【ユーネク】ニコニコホラー映画『スマイル2』感想文

《推定ながら見時間:15分》

前作の『スマイル』は全米スマッシュヒットということでそれなりに話題になったがあんまり面白くない映画だった。笑顔が怖い。それは感覚的にもちょっとわかるし『女優霊』の後ろの方でゲタゲタ笑ってる幽霊を除けばあんまりホラーでは見たことのないアイデアだから面白そうな気もするのだが、なんだろうな、1作目に関して言えば、まず笑顔が怖いというコンセプトを映像に落とし込むのに失敗してると思い…あんまり怖い笑顔というのが出てこない。なんか「どうだ!」みたいな笑顔が多くて怖いっていうか逆にシラけちゃうっていうか。それならそれでシチュエーションに凝ってさ、たとえばお葬式に行って参列者の一人がずっとニヤニヤ笑ってたらちょっと怖いよね。でもそういうのもなくて、結局『イット・フォローズ』の影響を受けたと思しき憑きものホラーの凡作になっちゃった。日本では配信スルーになったが当然の判断。なんでこれがスマッシュヒットしたのか謎なのでアメリカは不思議の国だなと改めて思う。

そんなわけで今回も配信スルーだしゼロ期待の『スマイル2』であったがあれこれ前作よりも面白いじゃないの! もはや詳しいことは覚えていないが前作はたしか平凡な女の人がなにかショッキングな出来事をきっかけに行く先々で人が自分に気味の悪い笑顔を向けているような気がしてくる…というから心理ホラーかなと思ったらこの仮称スマイリーは伝染性の悪魔のようなもので人から人へ取り憑いてその人に「自分は笑われている」みたいな幻覚を見せるらしい、とわかる。ふぅん。それならショックで頭がどうにかなってしまったのだで押し通した方が悲惨度が増して怖かった気がするけどなぁ…みたいな映画であった。まぁいろいろ雑な典型的なカネをかけずに撮った低予算アイデアホラーですよね。

しかし今作は違った。やってることの基本は同じなのだが今度の主人公は世界的なポップスター。数年前の自動車事故と薬物依存でどん底まで落ちかけたが周囲の尽力もありなんとか復帰、間近に控えた全米ツアーを成功させれば一度は失った栄冠を再び手にできるのだ! とその矢先に多大なるプレッシャーからスマイリーに取り憑かれてしまうわけで、この設定がまず良い。人に笑われているような気がするという恐怖は人に見られるために存在するポップスターという職業なら説得力があるし、日本なんかとは比較にならないビッグマネーが動くアメリカのショウビズ界であるから怪しい輩もコバンザメみたいに色々近づいてきたりして、キャリア復活をかけた全米ツアー直前となればそのプレッシャーから疑心暗鬼に陥っても不思議ではない。今回も相変わらず笑顔そのものは怖くないが、段々と精神的に追い詰められていくポップスターの姿を見ているとこちらまで胃が締め付けられるようだ。

おそらく前作よりは予算をもらえたであろうとはいえ今作も小規模なホラー映画には変わりがないので、主な舞台はポップスターの一人暮らし金持ち邸宅のセット。しかしこれも功を奏しているので偶然なのか意図的なのかわからんが巧いもんだ。ただ広いだけで生活感がまるでなく空虚なこのスター邸宅はまるでポップスターの心象風景。常に薄暗く寒々しく静寂に包まれたこの邸宅の映像はぶっちゃけ人間の笑顔よりも怖い。どちらも観ていないのだが、こんなキレイに荒廃した生活を送っている人がどんどんと妄想と現実の区別がつかなくなって壊れていく展開は、『パーフェクト・ブルー』『ブラック・スワン』に通じるかもしれない。

なにせ笑顔を恐怖描写として使うといういかにもお金のかからないアイデアが核になっているものだからこれは予想外だったのだが、今回はゴア描写も結構がんばっていたのも好感度の高いところ。前作なんかゴア描写一箇所もなかったんじゃないかと思うが今回は急にミドルクラスのゴア、顔面は叩き潰されてぐちゃぐちゃになり、喉首は切り裂かれて血が噴き出し、目玉は飛び出して眼窩に穴が空き、引き裂かれた腹からは怪物が生まれる。これは厳密にはゴアではないのだが髪をむんずと掴んで無理矢理引っこ抜くとか、口に拳を押し込んであり得ない深さまで入っていくとか、そういう描写なんか実に生理的にうへ~な感じであったね。

あれ、なんかゴアがすごいとか言い出したらもう笑顔がどうとかあんまり関係なくない? うんまぁ関係ないかもしれません。てか最終的には関係なくなりました。まぁでも、面白いからいいじゃないの! 救いのまったくない展開も最近のぬるぬるアメリカン・ホラーの中では英断だったと思いますよ! ぼく救いのないホラーだいすき! だってホラーだからね! こちとらホラーを観ているのであってほっこりヒューマンドラマを観てるんじゃねぇんだよおい聞いてるかジェイソン・ブラムおい!

あと似ている映画としては他に『MEN 同じ顔の男たち』なども挙げられようか。『MEN 同じ顔の男たち』も観る人によっていろいろ解釈が分かれそうですが、俺はあの映画はトラウマ的な出来事による罪悪感からおかしくなってしまった人が見る妄想と幻覚を描いたサイコホラーだと思っているので、主演ナオミ・スコットの常時精神網渡り状態な熱演もあり、『スマイル2』もそういう類いのホラー映画としてなかなかの佳作だったと思います(あと主人公のコバンザメ的な高嶋政伸みたいな顔した人の悪い人ではないが…的な厭さが絶妙) 

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