《推定睡眠時間:50分》
近年は『非常宣言』とか『コンクリート・ユートピア』とか『新感染半島』とかお正月に景気の良い韓国のパニック映画が公開されるのが恒例になっていたので今年2025年も待っていたのだが来ずということでちょっとだけ気が抜けた感じになっていたところで飛び込んできたのがこの映画『プロジェクト・サイレンス』のポスターと予告編であった。韓国の大きな橋が多重衝突事故により封鎖状態となってしまい、橋に取り残された人々は立ちこめる霧の中から現れる「何か」との戦いを余儀なくされ…って『ミスト』じゃん! 韓国映画版の『ミスト』! なぜそんな絶対に面白いやつを今年のお正月韓国パニック映画枠にブッキングできなかったのか! 配給の方々にもシネコンの方々にもいろいろ事情はあるのだろうが、お正月は家族みんなで韓国パニック映画鑑賞、これをぜひとも恒例行事として根付かせていただきたいものだ。
と言いつつなのだが実はちょっとだけ肩透かしを食らったプロジェクトであったことはこの睡眠時間からなんとなく察していただきたい。いいのかなぁ、言っていいのかなぁ。それとも言わない方がいいのかなぁ。でも映画始まって1秒でもう「何か」の正体出てくるからなぁ…日本の配給が宣伝で「何か」と隠してるだけでホントはネタバレにはならないんだよなぁ…じゃあ言うか、濃霧の中から現れる恐ろしいモンスター、その正体は🐶でした。ワンワン。
もちろん犬と言っても単なる犬ではない。このワンチャンたちは身体能力を極限まで高められているので超速ダッシュができる上に脳みそにチップを埋められてコントローラーで遠隔操作が可能というほとんどロボットのような生体兵器である。韓国には十数年前まで田舎の方に犬食文化があったというのでその頃から考えればワンチャンの社会的立場は飛躍的に向上、今や人間に食べられるのではなく人間を食べるまでになったのだ。ただし脳みそを操られているが。
とはいえ…ワンチャンはワンチャンである。それも大型犬とかではなくボクサーっぽい中型犬。そりゃたしかにリアルにボクサー犬が襲いかかってきたらかなり怖いよ? しかも群れで襲ってきたりなんかしたら絶対死ぬとは思うよ? いやだけどこれ映画じゃないですか…映画の中でワンチャンが人間を襲ってもどうも今一つ迫力が出ないというか…狂犬病のセントバーナードが襲ってくるスティーヴン・キング原作の『クジョー』はなかなか怖い映画だったような記憶があるが(でもこれも原作ではワンチャンの心理がワンチャン視点で書かれてて、最初は優しく理性的だったワンチャンが狂犬病で発狂していく過程が怖いし切ないというサイコホラー的な話なんだよな。映画は動物パニック映画になってしまったが)、『プロジェクト・サイレンス』の場合はなまじ宣伝で「何か」と正体を隠してしまったものだからいざ画面にワンチャンが現れた時にはズルッときてしまったのであった。まぁ、「最強ワンチャンが韓国市民を蹂躙!」とか宣伝惹句に書かれても人々の耳目は引かないだろうことは想像できるが…。
ということで面白さのピークは俺の中でわりと早めに来てしまった。例の橋へと集まる人々をパニック映画的な群像劇のスタイルで描いてそこから十数台の車がクラッシュする特大玉突き事故に雪崩れ込むあたりは100点満点…は言い過ぎだとしても89点ぐらいはあった。だがそこからである。映画的にはむしろそこからが本番なのだが、この橋に取り残された人々のバトル相手が『ミスト』とか『遊星からの物体X』みたいなすごいやつではなく見た目は普通のワンチャンズだと判明したその瞬間、なんだなんだなにがどうなるんだという緊張感は一気に弛緩し、なにせ戦闘犬なものだからこのワンチャンズとの死闘にはさぞや激しいものがあったのだろうが、もう興味はあんまない。ワンチャンはかわいいので大好きだがこの映画のワンチャンだいたいCGで作ってるしな。
なんで、ワンチャンにしたんだろうね。比較的ショボイ造型だとしても軍が開発した極秘生体兵器というならとりあえずデカくてグロテスクなスゴイ感じの怪物とかにしたらよかったと思うのだが。韓国映画界には『グエムル 漢江の怪物』という偉大なる先達もあるわけですし。ただまぁ安定の韓国パニック、俺は早々に寝てしまったが過度に期待さえしなければ楽しめるのはたぶんきっと間違いないだろう。最悪ワンチャンと人間のバトル&サバイバルがそれほど面白くなかったとしても(寝てたので俺には判断できません)壮大すぎてスラップスティックなギャグみたいになってしまったスーパー玉突き事故は観る価値がある。あそこはすごい。その発端が濃霧の中で100キロぐらい出すライブ配信者のバカ(最近の映画によく出てくる死に役)というのもすごい。ってか他の人たちも濃霧なのに全然速度落としてなくてダメだった。やっぱこれお正月の開放感とおめでたムードの中で観るべき映画だったと思うな!