ミミズ千匹とかよく言うが(よくは言わないか)、コッチはムカデ500人、もとい500節なのだった。
いやー、夢があるな。そしてスケールがデカイ! 人間、やっぱコレぐらいデカイ夢、見たいよな!
地域共同体が崩壊し、人間関係の希薄化が問題になる世の中だ。
やれ草食系だ悟り系だ言って取り繕ってやがるが、バカ野郎! お前ら今日からムカデ系だ!
繋がれ! 繋がれ! そして地平線の果てまで夢を見ろ! ムカデの夢を!
つーコトで『ムカデ人間3』観てきたんで感想垂れる。
えーと、あらすじはね、狂った刑務所の所長が囚人全部繋げて超ロング人間ムカデ作ろうとすんです。
州知事のエリック・ロバーツ(もはや作品とか選ばないなこの人)から「お前んトコの刑務所はダメだ! 改善しなきゃ解雇だ!」って言われて、ほんで極悪所長は秘策として全囚人ムカデ化計画を実行するワケ。
ムカデにすりゃあ囚人も大人しくなって、費用もかかんなくなって(そうか?)、州知事から褒められて…いや待てよ? コイツは実に画期的な懲罰にして更生プログラム、ムカデの恐怖で犯罪率は激減するだろうし、ってコトは国の支出も大幅に減る!
きゅ、救世主だ! 俺はアメリカの救世主だ! ムカデ万歳! アメリカ万歳!
…とゆー映画。
しかしアレだなぁ。監督のトム・シックス、実にテキサスな風貌から確実に南部の人だろうと思ってたら、オランダの人だった(コレもアメリカ・オランダ合作)
そうかオランダか…ポール・ヴァーホーヴェンのせいでオランダ人監督はみんな変態なんだと思ってたが、やっぱそうなんだな。
前作『ムカデ人間2』は主人公が一作目の『ムカデ人間』を観てるとっから始まるメタな映画だったが、『ムカデ人間3』ともなると劇中に一作目二作目が出てくるだけじゃ飽き足らず、トム・シックスが本人役で出てきてしまう(!)
「えぇ、ムカデ人間は科学的に実証されています! 実現可能なのです!」
とか言い出して面白いが、変に紳士かつ常識人ぶる。
ウソつけ! お前変態だろ!
…と言いたいところですが、これがなかなかどうして普通の…いや普通ではないにしても、なんとゆーかダーティではあっても変態度は薄いコメディなのだった。
ってか一作目だってなんやかんや笑える楽しい映画になってたし、二作目はシリアスでアングラ変態感あったが、ゆーても「分かった」感のある変態だった。
ほんで今回は完全にコメディに振り切れてんので、なんかポップコーン食べながらゲラゲラ笑える映画になってます。
一作目二作目はそれなりにリアリティとか狂気とか感じさせるような作りにはなってて、コワイ部分あったけど、コッチはもうそういうの無い。
健全な悪趣味バカ映画。
人種差別、宗教差別、性差別、熱湯拷問、腕切り落とし、金玉切除、金玉食べ、割礼クリ(剥きグリ?)食べ、レイプ、昏睡状態レイプ、腎臓穴あけレイプ…って危険な単語が大量に並ぶが(きっとgoogleのボットさんに有害判定されるだろう。このサイトが!)、全部ギャグになってんので親御さんも安心。
極悪所長が一作目に出てたディーター・ラーザー。よく観ると蟹江敬三っぽい顔してるが、その顔をこれでもかこれでもかと歪めて、
「うぉれはぁぁぁ! おぉぉまえらをぉぉぉムカデにするぅぅぅ!」
とかソウルフルにシャウトする極バカ演技ずっとしてんので、なにがあろうとバカだなぁで済みます。
アレだな、そこらへん、作風っちゅーか思想からしてシャバに出しといたら危ないタイプのヴァーホーヴェンとは格が違うな。
トム・シックスなんて所詮は変態でもなんでもなく、単なるユーモラスでサービス精神いっぱいでムカデ人間なんてバカげた映画を撮るガッツがあってそれを成功に導くセンスがあって自分の製作会社立ち上げる行動力があって妹や家族に製作を手伝ってもらうだけの人望と家族愛のある常識人ですよ。
それ、すごいナイスガイじゃねぇかよ!
