ははは。
子持ちの夫婦がいてさ、母親が娘を心配して遠まわしにどうしたのか尋ねんの。
で父親に「アナタもなんとか言ってよ!」って目配せすんだけど、父親は野球かなんかのコト考えてて気付かない。
そんとき、母親の脳内の感情さんたちは「使えないヤツ!」「なんでこの人と結婚したんだろ」とか父親をボロクソ言ってて、ほんで元彼の美化された思い出を引っ張り出してくんのだ。
なんか子供向けのカワイイ映画かと思ったら、『アニーホール』(1977)みたいなギャグをやる。おもろい、おもろい。コレはおもろい。
つーコトで脳内アドベンチャー映画『インサイド・ヘッド』観てきたから感想書く!
以下あらすじ!
ミネソタ生まれのライリーちゃん。その脳内にはリーダー格のヨロコビの他、イカリとムカムカ、ビビリとカナシミなんつー感情さんたちがいた。
幼い頃のライリーちゃんはヨロコビの指揮の下でクスクス笑いながらスクスク成長。ときおりイカリやムカムカなんかに席を譲りながらいろんな経験と記憶を蓄えて、その脳内世界は豊かに愉快にハッピーになってくのだった。
ハッピーハッピー、ずっとハッピー…と思われたその矢先、ライリーちゃんは家庭の事情でサンフランシスコのボロ屋に引っ越すコトに。
新しい環境にライリーちゃんは大混乱。感情さんたちも大混乱で、なんやかんやあった挙句ヨロコビとカナシミが意識の司令室から追放されてしまう。
イカリとビビリとムカムカだけじゃライリーちゃんをハッピーに出来ない…!
ってなワケで意識の司令室に帰還すべく、ヨロコビとカナシミは広大な意識下の脳内世界を旅するのだった…。
こないだ『脳内ポイズンベリー』(2015)やってたが、アッチは脳内感情人間たちのディスカッション映画なのだった。
同じような映像もあるんで最初は『インサイド・ヘッド』もそーゆー映画かと思ったが、いやとんでもない、コッチは一大アドベンチャー映画なのだ。
脳内は広い! まさにインナースペース!
で、マァ色んな脳の領域が次々出てくんのよ。迷路状になった記憶の貯蔵庫とか、妄想爆発イマジネーション・ランドとか、文字通り夢工場の脳内ハリウッドとか、情報の圧縮所に記憶のゴミ捨て場にってな具合。
脳内のハナシなんでなんでもアリだろうと言わんばかりにカラフルでシュールなイメージが矢継ぎ早に投入されて、万年お子様の俺にはまったく眼福。
とにかく楽しいんだけど、しかし監修にちゃんと脳科学だかの人が付いてるっぽいんで、なにもやたらめったらイメージで遊んでるワケでない。
ちゃーんと脳の機能が整理されて緻密な設定の上で脚本と映像に起してる感があり、全然散漫にならんでエライ緊密な作りになってんのだ。
(そのあたりも『脳内ポイズンベリー』との違いである…と俺の脳内のワルグチが言ってる。いや、ネチネチか?)
いやホント、よー出来たハナシだなぁと思う。
ヨロコビとカナシミの脳内大冒険と平行して、そーゆー感情を失ったライリーちゃんの心の揺れ動きとかやる。
いやそれだけだったらそれこそ『脳内ポイズンベリー』と同じなんだけど、ライリーちゃんの生きる外的世界があって、その下にヨロコビとかカナシミの住む意識の司令室のある内的世界があって、んで更にその下に意識下の脳の世界があって、みたいな多層構造になってんのね。
でさ、ヨロコビは最初自分たちがライリーちゃんを操縦してると思ってたんだけど、意識下の脳の世界を冒険するうちに意識下の脳が実はライリーちゃんの行動とか思考の大体を決めてるんだってコトを知ってくワケ。
なんつーか、コレは実際スゴイんじゃなかろか。主軸として能動のヨロコビと受動のカナシミの対立軸があるんだけれども、その関係っていうのが外的世界に拡大されて、一方で意識と脳の関係にも繋がってくと。
シナプスの如くそれぞれの層に複数のリンクを張って展開させてくのもスゴイが、ヨロコビだけじゃハッピーになれないよ、勢いに任せて行動するだけじゃハッピーになれないよ、意識に任せるだけじゃハッピーになれないよ、と展開の中で自然と納得させちゃうあたり、なんだかエライ老成したハナシなんである。
アメリカの事情とかよー知らんが、イメージだけで言うと自由意志を尊重して意識による自己の制御を是とするお国柄だと思ってたんで、ピクサーとはいえ子供向けアニメでこんなコトやるとは思わなんだ。
行動による改革とか、自由意志の勝利なんてのはしょせん幻想に過ぎないじゃないかとこの映画は言うワケで、ゆーても実存が常に問題になるアメリカ映画の中にあって、ハリウッド大作はもとより気取ったアート映画なんかよりも遥かにラディカルな立ち位置にあると思われる。
つか別にアニメとかアメリカ映画とかっての抜きにしたって、こんだけ(映像的にも脚本的にも)複層的に人間どうあるべきかとか、人間の意思決定のプロセスはどうなってるかっつーのを理路整然と描いた映画ってのもナカナカ無いんじゃなかろか。
そう考えると、分厚くて小難しい思想書とか科学啓蒙書を噛み砕いて想像力豊かに映像化したような映画に思えてくる。
そのくせメチャンコ面白いんで、いやまったくスゴイのだ。
なんやガタガタぬかしたが、しかし実際観ると狂騒的なスラップスティック・コメディで、どうせ脳内だからとヨロコビたちが大げさな身振りでピョンピョン跳ね回ったり、潰されてペラペラになる映画だったりする。
編集なんてものっそい素早くてさ、んで目まぐるしい展開になってて飽きるトコとか全然ナシ。
なんか『ルーニー・テューンズ』みたいだな。いやまったく、愉快愉快。
愉快っつーと、やっぱアレだろう、ジェリービーンズだよ。コイツら惰性で仕事して定時で帰宅するやる気の無い意識下労働者(なんのコトやら分からんが、この人たちが脳内の情報を処理してんのだ)なんですが、その醒めまくった態度に爆笑。
ヨロコビたちなんぞガン無視で古い記憶をバシバシ捨てたり、かと思えば「それ絶対なんの役にも立たねぇだろ!」みたいなクソ記憶をその場のノリでなんとなく保管してやがったりする。
結局感情たちがどんなに混乱しようが苦しもうが、人間はこんな適当なジェリービーンズどもに動かされてんである。身も蓋もない!
