザイナーユニットのヒプノシスといえばなんつってもピンク・フロイドの多くのレコードジャケットを手掛けたことで知られる人たちだろうが個人的にはそのメンバーの一人ピーター・クリストファーソンが今日的な意味でのインダストリアル・ミュージックの元祖的なスロッビング・グリッスルのメンバーだったので、一時期はグリッスルのリーダーであるジェネシス・P・オリッジになろう(最初はデヴィッド・ボウイになりたかったがボウイは美貌も知性もアートセンスも伸長も全部追いつけなくて無理なのでジェネPなら背低いしなれるかもしれないと路線変更)ともっぱら頭の中で考えるだけでもちろん行動には一切移していない俺としてはピーター・クリストファーソンのいたユニットがヒプノシスという変な覚え方をしてしまっている。
ヒプノシス設立メンバーのオーブリー・パウエルによれば最初ピーターは死体置き場でバイトしてたのでそこで死体を好き勝手にポーズ取らせて撮った写真をポートレートとして持ってきたらしい。さすがジェネPが見出しサイキックTVまでついてった人だけあってやっていることがどうかしている。ヒッピームーブメントをバックボーンに持つヒプノシスはもっぱら陽のユニットだったのでネガティブなセンスを導入するためにピーターはメンバーに採用されたとのこと。興味深い話であるが、しかし残念ながらそれ以上の掘り下げはなかった。フロイドのメンバーをはじめノエル・ギャラガーやポール・マッカートニーなど著名ロックアーティスト大挙インタビュー出演のこの映画なのだがピーター関連のインタビューはオーブリー・パウエルのものを除けば無く、ピーターの加入でヒプノシスのデザインがどう変わったかなどの分析もない。
というわけでまぁそういう感じの映画である。オーブリーが語るヒプノシスの名レコードジャケットの撮影裏話とヒプノシスを讃えるインタビューで構成されたドキュメンタリー映画というよりはナビゲーション映画。『原子心母』の牛とか『アニマルズ』の空飛ぶ豚がどのように生まれたかの話は興味深いも、トリビアの域を出ることはない。ヒプノシスがレコードジャケット業界に与えた影響ぐらいは掘ってくれてもよさそうなものだがそれもないのでヒプノシスの業界内での立ち位置や革新性が今一つわからない。監督が写真家のアントン・コービンというから期待したがこれはちょっと肩透かしだろう。主にフロイドの楽曲をたくさん使ってるのでフロイドを聴きながらジャケット裏話を…というのはたしかに贅沢な時間だが、その贅沢はテレビとかDVDの特典映像とかでもやろうと思えばできる程度のもの。ドキュメンタリー映画であるからにはドキュメンタリー映画にしかできない何かが個人的には欲しいと思うが、そういうタイプの映画は目指していなかったようだ。
深みはないが明日から使えるトリビアはいっぱいあるので、まぁ1970年前後のUKロックシーンに多少なりとも興味があれば楽しく観られる映画ではある。ヒプノシスの綴りはHYPNOSIS(催眠)ではなくヒップ+グノーシスでHIPGNOSISだったとかな。へぇ! …へぇとしか言いようがないよそんなトリビアばかり出されても。
スロッビング・グリッスルのメンバーだったピーター・クリストファーソンがメンバーだったとは知りませんでした… ビックリ!
俺も詳しくは知らなかったのでこの映画でいろいろ知れてよかったです