お化けがずっと見ているぞ映画『プレゼンス 存在』感想文

《推定睡眠時間:20分》

Netflixとかで新作を立て続けに発表してるとはいえスティーヴン・ソダーバーグの劇場公開作とか結構久しぶりじゃない? なんて思っていたがついこないだ『マジック・マイク ラストダンス』がやってたらしい。全然興味ないから知らんかった。そのソダーバーグのフィルモグラフィー中でもたぶん珍しい幽霊もののホラー映画、脚本はスピルバーグ作品の脚本で知られるデヴィッド・エコーということで、あんまり怖そうじゃないなぁと思いつつも一応気になる映画ではあったのだが、怖くもないしあんま面白くもなかったので、1990年代の才人ふたりの才能はもうほぼ枯渇していることが確認できる映画となってしまった。

怖くないのは当たり前である。この映画なんと幽霊目線のPOV映画。ふつうの幽霊もの映画は画面に幽霊が見えたり見えなかったりするから怖いわけだが、この場合は幽霊目線なので画面に幽霊が映らないし、とくに人間に害なす幽霊というわけでもないのでホラー感は相当薄い。そうとしても演出次第ではそれなりに怖くなりそうではあるのだが、この幽霊目線カメラはドローンでも使っているのかとても滑らかかつスピーディに動くので、ルチオ・フルチの映画によく出てくるのっそりのっそり動くゾンビ目線カメラとかとはテイスト的に全然違う。むしろ怖さを感じさせまいとする意図すらあるんじゃないかと思えるほどの怖くなさなのだ。

面白くないというのは単純にストーリーが面白くない…というか幽霊POVにかなり向いてないストーリーを幽霊POVでやっているから。POVの都合クロースアップであるとか緩急ある編集とかはできないので映画を面白くするための様々な撮影テクニックなしでシナリオをそのままお出しされる感じになるわけだが、独創性があるものではなく15分の短編映画で世界に100個ぐらいありそうなシナリオを素揚げで食えと言われても、こちとら情緒のない人間だからいや普通にソースつけるとかマヨネーズつけるとかしろやと思うのである。しかも無駄な会話が無駄に長い。

幽霊目線の映画というアイデアは『私はゴースト』という10年ぐらい前の映画ですでにやっていてこれは当時ホラー好きの間でちょっとだけ話題になったように思う。シナリオのギミックに関して言えば短編映画でよくありそうというだけでなく脚本のデヴィッド・コープ自身同じようなことを『レフト -恐怖物件-』という映画で試みている。ようするに、全体的に「それもう観たよ」なのだ。こっちがもう観たものをベテラン映画人タッグがさも新奇なネタであるかのようにやっているのだからつまらないし痛々しい。そりゃデヴィッド・コープなんかもともと大味なシナリオしか書けない人ではあるがそれでも娯楽映画の勘所はちゃんと押さえた脚本書いてなかったか1990~2000年代ぐらいまでは。ここにはそういう勘所がないじゃない、ホラー的な見せ場というか。実験的な手法を好むソダーバーグがドローンかなんか使って浮遊感ある幽霊目線POVを試してみたかったのはわかるが、この場合それが効果的とはとても思えないし、似たような撮影は近年のテレンス・マリックが何度もやっていると思うのだが(そしてマリックの近作もかなりつまらない)

時間を超えてさまよう幽霊の話を幽霊目線で、といえばA24の『A GHOST STORY』も頭に浮かぶ。これも俺には大して面白い映画ではなかったが、それでもシーツを被った姿で幽霊を表現する面白さもあり、やや陳腐ではあるが存在とはなにか宇宙とはなにかというようなことを問いかける台詞も出てきて、この『プレゼンス 存在』よりはオリジナリティはあったと思う。枯れるんだなぁ才能って。切ないエンディングにではなく、そのことに悲しくなる映画であった。

※塗装屋が「あいつこの部屋に入りたがらないんだよ」って言うシーンだけは幽霊映画特有のゾクリ感があって少しだけよかった。

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