お仕事映画お仕事的に作りました映画『怪獣ヤロウ!』感想文

《推定睡眠時間:0分》

良くなかったと感じられたところから書き出すというのもちょっと気が引けるのだが良くなかったと感じられたところが映画開始直後だったのでしょうがない。今から遡ること十数年、バキ童ことぐんぴぃ演じる主人公はおそらく独りで作った自主怪獣映画を中学の文化祭みたいので上映していた。他の生徒たちの反応を見て「ヨシッ!いいぞ!」と手応えを感じる中学生バキ童。しかしリアリティも迫力もカケラもないダンボール製の着ぐるみ怪獣(中には中学生バキ童が入っている)が画面に登場すると生徒たちは当然大笑い、まさかそんな反応が返ってくるとは思っていなかった中学生バキ童はダイナミックかつシリアスに落ち込んでしまうのであった。

この導入部の問題は俺からすれば2点ある。まず1点は塗装もなんもなく本当に遊びで作ったダンボール工作にしか見えない着ぐるみ怪獣を見て中学生たちが恐れおののく(そういう反応を中学生バキ童は期待していたらしい)わけがないので、その大笑い反応にバキ童が傷つくという展開を冒頭に持ってくることで物語のリアリティラインが一気に下がり、これはご都合主義の映画なんだなと悪い意味でわかってしまう点。しかし重要なのはもう1点の方である。はっきり言ってバキ童主演、これは出オチどころかポスターが公開された時点でもうオチてしまっているネタである。だから当然観客は笑える映画を期待する。その観客を笑わせるどころか「君たちが笑ったことで中学生バキ童は傷ついたんやで…」みたいなシリアス路線に誘導してどうするのか。

他の生徒たちの予期せぬ反応を目の当たりにした中学生バキ童が映画の持つ力や可能性に気付くのならわかる、それならそれを観た観客たちもこの映画で存分に笑ってやろうという心構えになって客席が暖まるわけだ。しかし実際にやっていたことは逆なのであって、生徒が映画を笑ったことで中学生バキ童が傷ついたというシーンを映画の最初に見せられれば、観客は「この映画で笑ってはいけないのかな…」という気持ちになって当たり前である。だからその後もいろいろ笑いを意図したシーンが出てくるにも関わらず客席は実に静かだった。この中学生バキ童の傷つきシークエンスは何も意味の無いものではない。映画の終盤、大人になったバキ童はさぁ俺を笑ってください! と言わんばかりに自身のパンツ一丁姿をさらけ出し、脚本の詰めは甘いがそれによってバキ童がかつての傷つきを克服したことが暗示されるのである。

しかしそれはシナリオの理屈であって映画の理屈とは別ではないだろうか。曲がりなりにもコメディ映画ならば最初のシーンではとにかく客席を暖めるのがベターであるように思う(観客もそっちのが楽しいし)。同じような展開でも細部をちょっと変更するだけでそれはできないことではなかった。つまり、中学生バキ童が予想外の笑われに傷つくのではなく、予想外の笑われに「俺は、俺の映画は、人々をこんなに楽しませている…!」と得も言われぬ喜びを覚え、それを再び体験するために映画監督を志すも、夢は叶わず失意の中で地元である岐阜県関市の役場職員の座に甘んじている、という展開にすればよかったわけである。その展開であれば観客はむしろ、バキ童に同情してバキ童が面白いことをするたびに積極的に笑ってあげようという気分になったんじゃないだろうか。それは本当に少しの変更点に過ぎないだけに、ちょっと残念に思うところであった。

まぁ映画全体もそんな感じっていうか、なんか面白いんだけど痒いところに手が届かない、みたいなところあったよな。役場職員がご当地映画を作ることになったのでその機会を利用してバキ童が怪獣映画を作ろうとする、という物語はおそらくご当地映画祭の数少ない成功例と言える熱海怪獣映画祭にインスパイアされたものだろう。昨年サメ映画界隈で話題となった『温泉シャーク』も公式なものではないが熱海怪獣映画祭に関連する町おこし怪獣コメディであり、『怪獣ヤロウ!』にも似たような空気感はある。ただこちらは『温泉シャーク』みたいに河崎実風のバカ映画には振り切れない。たしかに要所要所バカバカしくはあるのだが大きな笑いどころはなく、また怪獣映画作りというメタ的なテーマの物語なので怪獣映画的カタルシスもない。どちらかといえば怪獣要素もちょっとあるユーモラスなお仕事映画という感じか。

町おこし映画である都合あまり冒険的なことはできなかったのかもしれないが…でもバキ童や清水ミチコ、手塚とおるに麿赤兒といったクセの強い役者を揃えてこんな優等生的で当たり障りのない映画になってしまったのはちょっともったいないよな。バキ童が有名になるきっかけとなった例のテレビ取材セルフパロディや手塚とおるの『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』セルフパロディは笑えたのだし、それなら清水ミチコにだって十八番ネタの一つや二つやってもらいたかった。それがなかったというのは、ご当地映画ゆえの様々な制約や要望をクリアした上で映画としていかにソツなくまとめるかということで作り手がいっぱいいっぱいになってしまって、あまり観客の目を意識した映画作りができなかったということかもしれない。そう考えると予算は底でもとりあえず生ジョッキで的な感じで観客の喜びそうなシーンを大量に詰め込む河崎実はやはりベテランだなとか思う(※ただし実際に観客が喜んでくれるかは別)

ちなみに、この映画とは関係ないが町おこし映画作りを題材にした映画といえば坂下雄一郎の『エキストランド』という映画がダークってか根暗な感じの実に嫌味な映画で結構面白かった。あとあれだな怪獣で町おこしといったら押井守の実写版『パトレイバー』の熱海回ね。あれも俺は好きで…そういうのと比べると『怪獣ヤロウ!』、コメディ寄せの町おこしお仕事映画としては悪くないのですが、噛み締めるともっと味が出てくるみたいなところがないので、楽しいは楽しいけどなんだかあんまり記憶に残らない映画になってしまった感じだなぁ。

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