ジャンプマンガ的娯楽アニメ映画『ナタ 魔童の大暴れ』感想文

《推定睡眠時間:70分》

中国で空前の大ヒットという大物感を醸し出しているわりには監督・脚本の人が餃子(ジャオズ)という名前でズコッとなるが最近は日本の漫画家とかの人でもなんか大福とかたこやきみたいな感じの(あくまでも感じの)ペンネームの人は多いから餃子というのもなんかそんなようなもんなんだろう。しかしズコッとなったのはなにも監督名だけではなかった。インドにはハヌマーン日本にはスサノオといった感じで案外ヒーロー的なキャラは世界中の神話に見られて中国の場合はナタがそんなようなポジションになるかと思うが、そのナタをタイトルに冠しているのだからマーベル映画みたいなアクション叙事詩なのかな本国で大ヒットしたというしと思いきやかなりコミカルでライトなノリ。

日本では未公開の前作で何があったかは知らないが(一応冒頭でかいつまんで説明はされる)のっけから主人公の悪童ナタくんと相棒のクールキャラは死んで霊魂となっているのだが、デブの師父がこいつらを復活させようとしていたら都みたいなところに藤崎竜の漫画で読んだから名前だけは知っているぞ申公豹(しんこうひょう)襲来、よくわからんが都の人々はシールドを張るも申公豹は龍を味方に付けて妖怪軍団を引き連れてきたのでシールドが突破され戦争勃発ということで最初からクライマックス。上映時間144分の長尺は人間界と妖怪界の大戦争のためにあるのだろう…と思いきや、最強ヴィランっぽく現れた申公豹と主人公一行が戦争を尻目になんかのんびりと砕けた会話をしとる。その後、ナタくん仙人の免許証をもらうために中国の天界である崑崙へ。そこからはギャグ満載なので『ドラゴンボールZ』でいったらセルとの戦いに入る前に原作に追いついてしまったため追加されたアニメオリジナルの日常回みたいなテイストになるのであった。お前ら戦争しとるんちゃうんか。

中国アニメ映画といえば『羅小黒戦記』もそういえばこんなテイストだったかもしれない。なんかデカめの戦いが背景にあるわりにはシリアスにならず道草食ってギャグばっかやってるっていう。このへんの作りは日本の少年ジャンプ系アニメ映画に似てるなと思う。『呪術廻戦0』なんかこんな感じじゃなかったか。敵キャラがシリアスな大悪党という感じでもなく茶目っ気があったりするのもそう。考えてみればこういうのは多神教を下地とするアジア的な善悪観なのかもしれない。アメリカとか一神教世界の本格的なアクション映画だと子供向けアニメでも悪はあくまでも悪(もしくは憐れむべき存在)という感じで悪役がオモシロキャラとして描写されたりする大らかさってあんまないよね。そういう大らかさは欧米風のドラマティックな展開を作るにはあまり向いていないが、オモシロキャラとかオモシロギャグを沢山入れられるから説明のためだけにあるみたいなつまらないシーンを減らせるのがメリットだ(だから総合娯楽っぽくなる)

面白かったのは敵の設定で、ライバルキャラの申公豹とは別にもう一人悪いヤツが出てくるのだが、コイツは言うなれば中央の権威を笠に着て私利私欲を貪る悪徳役人。現代中国では中央の監視の目の届かない地方役人の腐敗が大きな社会問題となっていて習政権は腐敗追放キャンペーンを打ち出したみたいなことを何年か前に読んだ気がするから、そういうのをモチーフとした悪役造型だったんじゃないだろうか。天尊が悪いのではなくその下で働いてる中途半端に偉い立場の連中が悪い。作ってる方にとくに批評的な意図はないだろうが、なんとなく現代中国のかたちが見えてくるところである。

登場人物(生物)がやたらと多く人間関係が複雑で地上界と崑崙と精霊界? を行き来する物語のわりには映画的なダイナミズムを欠いてスケールが大きいのか小さいのかわからない映画だが、キャラとかギャグとかアクションは出し惜しみしないので、とにかくまぁ退屈するところはきっとない。中国で大ヒットと聞けばなんとなくほほうどれどれ的に襟を正して観てしまうが、そういうものではなく誰でも気楽に楽しめるジャンプ的娯楽アニメということだろう。エンドクレジット短かったからわりと予算少なめな映画っぽいし。ナタ最後の方で悟空とかルフィみたいになるし。結構寝たがおもしろかったです。

ところでそれはそうと、これはこの映画だけじゃあなく日本でもアメリカでもヨーロッパでもそうな気がするのだが、なんでフルCGアニメの映画ってカメラなんか自由に動かせるはずなのに画作りに凝らないでスポーツ中継みたいなメリハリの無い画面になるんすかねぇ。

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