映画『デヴィッド・ボウイ・イズ』とは何ぞや? って感想をにわかに書く!

つまりはイギリスを皮切りに世界各国を巡回してるボウイ展のナビゲーション映像で、最初テレビプログラムかと思ったが、限定公開ながらイギリスやらなんやらでちゃんと上映してるらしいのだ。
ボウイ展で何が展示されてるか以上のモノは基本出てこないのでワリとありがた味が薄い映画だったりするが、お馴染みのステージ衣装やボウイ直筆の絵画・歌詞・手紙やらなんやらとゆー展示物や数々の名曲を交えてボウイの歩みをコンパクトにまとめてあんので、別につまんないコトはない。

いやまぁ「そんなの知ってるよ!」の連続だろうと思われるんでマニアにはタイクツ極まりないと思うが(っていうかそんなヤツはもうボウイ展行ってるだろう)、とにかく人生で初めて買ったCDがボウイの『アウトサイド』、一番好きなロックスターはボウイとゆーくせに別にそんなにボウイ情報を漁ったりしない極薄ファンの俺はそれなりに楽しく観れたのだ。
で、ボウイとかそんな知らねぇし興味ねぇしな人はとりあえずベスト盤かなんか聴いてみるより、コッチ観た方がボウイの魅力がよく分かるんじゃなかろか。

映像で観るボウイのベスト盤だな『デヴィッド・ボウイ・イズ』は。

ほんで映画は二人のボウイ展キュレーターが展示内容を順繰りに紹介してくんであるが、当然とゆーか最初の展示はまだボウイになる前のデヴィッド・ロバート・ジョーンズくんに関するアレコレなのだ。
ベイビーの頃のジョーンズくんの写真、ボーイの頃のジョーンズくんの写真なんてもんに留まらず、ジョーンズくんが初めて買ったリトル・リチャードのレコードとか母親を描いたドローイングとかそんなんある。
今更驚くコトでもないのかもしんないが、あの仮面役者ボウイの素顔をこんなにあけすけに見せられるとやはり妙な感慨がある。
火星人ボウイもまた人間なのだった。

お次は69年の名曲『スペイス・オディティ』を中心とした、デイヴィー・ジョーンズとしてデビューしてからデヴィッド・ボウイに生まれ変わるまでの展示。
ココでのちょっとしたサプライズは、この時期にボウイはパントマイム(あと仏教とか哲学とか)に傾倒してたらしいが、その貴重な映像が展示されてるコトだ。

その内容の方はもっと興味深い。ボウイといえばジギー・スターダストを筆頭にアルバムごとに様々なキャラクターを演じ、また次々と音楽性も変えていくが、ココでのパフォーマンスはボウイが仮面を被る(若干ぎこちない)マイムをして、顔から手を離すとソコには満面の笑顔が張り付いている、というもの。
そして笑顔の仮面を被ってステージに立つと拍手喝采なのだが、ステージを降りて仮面を外すマイムをすると、そこにはボウイの苦悩の表情が表れる、ってなストーリーになってんのだ。
後年『フェイム(名声)』なんて曲も出すボウイだが、ペルソナと、それを被ったスターの孤独とゆーモチーフが早くもこの頃に顔を出しているのだった。

ところでこの場合のペルソナは道化だが、『スペイス・オディティ』に際してボウイが描いたイメージ画も映画に収められており、そこには当時のボウイが関心を寄せていたものが半ばデタラメに並べられている。
ブッダ、宇宙人、とくればいかにもな感じするが、『スペイス・オディティ』の歌詞に出てくるトム少佐の後日談をシニカルに歌った80年の『アッシェズ・トゥ・アッシェズ』のPVに登場する道化と老婦人のモチーフも描かれており、ボウイの度重なる転身が常に戦略的なものだったことが再確認できて面白い。

も一つ面白いのは、隅のほうに描かれたボウイの自画像がオッドアイの強調されたもんだとゆーコトだ(ボウイはオッドアイなのです)
ボウイをスターダムにのし上げた72年の『ジギー・スターダスト』では火星から来たロックスター、74年の『ダイアモンドの犬』のジャケットでは半人半獣(犬)の暴動の扇動者を演じたボウイだったが、この頃からして異端への憧憬と共に自身の奇形性を大いに自覚しており、むしろそれを積極的に利用してやろうとゆー魂胆がこの自画像に見え隠れすんのだ。
したたかな人です。

続く展示はボウイのステージ衣装や、ステージ演出に積極的に携わるボウイの姿にスポットが当たる。
この映画は合間合間に結構微妙な著名人のボウイに関するスピーチが挿入されるが、ボウイの衣装といえばこの人とゆーワケで、ココで山本寛斎が登場。ボウイとの出会いや親交を語る。
「ボウイがステージに降りてきたときには驚いたね。私はいくつかボウイに衣装を提供して、彼が何を着るかは知らされてなかったんだけれども、そのときの彼が身につけていたのは女性用の衣装だったんだから!」

