6/14 今日は『海街diary』を観た。感想書いた。

《推定睡眠時間:0分》

今日は『海街diary』とゆー映画を観てきた。
どーゆーハナシかっていうと、鎌倉の古い家に綾瀬はるか・長澤まさみ・夏帆の三姉妹が暮らしてる。
両親はいない。父親はずっと昔に愛人作って家を出ちゃったし、母親も再婚して家を捨てた。
だから三人だけで暮らしてるんだけど、でもその共同生活は結構幸せだった。
そんな中、三人の下に父親の訃報が届く。
で葬儀に出て知ったのは、父親の愛人もすでに死んでて、死ぬ前にはまた別の女と暮らしてた。そして父親と愛人の間には娘がいて、今は義母と暮らしてる。
三姉妹はその娘・広瀬すずの境遇を心配して、一緒に暮らさないかって誘う。
そんなワケで、四姉妹の共同生活が始まるのだった。

うーん、それにしても、コレはホントよく出来た映画だなぁ。
女優さんの演技は素晴しくて、とく長澤まさみなんて完全に役になりきってる感じ。
この人、ダメ男に騙される系の女の人なんだけど、テンプレ的なダメ女じゃなくてちゃんと血が通ってる感じがして。感情の変化とか凄い自然。
綾瀬はるかとか夏帆も良いし、その三姉妹が若手女優の広瀬すずを見守って育てていくっていうメタフィクショナルな構図も面白いよなぁ。
脇を固める加瀬亮とかリリー・フランキー、大竹しのぶも良かったなぁ。
抑えた演技なんだけど感情の機微が感じられるし、ハナシもぐっと広がって。

常にたゆたうような撮影もとてもいいんだけど、四人で食卓を囲むシーンなんかはカッチリとフィックスで決める。
動きの変化はとても微妙で自然なんだけれども、その中で四人の食卓は絶対に揺るがないんだなってのを感じさせてくれる。
撮影監督は瀧本幹也さんて人で、これが長編二本目らしい。もっとベテランかと思ったから、ちょっとビックリした。

凄いなと思ったのは、エキストラの扱い。演出が隅々まで行き届いてる感じで、画面の奥のほう見てるだけでも面白い。なんかドラマがある。
顔も良かったナ。ホント、個性的な顔のエキストラばっかりで。
切れ味鋭い偏執的な編集のオカゲもあってか、1シーン1シーンは物凄く完成されてる。どこを切り取っても、それだけでCM一本作れちゃいそう。

原作は読んでないんだけれども、脚本も相当練られてるんじゃないかなぁ。
小さなエピソードを淡々と続けて、その中で本筋のエピソードを少しずつ描く。
大きな事件なんて一つもなくて、料理を作る、食事をする、仕事行ったり部活打ち込んだりっていうコトの反復にちょっとした変化が加わってって、ほとんど気付かないウチに四人が打ち解けて、広瀬すずが成長してく。
何気ないセリフがずっと後の展開に対応してたり、かと思えば大事かなぁと思ったエピソードがそのまま放棄されたりして、とても日常的でミニマルなハナシなのに、どう転ぶか分からない面白さ。

そういうの全部調和してて、なんとも居心地の良い映画空間みたいの作ってんの。
ホント、すげーよく出来た、幸せな映画だったなぁ。

でも、これちょっと出来すぎてるよな。
苦手だ、こーゆー映画。
それも物凄く苦手。

『海街diary』で描かれる鎌倉ってホントに美しい世界でさ、みんな優しくて平和な感じじゃん。それがなんか、イヤ。
たとえばこの映画って、ネットもPCもテレビも、新聞すら出てこない(ケータイは冒頭だけ出てくる)
外界への窓は徹底的に閉ざされていて、鎌倉から外の世界は描かれないし、出てきたとしてもソコには三姉妹が嫌う人たちが住んでる。

家と三姉妹を捨てた大竹しのぶもソコに住んでて、この人は三姉妹にとっては死んだも同然になってる。
後半、大竹しのぶが鎌倉の家に来るんだけど、一方三姉妹は決して大竹しのぶの家に近づこうとはしない。
三姉妹の間にそのような会話すら取り交わされるコトが無いワケで、彼女たちにとっては鎌倉が世界の全てって感じになってる。

鎌倉の外は悪い場所で、彼女たちは絶対に触れようとしない。
触れたらどうなるかって言うと、多分もう一緒に暮らせない。
外の世界の毒と誘惑は、姉妹をバラバラにしちゃうと思う。

単にそーゆーハナシってだけならまぁいいけど、でもイヤらしいのは、是枝裕和監督がそのコトに極めて自覚的だったとしか思えないトコ。
だから、いかに現代を舞台にした映画として不自然だとしてもネットもPCもテレビも新聞も出てこないんじゃない?
四姉妹の暮らす鎌倉はどこまでも美しくて理想的にさえ思えるけど、そのユートピアは排除の論理によって成り立ってるってワケで。

実際、この映画には部外者っていうのが出てこない。
たとえば身体障害者、たとえば精神病患者、たとえば犯罪者やLGBTや外国人みたいな、少しでも鎌倉の調和を乱しそうな人たちは徹底的に排除されてる。
姉妹の会話の中には精神病の人がちょっとだけ出てくるけれども、そこで語られる精神病の人は姉妹の幸せな生活を邪魔する人として捉えられてるんだよ。

この感じなにかっていうと、『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)の、あの感じ。
人工的なユートピアで、それは明らかに事実じゃないんだけど、映画の呼び起こす強烈な郷愁が事実を掻き消す。
その点でいえば『海街diary』の方がタチが悪い。
あんな美しいだけの鎌倉なんて存在しないのに、ドキュメンタリー出身の是枝さんはリアリズムで撮るから、それが『always 三丁目の夕日』であるとか、あるいはウェス・アンダーソンの幸せな箱庭世界と同種のモノであると感じさせない。
ある種、やってるコトの方向性は『意志の勝利』とかに近いんじゃないの。
プロパガンダ的な。

姉妹にとって都合の悪い人の排除された、姉妹にとって優しい人や友達になれる人だけで構成された鎌倉。
その外部は存在しないし、異質な人は存在しないし、性とか死みたいな、幸せな同質性に満たされた日常を乱す全ては言葉の上で、否定的な意味でしかありえない。
ここには他者が一人もいない。
卓抜した技術と才能と情熱でもって、是枝さんはどこまでも冷徹に、その痕跡すら残さずに他者を抹殺する。
だから、凄くよく出来た面白い、幸せな映画だけど、凄くイヤな映画だったなぁ。

あーあ、明日はなんの映画観よっかな。

(終わり)

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そんな郷愁に満ちた美しいだけの世界なんて現実じゃないんだ!
と言ってくれるのが『オトナ帝国の逆襲』なので、解毒のために観たい。
しかし監督の原恵一さん自体はその後、優しい人たちばかりの優しい映画を撮るようになり、この映画の頃みたいな力は無くなったと思う。

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16 Comments
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匿名さん
匿名さん
2018年5月27日 3:32 PM

原作は良い。映画がガッカリでした