映画『天空の蜂』をナメてはいけない! という感想書く

《推定睡眠時間:0分》

堤幸彦のドラマ、『ケイゾク』(1999)とか『金田一少年の事件簿』(1995)とか『トリック』(2000)とか大好きでずっと観てたが、そういや映画の方は観とらんな。
なので堤幸彦とゆーだけで文句言う方々が何をそんなに怒ってんのかワカランが、『サイレン』(2006)とかクソ映画だったからクソばっか撮ってるに違いない。

だがしかし! 俺は『天空の蜂』にメジャー邦画の希望を見ましたよ! これこそメジャー邦画がやらなけりゃいけなかった映画ですよ! 堤幸彦が日本映画を救う!
…いやウソだけど。

東野圭吾原作、堤幸彦監督の『天空の蜂』観てきた。
こーゆーあらすじ。

最新鋭の軍用巨大ヘリ・ビックBが何者かにジャックされた。
犯人は遠隔操作でビックBを高速増殖炉上空にホバリングさせ、全国の原発の破棄を要求。要求が通らなければ爆発物を搭載したビックBを落下させるという。
無人のはずのビッグBには、設計者・江口洋介の息子モ乗り合わせていた。
ってなワケで江口始め原発設計士の本木雅弘、増殖炉所長の國村隼、県警の刑事・柄本明らは江口の息子を救うためにも、未曾有の危機から日本を救うためにも奔走するのであった。

アレだな、なにがイイってさ、意外と攻める。指切断したり足折れたりするトコのカットをちゃんと見せる。生々しく血が出る。
それにカメラを動かす。ステディカムを多用して、移動中の人物を前から捉えながらグルっと背後回りこんで、そこで別の人物が画面に入り込んでくるような劇的な効果を積極的に狙う。

あとさ、イイ話にならないんだよ。全体的にドライなトーンで、お涙頂戴の安易な展開に逃げない。っていうかそうしようとしたフシはあるが、失敗してんのかなんなのか、ワリと硬派な作りになっちゃってるように感じる。
説明セリフの多くは事件の関係者各位の喧々諤々の議論の中で展開されて、物語の中に溶け込む。これ見よがしの心情の吐露は比較的抑制され、とくに犯人側の動機に関しては無言の芝居で見せようとする、とゆー具合なのだ。

…って書いてて「それ普通の映画じゃね?」っつー気もしてきたが、お客さんに対して配慮に配慮を重ね、経済性を重視するあまり(とゆー風に見える)構図やら芝居やらに全く色気を出さない優しくてヌルいメジャー邦画が氾濫する中で、そんな普通の作りの映画は目立つんだよ!
っていうかこの手の普通のパニック映画なんてまずやんねーんだよ! ちょっと前にやってた『S 最後の警官 奪還』(2015)とかパニックものって言っていいと思うが、テレビドラマの映画化って点を考慮したとしても、あまりに雑な作りだったんだよ!
デジタルテロリストが日本をパニックに陥れる『予告犯』(2015)は、原作にあった毒を全部抜いて完全無毒のつまんねー映画になってたんだよ! 原作に無い感動シーンをワザワザ最後に追加して、ちょっと泣けるイイ話になってたんだよ! 恐怖も緊張もなにも無かったんだよ!

でも『天空の蜂』は違うんだよ! 少なくとも指を切断するってコトはどんなに痛いか、そーゆーの画でシッカリ見せるんだよ! 人の命がいかに儚いか、人がいかに無力か、そーゆーのちゃんとやるんだよ!
パニック映画なんだからお客さんハラハラさせて驚かせてやろうと、そーゆー風に撮ってるんだよ!

だから、たとえ相対的にだとしても『天空の蜂』は良い映画なんだ! だいたい相対評価以外の評価なんて人間には出来ないんだ! 映画の絶対的な評価なんて、本質なんて無いんだよ!
ふー…堤バッシングがあんまり激しいもんだからつい熱くなってしまった…。

しかし堤幸彦がどうこう言うよりは、脚本家の人がちゃんとしてると思ったなぁ。いや原作読んでないんでその点なんも言えんけど、そっちは1995年出版なんで、95年設定。
映画でも時代設定は変わらず、従ってヘリに乗った江口の息子に連絡をつけようと対策本部はあの手この手を講じたりするが、なもん子供にケータイ持たせりゃいいだけのハナシじゃねぇかと思ったりする。現代が舞台であれば。
このあたり結構な見せ場になってるが、その他諸々、展開の多くは95年当時の状況に依る(当たり前だけど)。で、その時代設定を現代に変えるとすれば、脚本に根本的な変更が必要になると。

だもんで、またぞろテレビ屋が手抜き脚本書きやがったのかチクショウと思ってたりしたが…だが! トラップなのだった。原作に無いラスト数分に至って、ここでは95年の時代設定に固有の意味があるコトが判明すんのだ。
原発のハナシで95年設定、と書けばなんのコトだかバレてまうが(っていうか誰でも予想できるコトである)、事件解決、これでエンドマーク…と思わせといての急な場面転換には意外なショックがあり、そこで映画が一気にひっくり返る。
いやまぁ蛇足と見る向きもあろうと思うが、結局イイ話かよクソがと言う向きもあろうと思うが、このラストのオカゲで鮮烈な印象が残せたんじゃないかなぁ。
それに、イイ話ってもささやかなもんだ。俺はむしろ、そこでやり切れなさを感じて、突き放されたような気がしたよ。堤幸彦の映画なのにな!

