アダルティキラキラ映画『お嬢と番犬くん』感想文

《推定睡眠時間:0分》

ヤクザの組長に育てられた福本莉子も今年の春から高校生。その出自のせいで子供の頃から普通の学校生活を送れなかった莉子タンは高校進学を期にフツーの高校生活を送ることを決意する。が、そこに着いてきたのがSixTONESのジェシー演じる組の若頭。少女漫画特有の理屈無視展開により莉子タンと同じクラスに裏口転入してきたジェシータンは大事な大事な莉子タンを守るためにあれやこれやとちょっかいを出して莉子タン全然普通の高校生活送れない! でも実は密かに莉子タンはジェシータンを想っているのでまんざらでもないのであった。

要人女子高生警護のために裏社会系の人がクラスに転入してくる映画といえば去年『赤羽骨子のボディガード』というジャンプかなんか原作の映画があったのでそこに驚きはないのだが、『赤羽骨子』と違ってこちら『お嬢と番犬くん』、なんかやけに生臭い! そりゃまぁ現実にはジェシーのような細いイケメンの年若いヤクザの若頭は存在しないのでこれがリアルかと言われれば違うのだが、やはり監督がキラキラ映画畑の人ではなく『殺さない彼と死なない彼女』などちょっと変なキャラクターたちがリアルな青春群像を繰り広げる学園映画を得意とする小林啓一だからだろうか、ヤクザの描写が少女漫画的ファンタジーではないんである。小林啓一が注目されるきっかけとなった『ももいろそらを』は普通の映画にはあまり出てこない日常的な台詞回しをあえて採用したりしていて、この人の演出というのは基本的にはリアリズム。だから学園生活が美化されないだけでなくヤクザも美化されず、その言動にちょっと怖さがあるのだ。

こうした小林啓一のリアリズムはキラキラ映画の基本形から逸脱するものなので、いかにもキラキラ映画っぽい場面にヤクザのジェシーが投入されることでキラキラドリームがぶち壊されてなかなか笑える。が、笑える以上にやはり生臭い…。リアリズムの人だけあって乾いた死や性が小林啓一の学園映画には出てきがち。さすがに死体までは出てこないとはいえ半分はヤクザの世界を描いた映画だから結構あけすけな暴力は出てくるし性の話題にも躊躇いはない。キラキラ映画的には主人公の前に現れる複数の彼氏候補の一人でしかないはずの噛ませイケメン(櫻井海音)まで生の実感を得られないので喧嘩と犯罪を繰り返す壊れた男という『ディストラクション・ベイビーズ』みたいなシリアス感で、キラキラ映画の爽やか世界が大好きな俺など困惑である。バキ童ことぐんぴぃがこちらもヤクザの孫であるこの噛ませイケメンのお目付け役とかいう配役も明らかにキラキラ映画ファンに向けられたものではないだろう。てかぐんぴぃがヤクザ役て。それじゃあこの映画のぐんぴぃは服を脱げば背中にモンモン入ってるのか…?

良い意味でも悪い意味でも王道のキラキラ映画のようで王道っぽくないので逆にキラキラ映画を普段観ない人のほうが楽しめるかもしれないちょっとした怪作だが、ただキラキラ映画の本質はあくまでも恋愛ではなくビルドゥングスロマンと考える俺にとって、これは面白いけれどもキラキラ映画としては失敗作であるように見える。というのも学校で起こる様々なイベントやトラブルを通して福本莉子とジェシーそれぞれが内面的に成長していく、という描写をこの映画は欠いているのだ。普通の高校生活を送りたい普通じゃない人のキラキラ映画ということで昨年の『矢野くんの普通の日々』と見比べればわかりやすいんじゃないだろうか。『矢野くん』では世話焼きの主人公女子高生がお前それなんか変なスタンド憑いてるだろとしか思えない不幸体質の男子高校生に普通の高校生活を送らせようと尽力する中で、この二人の双方が自分の中の弱い部分と対峙し、それを乗り越えていく。だから映画の最初と最後でこの二人は見た目こそ同じだが内面的には少しだけ違う人になってるんである。

けれども『お嬢と番犬くん』にそのような微視的な眼差しはない。思えば小林啓一の映画はいつもそんなような気がするが、そこに出てくる高校生たちは様々な悩みはあっても人格的にはすでに完成されていて、高校生活の中で内面的に大きく変わるようなことはない。もちろん様々な変化はするけれども、それは成長という垂直方向の累積的な変化ではなく、思考の方向を変えるという形で、水平方向の変化として表れる。言い方を変えれば一般的なキラキラ映画がキャラクターの内面の量の変化を描くのに対して、『お嬢と番犬くん』では質の変化が描かれる、という感じなのだ。そしてそれはキラキラ映画というよりも、もっと一般的なヒューマンドラマの作劇なのである。

キラキラ映画においては恋愛と同じくらい主人公の友人関係も重要視されるが、この映画では友人関係の描写が薄いのもキラキラ映画っぽくない所以か(友人関係は高校生の内面の成長の大事な要素だ)。主人公の友人二人組は良いキャラしてたのでもっと友情を深めるようなところとか、学園生活の中でヤクザの殺伐とした犯罪世界に身を置くジェシーが変わっていくところとか観たかったのだが、まぁそういうのはあんま興味なかったってことでしょう、この監督とか脚本家的には。リアリズムのタッチで、ちょっとハードボイルド的で、キラキラ映画のお約束をネタにするような反骨精神すら感じられる、なんだかアダルティな変則キラキラ映画として、キラキラ的には失敗作だとは思うが、ともあれ楽しめはしたから良しとするか。

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