名前は聞いたコトあるし興味もあるが観るか観ないかといったら中々観ないとゆー映画監督がおり、ケネス・アンガーもオレにとってはその一人だったりするが、何年か前にビデオだか特集上映だかで『マジック・ランタン・サイクル』(1980)を一応教養的に観たコトはある。
教養的に観て面白い映画なんてのは基本無い。従ってどんな映画だったか覚えてすらいないワケですが、そもそもアンガーみたいのは教養であるとか、あるいはなにか高尚なモノとしての価値が付帯してしまったらもう終わりなんじゃないかと思う。
異端であったハズなのだ。奇形児であったハズなのだ。名指しできないモノだったハズなのだ。だからこそ、突破力があったハズなのだ。アンガー含めアングラ・カルチャー全般には!
ほんで、そのアンガーの書いた『ハリウッド・バビロン』、魑魅魍魎渦巻く黄金期20~50年代ハリウッドの三文ゴシップ寄せ集め。スター写真死体写真もいっぱいのスキャンダルで辿る裏ハリウッド史。
ましかし、こんな本は教条的に読んでもオモロないよな。資料的価値とか、そんなん無いと言い切りたい。だいたい真偽不明のいかがわしいゴシップの数々にどんな真実があるとゆーのだ。
だが! 真実はないが、夢はある!
怪しげゴシップが見せつけるのは貧民凡人底辺人がハリウッドに見た黒々しい夢である! クソ大衆どもがハリウッドに託した欲望の全てである!
だから、コトの真偽なぞこの際どーでもよいのだ。ハリウッド・バビロンゆーてるが、その意味で浮かび上がってくるのはハリウッドを超えてアメリカが通り過ぎてった夢と、夢を見せた時代そのものと言えるような気もしないでもない。
資料館の隅っこで埃を被って眠っていた三文ゴシップと忘れられたスターを今更掘り起こすコトになんか意味があんのか? 今となっては手垢の付いたチープなゴシップを改めて読んでみるコトに価値はあんのか?
といえば、失われた夢の軌跡を辿れるコトにあるように思え、それはたぶんアンガーの映画にも言えるコトなんじゃなかろかと思ったりすんのだ。
続編の『ハリウッド・バビロンⅡ』の冒頭、アンガーが無名女優の墓参りをする写真が収められてる。
柳下殻一郎さんの解説(※ペーパーバック版)によるとアンガーゆーのはハリウッドにすげー憧れてた人であるっつーコトで、ハリウッドの夢はまたアンガーの夢でもあったのだ。
『ハリウッド・バビロン』は虚実愛憎入り混じるアンガーのハリウッド信仰告白でもあんである。
はて、本は『イントレランス』から始まる。なんや流暢な美文でグリフィスの一大叙事詩の誕生を謳い上げ、ハリウッド映画凄いぞ! 神の如きグリフィスよ! しかしその背後には得体の知れぬヤマ師にギャングにゴシップ屋、スター気取りの田舎者に強欲で下品なハリウッド成金、とにかく有象無象の怪しい人種が今か今かと陽の当たる時を待ち、そして『イントラレンス』の興行的失敗によるベルシャザール王宮の崩落とともについにハリウッドを跋扈しはじめたのだ…となる。
こうしてハリウッド・バビロンの饗宴が幕を開けた。
“世界一の美女”モデルで、やがてハリウッドに渡ったオリーヴ・トーマスの服毒死。みんなに愛されたカワイコちゃんがナゼ? 警察の調べでは、ドラッグ中毒の夫のためのクスリ集めに奔走しており、暗黒街の連中とも付き合いがあった。それに疲れ果てての自殺…との憶測。
ショック! 夢の都ハリウッドは薬物に汚染されていた! だがハリウッドの夢はクスリで満たされるほど浅くない。
“デブ君”こと喜劇役者ロスコー・アーバックルに殺人容疑がかけられた。
被害に遭ったのはヴァージニア・ラップゆーヤリマン女優。乱痴気パーティの席でラップをホテルの自室に連れ込んだアーバックル。ドンガラガッシャン! ギャーたすけてー! と悲鳴が上がり、何事かと千鳥足の参席者が駆けつけるとニヤニヤ笑いを浮かべたアーバックルの傍らにズタボロのラップの姿があった。
「さっさとその女を連れ出してくれ。うるさくて敵わないよ!」
すぐさまラップは病院に担ぎ込まれたが、ほどなくして死亡。医師の診断では腹膜炎で、その膀胱は暴行を受けて破壊されていたとか。これはラップの死体が解剖、性器が(何者かの手回しで)危うく焼却されそうになる手前で明るみに出た。
デブ君、この田舎者、ハリウッドに見出されるや飲めや歌えや、脱ぐや脱がされるやヤルやヤラれるやの大騒ぎにすっかりとり憑かれてまった。
欲しいものはなんでも手に入る! 俺はキングだ! となんでもない平均的アメリカ人に勘違いさせてまうのがハリウッドの魔力である。
アーバックルは無罪となったが、その汚名は晴れぬまま。出演した映画のフィルムは回収、豪邸に高級車も手放すハメになって、無罪はいいがハリウッドの夢を見るコトはもう出来なくなってまった。
後年監督として復帰、『キートンの探偵学入門』(1924)なんてケッ作も手掛けてるが、落ちぶれたデブ君は酒に溺れて失意のまま死亡。
はて、コトの真相は? アーバックルは本当に無罪なのか? しかしそんなコトはどーでもよい。全部が全部、ハリウッドの夢の話。
で、その主役に躍り出ようと新たな田舎者が、それにその田舎者を食い尽くそうとする不届き者が街灯に集う蛾みたいにハリウッドを訪れて、ハリウッドの外の凡々人は彼ら彼女らのもっともっと刺激に満ちた新たなるスキャンダルを心を躍らせていた。
蕩尽、放埓、色事三昧の日々。スキャンダルを狙うハゲタカども、スキャンダルを揉み消そうと暗躍する大物ども、スキャンダルにかこつけて金儲けにはしるホラ吹きの検閲屋。いやなんとも絢爛たる人間模様。まるで神話よ、神話。
それがアンガーの愛した(そして憎んだ)おぞましきハリウッドで、この本で綴られるハリウッドの偉大なる歴史なのだった。
グロリア・スワンソン、チャールズ・チャップリン、エリック・フォン・シュトロハイム…忘れられたスターも多いが、今でも人々に記憶される超大物も多い。
嫌な記憶なんて消し去ってしまいたいってなもんで、こーゆー大物は良い面ばっか語られるが、スキャンダルにも塗れた過去もあった(さすがにアーバックルほどのモンじゃないが)。そーゆーのもこの本で分かる。
オモロイよ、『ハリウッド・バビロン』。とっても夢があんのだ。
(文・さわだきんたま)
【ママー!これ買ってー!】
今出てんのはペーパーバック版で、前に出たソフトカバー版より収録写真とか少なくなってるらしいが、このパルプな紙質、装丁がスバラシイんすよ、ペーパーバック版は。下世話な本には下世話な装丁が相応しいのだ!
ワンンスアポンナタイムハリウッドみたいなの期待して、昨夜「BABYLON」観たら、エロとグロと下品さ満載で、ああ、昔読んだハリウッドバビロンみたいだなあ、と思い答え合わせしようと検索したら、映画にわかさんにひっかかりました。さすがです。いつも楽しく読ませていただいています。
いやどうもありがとうございます。何年も前の記事で(今もそうとはいえ)文章が拙く恥ずかしさもありますが…それにしても、『BABYLON』面白そうっすね!期待します!