アート系人喰いマットレス映画『第五胸椎』感想文

《推定睡眠時間:7分》

何年か前にアテネフランセで『デス・ベッド』というベッドが文字通り人を食うすっとこどっこい設定なのに妙に真面目で文学的というロジャー・コーマン風の変な低予算ホラーを観たがこちら『第五胸椎』はベッドのマットレスが人の胸椎を食う。人がこのマットレスで寝ていると中から触手がにょきっと出てきてグサッ、胸椎を吸うのであるがそうすると吸われた人はイテッ背中なんか急にイテェ! ってなるのである。ちなみに胸椎とは、胸というぐらいだから身体の前面にあるのかなと思ったが脊髄の中央部とのことである。

まず上映時間64分とかのインディーズっぽい韓国の中編映画がなんで急にシネコンでやってるんやとなる。昨年から映画館の洋画不足は言われていたが円安とハリウッドの不調で今もそれが続いてるんだろうか。とにかく映画館は映画を上映してナンボ、かける映画がないならなんでもいいから探してこないといけないってことでこの奇妙な映画に白羽の矢が立ったのかもしれないが、そうだとしても内容的にもランタイム的にもかなり異質。探せばもっと普通な感じで権利料も安い海外ホラー映画とかいくらでもあるような気がするし…とはいえこんな冒険的な作品上映はありがたいが(シネコンはつまんないから)

内容の変さに関しては言うまでもない。いや、世間的にはほぼ無名の映画だろうからあるか。変な映画である。この人喰いマットレスは人の手から人の手へと渡り胸椎を食いながら韓国中を旅するのだが、こう書けばすっとこどっこいぽいも映像的にはアート写真的、台詞は詩的で、設定はZ級ホラーなのにZ感がない。中心となるのは現代韓国に生きる様々なカップルの肖像なのでマットレスさえ出てこなければ普通のオシャレな恋愛群像なのだが、マットレスからはにょっきりと触手が伸びてくるしマットレスの中では謎の肉塊がグロく成長しているので、そこらへんは悪趣味系のホラーなのである。しかもラストはなにやら感動映画風だ。

いったいなんなのか。想像になるがおそらくこれは愛の記憶というものを文学的に表現しようとなんじゃなかろうか。このマットレスは第五胸椎を食うわけだが、マットレスに魂を宿した最初の拾い主はなんかの仕事で漢江の? 底を調査して? そしたらそこにはたくさんの骨と一緒に家族写真とかがあった、というような話をする。胸椎と一緒にマットレスは人の記憶の断片も吸収するらしい。だから韓国を渡り歩いている内にマットレスには漢江の底のごとく様々な、おもに愛に関する記憶も堆積していくわけである。

しかし、そう書いたところで「で?」と自分で思う。で、なんなのであろうか。結局この映画はなんだったのか…よくわからないが、しかしまぁポエム度数高めのカップルの会話はやや退屈に感じるも、マットレスの触手とか肉塊はよくできているので、かなり変化球気味の人喰いホラーとして楽しめた。ある意味では『デス・ベッド』のような。ある意味では『バスケット・ケース』のような。またある意味ではエドワード・ヤンの『恐怖分子』のようでもあると言えなくもないような。個人的には『人間人形デッドドヲル』という呪いのダッチワイフが現代アメリカを旅するシュールでふざけていてどこか切ないホラー映画と似ていたように感じたがクラスAのマイナー映画をクラスAのマイナー映画で喩えても伝わらんだろうが。『人間人形デッドドヲル』も面白い映画なので機会はないと思いますが機会があればご覧下さい。

※人喰いマットレスはラブホに売られたこともあったので韓国のラブホの内装が見られるのだが、これはロケしたラブホの特徴なのかそれとも韓国のラブホでは一般的なのか、壁が四方鏡張りになっててその上にギラギラの電飾が吊り下げられててなんかすごかった。俺この部屋入ったらエロい気分だいぶ消えると思う。てかまぶしいって、絶対行為中にまぶしくてそれどころじゃなくなるって。

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