ところで、堤幸彦とゆーと元々オフビートな作風のドラマディレクターだったワケで、メジャー映画だとあんまそんな感じ無かったが(このあたり文句言われる所以じゃなかろか)、ことこの映画に関してはそーゆー狙いは出てるように思う。
基本笑えるような感じとかないシリアスな映画だが、ラスト近くにある本木雅弘のモノローグ、コレいかにも最近の邦画っぽいモノローグでだいたい済ませようとするアレかなと思ったが、その落とし方が中々キマッてて、乾いたブラックユーモアを感じさせんのだ。
たぶん原作やら脚本やらの字面だけ見るとそうでも無いと思うんで、このあたり堤演出なんじゃなかろか。

個人的に嫌いな、なんでもテロップ出す手法。この映画でもモールス信号に一字一句テロップが出て、そこはセリフで補えよとか思ったが、ラストでもういっちょ出てくるモールス信号の場面ではテロップも出ないし何言ってるか説明もしないのだった。
テロップ出す出さないで人物の心情や関係性の変化を表してるようにも思え、偶然だとしても面白い効果が出てる気がする。なんというか、意図してかしないでか、最近の邦画にありがちなお約束をワリとハズしにかかってる感じがあんのだ。

江口洋介も本木雅弘も仲間由紀恵も綾野剛もイイが、ぶっちゃけそんなのより柄本明・落合モトキの刑事コンビがすげー良かった。飄々としつつもなんや諦観を滲ませた柄本明に、落合モトキが困惑しながら付いてく。とぼけたユーモアあったが、その匙加減が絶妙。
県警の別働隊・手塚とおるもギャグすれすれの怪しい演技で面白かったが、総じて脇役をついつい見てまう映画だったりする。脇の方から物語の全貌が浮かび上がってくる群像劇なんで、小ネタと味のある脇役で物語をドライブさせようとする堤幸彦のクセとマッチしてたのかもしんない。
みんな奇を衒わない、いつもの演技してるだけとも言えるが(そのあたり堤幸彦のいつもの手抜き感である)

奇を衒わないとゆーと、ハナシ自体もオーソドックスなもんで、『天国と地獄』(1963)と『新幹線大爆破』(1975)と『東京湾炎上』(1975)あたりをミックスしてヘリ付け足した、ぐらいなもんなのだった。
他のメジャー邦画と比較すると随分ハリウッドナイズされてると思うが、つっても先に書いたみたいに普通のパニック映画なのだ。普通の、とゆーか若干古臭い語り口って言ってもいいなこりゃ。っていうかパニック映画って言葉自体が古いが、その言葉がこの映画にはよく似合う。
21世紀の『新幹線大爆破』と仰ってる方がいたが、ハナシだけでなく映像も演出も洗練された『新幹線大爆破』って感じ。PV風の斬新(とか書くと誰かに文句言われるのだろうか)な映像スタイルで売ってたハズの堤幸彦が古典的なパニック映画撮るんだから変なハナシである。

えーと、なんだ。まぁ人生いろいろ、感想色々ってワケで、瑣末なコトが気になってどーしようもない、とゆー方もいらっしゃる。最近の邦画だし、堤幸彦の映画だし、文句言わなきゃ気が済まないって方もいらっしゃる。
なるほど、なるほど。まぁ、そーゆーのに立ち入る気はありませんが。ただ少しだけ言っとくと、このレベルの「普通の」映画が許せないんなら、たぶんほとんどの映画は観れなくなっちゃうんじゃないかなぁ。

ほんで、最後に付け加えるなら、この映画にゃ日本に住んでる人なら誰も避けては通れない原発問題を中心に、様々な論点が出てくる。ソコに深い洞察があるワケでもないし、斬新な切り口もないし、真剣極まる眼差しがあるワケでもない(別にふざけた映画だとも思ってないが)
けれども、そういったモノをメジャーな娯楽映画で普通に、ストレートに描くコトの意義は決して小さくないと思うよ、俺は。

なんか大げさな物言いだが、とにかくまぁ普通にオモロイ映画だと思うんで、気になったら是非観てやって下さい。しかしステマ臭い文章になったなぁ…。

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なにはなくとも『新幹線大爆破』。健さんがバイクアクションに挑めば、新幹線の運転手・千葉真一も顔面でアクションする『新幹線大爆破』。
『天空の蜂』も『新幹線大爆破』ぐらいケレン効かせりゃもっと面白かったのに。

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2 Comments
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g
2016年2月7日 8:17 PM

マジですか?どう考えても史上最低ランクの映画ですよ