映画『砂上の法廷』の感想を机上で書く(ネタバレなし)

《推定睡眠時間:断続的に計6分》

基本的に眠い映画だったがなぜ眠いかと言えばものすごくのっぺりした作りだったのだ。
父親殺しのカドで法廷に立たされた少年がおり、それを弁護士キアヌ・リーヴスが弁護する。殺された父親はええ人でしたわ、と口々に話す証人たち。いやヤツらはウソを吐いている。殺された父親はロクデナシだったのだ、とこう考えキアヌは証人に揺さぶりをかけていく。だが、やがて一言も喋らなかった少年の口から意外な言葉が飛び出して…。
あらすじを書き出せば緊迫の法廷劇っぽいが全然緊迫感とかない。緩急もない。それでドライでリアルな作風なのかといえばそんな感じでもなく、作りものめいた世界の中で作り物めいた物語が締まりなく展開される、なんかそんな映画だったのだ。

ちなみに今回は断続的睡眠だったので1分ずつとか30秒ずつとかで小刻みに全体的に寝た。面白くなくてあんま寝れない系の映画だなコレは。

『砂上の法廷』とゆータイトルがなんとなくネタバレ気味っぽい気もしないでもないが、はて最後まで見てみるとなるほど砂上とこうなる。
真実なんぞありゃしない。誰も彼もがウソをつく。法廷の中で築かれていく偽物の真実…まぁそう考えればあの書割めいた映像とゆーのも狙ったものなのかもしんないが。しかし問題は単純に面白くないコトなんであった。
たとえば証人喚問のシーンなんかで度々回想が出てくる。しかしその回想自体がトラップであり、キアヌが揺さぶりをかけてく中でその回想は真実でなかったかもしんないコトが明らかになってく。そこでこう、ドーンと「さっきの回想はウソだったのだぁ!」とゆーよーな演出上の緩急をつけない。
そら観てるコッチは盛り上がんないって。しょせん真実なんてないですよとゆー意図かもしんないが法廷劇なんだからアレはウソでコレがホントなんだ!と声高に言って欲しいもんだよなぁ。

ホラ、あるでしょう、例えば『十二人の怒れる男』(1957)。回想一切なし、舞台は陪審室オンリー、ストーリーはオッサンが喧々諤々の議論を繰り広げるだけ。でも撮影にしても脚本にしても緩急の付け方が素晴しくてあんなみみっちいハナシなのにものすごいダイナミズムがあって盛り上がるじゃない。前提とされてた事柄が次々と覆ってくときの快感たるやないよね。
そういえばあの映画もあの映画で少年による父親殺しを扱っていた。最初は少年の犯行を疑いもしなかった陪審員たちはやがてそのコトに疑問を抱くようになり、実は父親を殺したのは少年じゃないんじゃないか? と考えを改めて無罪の評決を下す。だがその推理の全てはしょせん陪審室の中での想像に過ぎないワケで、実際に少年が父親に手をかけたのか違うのか、真実は少しも明らかになんないんであった。

ある種『十二人の怒れる男』はリベラルの理想のよーな映画であってメチャクチャ面白いとはいえ欺瞞といえば欺瞞であった。
疑わしきは罰せず、といって無罪の決定を下すコトは理念的には美しきハッピーエンドで、しかしその理念が不透明な真実の恐ろしさといったものを覆い隠してしまう。『砂上の法廷』とゆー映画はもしかするとそのよな法廷劇に対するアンチテーゼと言えるのかもしんない。
面白さを度外視すればなんとなくチープな見た目に反してなかなか志の高い(かもしれない)イイ映画ではあった。

監督は「タランティーノ絶賛!」とゆー「スティーヴン・キング絶賛!」ばりに信用できない宣伝文句を引っさげて公開された『フローズン・リバー』(2008)のコートニー・ハントって人で、『フローズン・リバー』もなんか淡々とした冷たい映画だったがそれを引きずって『砂上の法廷』も温度の低い感じになったのかもしんない。そもそも主演が顔面フローズンなキアヌであるから温度が高くなりようがない。

しかし別にキアヌだけフローズンなワケでなく、なんか出てくるヤツが全員フローズンとゆーかマネキン的演技なんであった。
なにか面白いお芝居みたいのは誰もやんない。徹底している。徹底して面白くない映画にしている。真実とはなにか分からなくなる系の映画だが映画の面白さとはなにかとゆーコトもまた分からなくなってくる。
いや面白くなかったが、退屈な映画だなぁと思ったが、こうやって感想書いてるウチに段々と法廷劇のパロディとして観れば面白いんじゃないかとゆー気もしてきたりしなくもないのだ…。

ラストにはどんでん返しがあったが例ののっぺりした演出のせいでどんでんとビックリできないんでところてん返しってトコであった。
なに、どうせ真実なんてありゃしない。どんでん返し? バカバカしい。…たぶん作り手はそのよーに考えてる。
どこまでもフローズンな映画であり、見世物としての法廷を突っぱねながら別の何かをアート的に提示するワケでもない。
いやそもそも単なる雇われ仕事でやる気がなかっただけなのかもしれないので、観た後には波に掻き消されて何も残らないまさに砂上の映画なんであった…。

(文・さわだきんたま)

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しかし真実なんかありゃしねぇよと分かった上であえて真実を演じてみせるのが映画なんじゃないのと思い、いかに偽善的だとしてもやっぱ『十二人の怒れる男』はメチャクチャ面白いのだ。

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