それにしても意外だったのは、面白いアルバムだけれども大して注目されていないと勝手に思ってた97年の『アースリング』のCDジャケット及びステージ衣装が、今回の映画と展示の中で大々的にフィーチャーされていたコトなのだった。
これユニオン・ジャック柄のコートを所々破ったり穴開けたりしてヨゴレ入れたもんですが、本国では人気あるらしい。
なるほどアルバム自体は好きでも衣装には目を向けたコトなかったが、キュレーターの解説通りイギリスの伝統をパンク的に解釈・批判したモノとゆーワケで、ザ・イギリスな衣装になってんのだ。

なんやそんな風に映画は進んでって、作曲・作詞はもとより画家としてのボウイ、ステージ演出家としてのボウイ(ボウイは自ら絵コンテ描くくらいステージには拘る)、俳優としてのボウイ…とボウイの多彩な才能と仕事っぷりを豊富な展示物と共に見せてくれる。

冒頭のベイビー写真や母親の肖像はもとより貴重な展示物もいっぱいあって、ボウイ直筆の歌詞(来場者が一様に「子供みたいな字!」とか言ってて笑える。この人は結構天然なところもある)、ボウイ直筆の絵コンテ、それにボウイとウィリアム・S・バロウズの間に取り交わされた手紙まである(ボウイがバロウズに倣って一時期カットアップで詞を作ってたコトは知ってたが、90年代に入ってもまだカットアップやってたコトはこの映画で初めて知った)

まぁボウイ展行けば全部見れるとはいえ、一本の映画ん中で通して見てみるとやっぱ面白いし嬉しくなっちゃうのだ。

あと、ボウイとは関係ないどうでもいい発見もあった。
ボウイが宇宙人を演じた映画『地球に落ちてきた男』(1976)、かつて演じたジギー・スターダストが火星人とゆー設定であるからしてアテ書きかと思ったが、当初、監督のニコラス・ローグは『アンドロメダ病原菌』(1969)や『ジュラシック・パーク』(1990)のSF作家マイケル・クライトンを主役に据えたがってたらしい。
ウォール街の辣腕金融マンみたいなクライトンとユニセックスで人間離れしたボウイじゃ全くキャラ違うが、いったいローグはクライトンをどんな風に撮るつもりだったんだろか。

どうでもいい発見②は、ホントに全くどうでもいい。
ボウイとジェニファー・コネリー共演のファンタジー映画『ラビリンス 魔王の迷宮』(1986)の絵コンテがチラっと映画に出てくるが、その絵柄がちょっと高橋留美子っぽいのだった。

…ってな具合な映画でござんした。
まぁよっぽどのマニアじゃなきゃ楽しめる。ボウイ初体験の人にはちょうどいいし、俺みたいなにわかボウイ好きにもちょうどいい按配。
でもって代表曲『Heroes』は『英雄夢語り』、ベルリン時代最後のアルバム『Lodger』は『間借人』、超名曲『Life on Mars?』はまさかの『火星の生活』の字幕が表示されるように、ボウイ世代だけど最近のボウイは聴いてないな…みたいな人にもとても配慮された感じである。あぁボウイ懐かしいなと懐古的に観ても面白いんじゃかろか。

懐古とかゆーが、しかしボウイはまだまだ現役である。
ツアーこそ引退を表明してるが、その矢先に来年一月の新譜リリースの声明が出されたばかり。
『デヴィッド・ボウイ・イズ』はボウイの懐古展じゃなくて回顧展の映画なのだ。
息子で気鋭の映画監督であるダンカン・ジョーンズの今後も気になるところだが、親父だってまだまだこれからなのだッ!
ってゆーかボウイ展、日本でもやってよー!

【ママー!これ買ってー!】


リアリティ・ツアー [DVD]

『リアリティ・ツアー』は近年の(そして今んところ最後の)ライブDVDで、かつての演劇性の高いステージとは真逆のラフなスタイル。
ボウイ始めバンドメンバーが実に活き活きと楽しそうにプレイしてて、あぁこの人イイ歳のとり方してるなーって観てて楽しくなっちゃうヤツ。
悪い選曲じゃないがなんせ曲数少ないんでアレも聴きたかったぞコレも聴きたかったぞとなるが、でもまぁ『火星の生活』とか『ヒーローズ』とか今のボウイの円熟した歌唱で聴くとおいおいと泣くしか無いので、とても良いライブだと思います。


ベスト・オブ・デヴィッド・ボウイ [DVD]

『ベスト・オブ・デヴィッド・ボウイ』は同名のアルバムもあるが、コチラDVDはPVをいっぱい収録したヤツ。
ステージもさるコトながらボウイはPVにも積極的に口を出すんで、コレはコレでボウイのアート志向が炸裂してて面白い。
『ヒーローズ』、『アッシェズ・トゥ・アッシェズ』、『ジャンプ・ゼイ・セイ』、『ネヴァー・レット・ミー・ダウン』、『ハーツ・フィルシー・レッスン』と名作PVばっかり。

↓その他のヤツ
David Bowie Is… (Museum of Contemporary Art, Chicago: Exhibition Catalogues)
(↑ボウイ展の図録。欲しいが、高い…とっても高い…)

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