発想だけ面白い映画『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』感想文

《推定睡眠時間:45分》

すべての上映館で共通なのか一部の上映館だけのオマケなのかわからないのだが何の気なしにネットでこの映画のチケットを予約しようとしたらその日の全上映回でコラムニストの町山智浩の解説動画が付いてくるとのことでぶっちゃけえーと思ってしまった。たしかグザヴィエ・ドランの『Mommy/マミー』だったと思うのだが前にも新作映画を観に行ったら上映前に5分ぐらいの紹介動画が付いてきたことがあってそのとき俺は無駄に怒り狂った。映画なんてものは観客一人一人が自分の力で咀嚼してたとえ間違っていたとしても答えを導き出すものだろうが!

あれから約十年、今では「まぁでもほら、世の中いろんな人がいるからさ…」と俺も丸い大人になったものだが、それでもやっぱ上映前の紹介動画とか完全に無駄であるという立場に変わりはない。これと比べれば『スイート・イースト』の町山智浩による解説動画は上映後に付いてきたので良心的ではあるのだが、あれはどういう意味だったんだろうあのシーンのあれが良かったなと内容を反芻する時間もなくエンドロール後速攻で解説動画に移行するとか野暮だし映画体験を貧しくするものだと思う。解説動画が見たかったらその人が自分でYouTubeとかで見れば良いわけで、その映画を観に来た全員に見せるというのはやはり違うんじゃないすかね。まぁ洋画も売れない時代だし、少しでも集客の足しになるならばという配給の判断は理解できるが、ということで俺は解説動画が始まる前に席を立ってしまったのであった。

おそらく席を立たずに町山解説を聞いていればこのなんだか不思議な映画の内容がもう少し理解できたかもしれない。サブタイトルに『不思議の国のリリアン』とあるように基本的には現代を舞台にした風刺ファンタジーというような映画がこれで、ワシントンD.C.に修学旅行中の南部田舎だかの高校生の一人がウサギの穴ではなくショボいバーの地下にナント実在したピザゲート(ピザ屋の地下にヒラリー・クリントンが関与する児童人身売買組織のアジトがあるとするQアノン陰謀論)の穴を通ってアンティファ(反ファシズムを標榜し街頭での直接行動を行うアナキスト傾向の強い人たちの総称)だの極右だのという現代アメリカのさまざまな不思議領域を旅する。

感触的にはジャック・リヴェットの特殊効果や特殊衣装や特殊セットの一切出てこない台詞だけで特殊設定を説明しファンタジーだと強弁する現代ファンタジーの『北の橋』『デュエル』と近かったと思う。つまり南部田舎だか高校生の目を通して見ればワシントンD.C.とその周辺に蠢く都会の思想強めな人たちは珍妙なファンタジーの如しと映るわけで、このへんアメリカ在住のコラムニストでアメリカ三面記事に詳しい町山解説でなるほど理解が深まるであろうなたしかにと思わされるところ。観た上で解説を聞けばへー今のアメリカってこんなに左右ともども狂ってるんだーとわかって良い勉強になるんじゃないでしょうか。

が、いかんせん映像がつまらなくて(俺は)そんなことどうでもよくなってしまった。監督は撮影監督として『テスラ エジソンが恐れた天才』『グッド・タイム』といった主にインディペンデントの作家性の強い都会派映画を多数手掛け映像作家の遠藤麻衣子とのコラボでも知られるショーン・プライス・ウィリアムズということでこれはこれで撮影監督としての映像美学もあるのかもしれないが、俺には基本的にダラダラと16ミリだかの手持ちカメラを回してるだけにしか思えなかった。これも低予算のインディペンデント映画だからセット撮影はほぼなくほとんどがロケ撮影、だからドキュメンタリーのような質感なのだが、それが面白くない。現代アメリカの政治的なあれこれといったところで別に衝撃映像のようなものがあるわけでもないし出てくる人やグループもとくに目新しいものでもない。その上でストーリーなどあってないが如し映像日記のような展開なわけだからそんなものは寝てしまう。音楽もあんまりないし。

田舎暮らしの高校生にとって今のアメリカの都会風俗はファンタジーという発想は悪くないかもしれないが、発想だけでは映画って成立しないんだなぁ(当たり前だ)。これならこういうストーリー仕立ての連作写真とかにした方が良かったような気もするがどうだろうか?

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