あぁあと、ビンボンっていうちょっとイってるキメラ生物も意識下の世界をうろついてて、コイツがまた良いキャラしてんだよなぁ。
この人幼い頃のライリーちゃんの空想上のお友達だったんだけど、大きくなってからは忘れられて居場所が無くなっちゃった。
今はライリーちゃんと一緒に遊んだ記憶だけを糧に生きててさ、その哀愁に涙腺緩むんだわ。
…とか書いてたらキリが無い。こんなもん全編見所だよ、全編。
最初に書いたみたいに色んな人間(動物)の脳内見せてくれたり、夢の(とてもバカバカしい)生成過程見せてくれたり、抑圧された恐怖に遭遇したり(その正体にはたぶん多くの人が納得すると思うのだ)、うわぁ、映画って楽しいナァ、なんでもできるんだナァ感いっぱい。
スラップスティックとか書いたが、ギャグだってあの手この手。シュールもブラックもメタもなんでもありよ。
ちょっとシニカルなトコもあって、こんなセリフが飛び出したりする。
「事実と意見って見分けがつかないなぁ」
「そんなのどっちも同じだよ」
ははは、サラリと入れてくるあたり気が利いてるなぁ。
そうだ、そういうトコで言うとこの映画、芸がすげー細かいんだ。
意識下の世界にゃライリーちゃんの大好きなフライドポテトを巨大化したオブジェみたいのがある。でヨロコビがそれを手に取って、その後で指をペロって舐めんの。
コレなんのコトない描写なんだけど、結構忙しないカットの流れん中にチョロっと入ってきて、こーゆーのはスゲェ良いなと思うワケ。
伏線の張り方なんかも巧みで、あるいはこーゆー何気ない描写が後の展開を引っ張ってきたりするんだよ。
…いや、だからそんなの書き連ねてたら終わらねってば!
とにかく、こりゃ素晴しいケッ作なんであった!
追記:ただ、アレだ、詰め込み過ぎって思う人はいっかもしんない。展開が駆け足過ぎるって風に言えたりもする。
あるいは、意外とヨロコビとカナシミ以外の感情たちはハナシに関わってこなかったり、とくにムカムカなんてお前、いる? レベルでなんもしなかったり。
マァ、ライリーちゃんはあんまムカムカしない穏やかな女の子で、お子様の脳内なんてこんな風に落ち着きなく駆け足で混乱してんのよ、とかはぐらかしとく。
追記2:本編前にドリカムのプロモとピクサーの短編が付いてて、本編始まるまで結構長い。
短編はともかく、ドリカムのプロモはいらねぇだろっつか、なんか素人が作ったみたいな安いプロモだった…。
追記3:ゲーム界のピクサーと俺が勝手に呼んでいるレア社のゲームの世界観によく似てる気がする。『バンジョーとカズーイの大冒険』とか(コレもケッ作)
【ママー!これ買ってー!】
意識は傍観者である: 脳の知られざる営み (ハヤカワ・ポピュラーサイエンス)
別に映画とはなんの関係も無いが、こないだ読んで面白かったんで。
コレ意識と脳の関係を解説した本なんですが、あまり込み入ったハナシはなくて、色んな実験結果をエピソード的に紹介しながら犯罪者の有責性とか自由意志の問題に切り込んでく。科学啓蒙書っつーか科学エッセイ。
ぶっちゃけ著者の言ってるコトに妥当性があるか無いかみたいのはこの本読んだだけだと分かんないんですが(参考文献まで当たる努力はしない)、語り口易しいし図版もたくさん、実例と身近な例え話使ってハナシ進めてくんで、どうあれとても楽しくサクサク読めんのは間違いない。
あんま目新しいコトも斬新なコトも書いてあったりはしませんが、良い本です。
↓その他のヤツ
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文章がスゴい下手ですね