夢作るなら最後までちゃんとやれ映画『白雪姫』(2025) 感想文

《推定睡眠時間:30分》

人がディズニー映画に求める物は知らないが俺がとくだん好きというわけでもない最近のディズニー映画に求めるものが何かあるとすればそれはディズニー映画に限ったことではないのだが夢を見せてくれるかどうかということで、そりゃダルデンヌ兄弟作みたいな社会派映画も真面目なので(真面目なので!)ちゃんと観ますし苦虫を噛み潰したようなフィルム・ノワールだって好きではあるが、しかし基本的にはやはり映画には現実ではできないことをやってもらいたいし観られない光景を映してもらいたい。1980年代B級映画の帝国エンパイア・ピクチャーズとその後継会社フルムーンの映画などは完成度はともかく怪物とか殺人鬼とか宇宙船とか異常にバカすぎるキャラクターとか分量的には腹八分目でもそうした現実にはないものがド頭からちゃーんと出てきてくれるので俺にとってはエンパイア/フルムーンとディズニーは夢を見せてくれるという意味で同じ箱に格納されているわけであるがいやまぁそんなことはどうでもいいとしてだ!

このディズニー実写版『白雪姫』、ちゃんと夢を見せてくれたからよかった。オープニングはハリネズミやリスなどのCGかわいい小動物たちが白雪姫の飛び出し絵本を開けるところから始まるのだがこの時点で既に夢。写実CGアニメ版『ライオン・キング』など昨今のハリウッド、わけてもディズニーなどはどうぶつをCGで作ることが当たり前となってしまい、どうぶつはあくまでも人間の思い通りには動かないから愛おしく美しいのだと言って憚らない俺としては人間が隅から隅まで完璧に動きをコントロールできるCGどうぶつなど断固反対の立場なのだが、そう言っておきながらすぐさま前言撤回するが可愛い小動物とかならまぁCGどうぶつもいいんじゃないでしょうか。もちろんそれもホンモノのどうぶつの方が完全に可愛いのだが、これはあくまでもおとぎ話の夢の世界である。夢の世界ならまぁ…かわいいし…オッケー!

という感じで冒頭から夢の上に今回は(ってか実写版『リトル・マーメイド』もそうだったからディズニーの実写リメイク版は全部そうなのだろうか?)ミュージカルである。暖かな色彩に包まれた箱庭的な中世のお城と街並みの中で白雪姫と民衆たちが歌って踊る光景はしあわせドリーム、その国の王様とお妃様は「ここは自由と平等の国~♪」などとお城の上で高らかに謳い上げており見た感じ封建制を取っているくせに明らかに矛盾しているがまぁしょせん夢だからいいじゃないの。ネットで見た画像だがなにかのファンタジー系ゲームには「共和国王」というのが出てくるとか。この映画の王様も共和国王という夢の立場なのだろう。それにしても自由と平等と歌わせておきながら中世風のお城しか想像できないあたり、原作ありきとはいえ現在のディズニーのクリエイティビティの暴落っぷりを仄めかすようである。お城とヨーロッパ中世から脱却した南国の原始共産制ユートピアに挑んだ『モアナと伝説の海』が想像力という点ではディズニー最後の輝きだったのかもしれない。

まそんな現実の話はどうでもよい。その後みんなの白雪姫は悪い継母によって放逐され七人の小人と遭遇して(小動物たちの導きで小人ハウスに入る下りはサイコーである)うんたらかんたらあるわけだが、うーんどうもこのへんから夢が醒めてしまったようだ。七人の小人を低身長症の役者さんに演じてもらうとかしないで全部CGにしてしまうのもどうなのかと思ったりするわけだが(別のキャラには低身長症の役者を起用しているだけに余計にそう)、しかしあくまでも夢の世界なのだと思えばこれはまぁいい。どうかと思うのはリアルというわけではないが小人遭遇以降なんかシリアス風な人間ドラマっぽい展開になってきてしまい、しかもグリム童話版ではどうなのか知らないがディズニーアニメの『白雪姫』では文字通り白馬の王子様だった人が下町の貧民に変更されていたので、画的にとても華がなくなってしまうのだ。映画がこう夢から醒めてしまうなら俺の方が夢を見るしかない。ぐー。

目を覚ますと悪政に業を煮やした貧民たちがついに一揆を起こして悪い継母女王と対峙する感じになっていたが『白雪姫』ってそんな感じだっただろうか…? もちろん一揆は白雪姫の助力で成功し民衆は勝利を収めるフランス革命再現パターンなわけであるが、一応の大人としてフランス革命はマリー・アントワネットと名前のわからない国王(影が薄い)のギロチン処刑という野蛮で終わりその後テロリズムの語源となったロベスピエール恐怖政治の時代が始まって民主主義が成立するにはなお多くの死者と混乱を要したという史実を俺は知っているので、なにもそんな現実を夢の世界に持ち込まないでもと思ってしまう。知らんけどなんか王子様と白雪姫が悪い継母女王と対決してちゃんちゃんめでたしめでたしみたいな感じじゃダメだったの? アニメ版とか原作もそうだよと言われたらへぇそうなのかってなるけどさ。

まぁそういう感じで途中までは良かったけどそこからがちょっと残念な映画だったね。実写版『リトル・マーメイド』なんかは賛否両論あるようだが俺的には最後まで夢の世界をやってくれたから楽しかったですよ。そういう思い切りが『白雪姫』には足りなかった気がするな。どこかで「ここいらでちょっと現実世界に目配せして社会派的メッセージらしきものを入れといた方が今の観客にはウケるんじゃないすか? ほらアカデミー賞とかも取れるかもしれないし」みたいな大人の打算を感じたよ。そういうのはダメ。ファンタジーならファンタジーをちゃんと最後までやりきってください。それがあーたセルアニメ時代のディズニー映画の美徳だったわけだからさ。画面の中に完璧な夢の世界を作っちゃうっていう。人種とか舞台(地域)とかそんなもんはどうでもいいんだ。夢をしっかりと作ってくれればなんだっていいのに、今のディズニーは商売っ気を出して夢をしっかり作ってくれないから、不満を感じる人が出てくるんじゃないですかねぇ。

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