《推定睡眠時間:40分》
アカデミー賞のアニメ部門なるものがどれだけ価値のあるものなのか今一つわからないのだが少なくとも宣伝効果はあるようで内容的には単館系のアートアニメなのに結構話題になってるらしい。アート映画が話題になるのはいいことだ。だから不満とかでもないのだがやはり言いたくなってしまうのはいやこれゲームだろっていう。操作できないゲーム。展示用デモ。むかし『メタルギアソリッド3』(今夏PS5でリメイク版発売)の限定ボックスにムービーとデモを繋げて3時間ぐらいにしたプレイしないでもストーリーがわかるモードみたいのが付いてましたがあれだよあれ、だいたいあれ。
(ほぼ)ゲームが映画賞を獲ってはいけないという法はないのだが、しかしここまでゲームだと…いや、映画の内容に文句があるわけじゃなくてかなり寝つつも俺これ楽しめたし好きなんですけど、でもこれをアニメ部門の受賞作にしたアカデミー会員のどれぐらいがこんなゲームSteamとかで探せばわりとたくさんあるって知ってるのかなと思うと、ねぇ。だってそれ知ってたらもうちょっと相対的な評価は下がるんじゃないかって思うもの。ホントに、プレイできるかできないかっていう違いしかないんだよ、この『Flow』って映画とSteamとかにある寓話系オープンワールドゲームみたいなやつって。
そういうゲームっぽさ…いや、もう、どこがゲームっぽいとかじゃなくて全部ゲームだからさ…3DCGアニメですけどそのグラフィックの質感もそうだしビハインドカメラっぽいカメラワークもそうだし主人公がネコチャンっていうのもネコ系のオープンワールドって何本か有名なのがあるし(『Stray』とか)キャラクターの動きだとか世界観とかもそう。これ監督のギンツ・ジルバロディスって一人で作った『Away』っていう『Flow』同様の台詞無しCGアニメで有名になった人ですけど、その『Away』もかなりゲームっぽい作りでとくに上田文人の『ワンダと巨像』の影響は随所に強く感じられたから、日本での公開時にはこれ『ワンダと巨像』じゃんみたいなことは結構言ってる人いたんだよな。ジルバロディス自身がどう言ってるかは知らないんですけど、まぁここまで似てると影響がないとはちょっと考えられない、むしろ『ワンダと巨像』オマージュ作っていうくらいの映画が『Away』だったから、若い世代の監督だしゲームっぽさっていうのはかなり意識して映画作ってると思いますこの人は。
でそのゲームっぽさをどう評価するかって話だよね。ゲームの手法で映画を作った、と考えればなんか新しい感性って感じで高く評価できそうだけど、でもこういうゲーム他にもわりとあるしなって思うとそんなに高く評価する感じにならない。そこで観た人の感想割れそう。ゲームをあんまりやらない人にはゲームの理屈で作られたこの映画は新鮮に映るだろうけど、ゲームを(とくにアート系のゲームを)よくやる人にはそこまで刺さるところがないかもしれない。これは手法だけの話じゃなくて、映画ドラえもんの『雲の王国』のテーマ曲に「この町に雨降るとき どこかの町は日差しの中」っていう歌詞があるんですけど(良い歌詞だよな)、そういう「誰かの幸せは誰かの不幸」みたいな人生観とか死生観がこの『Flow』っていう映画の背骨になってるんですけど、『ワンダと巨像』がまさにそういう内容のゲームだったんだよ。
で、他にも結構そういうテーマを持ったゲームってある。もちろん映画でもありますけど、ゲームの方がこういうテーマに関しては発達してると思う。てのも映画は直線的にしか進まないので「誰かの幸せは誰かの不幸」を映像的に表現するにはシナリオなり編集なりにテクニックが必要になるし、時間も2時間ぐらいしかないから十全にそのテーマを展開することが難しい。だけどゲームは非直線的かつ選択的に進むし、前のセーブデータから別の選択肢を選んでみることだってできるので、「誰かの幸せは誰かの不幸」っていうのを映画に比べて幅広く、しかも直感的に表現できる。だからゲームだとマルチエンディングなんてその好例ですけど「誰かの幸せは誰かの不幸」の物語をすごく作りやすいし、作りやすいからクリエイターにも好まれるわけですよ。それでそういうテーマが映画よりも発達してる(と俺には見える)わけです。
だからテーマの面でも『Flow』にはあんまり新鮮味を感じなかったなぁ。人類が滅びたのか知らんがいなくなってしまった文明の廃墟な地球を神の怒りが如し大洪水が襲いネコチャンとほか数種類のどうぶつたちはノアの箱舟のミニチュア版に乗って水に沈んだ世界を旅する…というストーリーは魅力的だし映像もキレイでイイ。でもゲーム。そして何度かこういうのやったことがある。しかし、『ワンダと巨像』を作った上田文人は元々『Dの食卓』のクリエイターである飯野賢治のもとで働いてた人なわけで、飯野賢治は映画をゲームにしようと『Dの食卓』を作って高く評価されたわけだから、時代が一周して今度は『ワンダと巨像』に感銘を受けて(※想像)ゲームを映画にしようとする人が現れた…それがギンツ・ジルバロディスとこの『Flow』という映画なのだと思えば、やっぱりイイ映画なのかもしれません。