まぁなんですか、一作目はともかく二作目とかアレ、結構強烈な映画だったよな。
衝撃の変態デビューを果たした主演のローレンス・R・ハーヴィーがさ、なんか本当にヤバい人なんじゃねぇかみたいな感じとかあったワケですよ。
そのローレンス・R・ハーヴィー、今回はマジメな刑務所の会計士になって極バカ所長のディーター・ラーザーとコントやったりする。
プロレスラーが「あんなの演技に決まってるじゃないですか!」と言うようなもんだなコレは。
いやなんかね、そーゆー映画なんです。なまじ二作目がアレだったから、今度はどんな狂った映画なんだろうって期待はあるよね。
ただそーゆー映画じゃないワケですよ、コレ。
いやもうバカでバカで楽しいんだけど、笑えるんだけど(囚人ムカデを見た州知事の言葉に対する極バカ所長の反応、大爆笑)、結局最後まで突き抜けた感じはなかったなぁ、普通にバカ映画のまま終わったなぁと。
だから感じトロマ映画で、たぶんその線狙ったと思うんですが、コレ一作目から観るとトム・シックスのクセなのか、妙に間延びする。
あえて今の映画のテンポから外して80年代っぽいの再現しようとしてる気もすんですが(二作目なんかは確実にそう思う)、ひたすら笑う映画なんだからもっとパッパと進めても良かったんじゃないかなぁと思うんだよなぁ。
なんかね、一つ一つのギャグをすげー引っ張るんですよ。面白いギャグいっぱいあんだけど、だからあんま笑い続かなくて。
同じコトやっても飽きられるだろうってコトで今回は全力でバカに寄せてきたんだと思いますが、そういう意味でなんかこう、不完全燃焼感あったなぁ。
しかしマァ、どうでもいいっちゃどうでもいいか。
500人のムカデ人間、確かに画面に出したんだから有終の美飾ったろう、コレは。
さすがにもうムカデで飯食えないだろうと判断したのかシリーズ最後らしいが、なんやかんや言っても次もいつか作って欲しいよ。
今度はムカデで世界一周。ワォ! イッツ・ア・スモールワールド!
「ムカデ人間には夢がある!」みたいなコトを『ムカデ人間2』観た高橋ヨシキが言ってた気がする(うろおぼえ)
実際、このシリーズって夢だよな。誰にバカにされようと、誰にも理解されなかろうと夢に向かって邁進する人々の勇気を讃えるシリーズだよ。
だから『ムカデ人間3』の極バカ所長もさ、囚人ムカデ作ってアメリカの救世主に! って夢に向かって突き進むワケですよ。
囚人たちからバカにされて、州知事に邪魔者扱いされて、でも俺には夢があると。
俺はアメリカを信じてると。俺だけが疲弊したアメリカを救えると。俺はまだアメリカン・ドリームの可能性を信じてると、そういうワケですよ。
映画は最後、そんな夢追い人をたとえネジ曲がったカタチだとしても祝福する。
どんなに狂った夢でもいい。その夢を妨げることなど誰にもできやしない。そして夢は、確かに美しい…。
でも今の時代、夢の価値と可能性を信じられるヤツはそう多くないかもしんない。
かつてマーク・スチュワートはこう歌ったもんだ。
「Please…don’t sell your dreams…」
夢を売って何を買う? 新しいスマートフォン? 新しい服と靴? アプリゲームに課金して、ちょっとばかし気取ったコーヒーに手を出してみたり。
それで辛い人生がちょっとでも楽しくなるなら、きっと悪いコトじゃない。
でも、信じなくてもいいから聞いてくれ。夢を追うのもそんなに悪い選択じゃない。
それに案外、うまくいくコトだってあるもんさ。
夢を売りさえしなければ、夢を信じて歩き続ければ…。
『ムカデ人間3』は、そんな希望を与えてくれる映画なのだ。
…ゴメン、やっぱ単なるバカ映画だわ。
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一作ごとに作風違ってオモロイなこのシリーズは。シーンに合わせても使い分けられそう。
二作目はなんだ、落ち込んだ時に暗い部屋に体育座りして一人で観たい。
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