《推定睡眠時間:10分》
シェルター地獄もの。シェルター地獄映画といいますと個人的には『ディヴァイド』(2011)が最高峰なんですが映画の出来がというより変な見方をしてしまったからで、なにやら危機から逃れてシェルターに閉じ篭ったはいいがやっぱ外に出たい、様子も分からず危険かもしれないが勇気を出して外に出てみよう! とその場面で睡眠に入り尋常ならざる叫び声に目覚めたが、スクリーンに目をやるとさっきまで生への執着と外の世界への希望に燃えていたはずのシェルター避難民がすっかりトチ狂いニタニタ笑いながらお互い殺し合いってる…ってお前らに何があったんだよ俺が寝てる間に! 大変な衝撃なのだった。
J・J・エイブラムス製作の『10クローバーフィールド・レーン』はもっと睡眠時間が短いうえ別にそこまでエグイ映画じゃないので衝撃は少なかったが、やはり同じようなタイミングで睡眠にインしてんので目覚めたときに動揺はあった。
パートナーとの関係に嫌気が差し突発的に実家帰りとそんな感じのメアリー・エリザベス・ウィンステッド。しかし道中で事故ってしまい意識を取り戻すとシェルターの中。どうも、ジョン・グッドマンに“救助”されたらしいのだ。彼の話によれば宇宙戦争が始まってしまい地上は宇宙人の毒ガスで汚染されたので外には出られずグッドマンズ・シェルターの中で暮らすしかなく…ってこいつ危ない絶対危ない!
当然逃げ出そうとするメアリー・エリザベス・ウィンステッドだったが…とそこで眠り目覚めてみればメアリー・エリザベス・ウィンステッド、なにがあったか知らないがニコニコとお絵かきしたりブーブーとツバを飛ばして遊んだりとシェルター暮らしの中ですっかり幼児退行を起こしていたのだった。これは恐ろしい…。
あれだなメアリー・エリザベス・ウィンステッドおもしろい顔してるな。目がクリクリっとして口がグワっと開いてなんかカートゥーンみたいな。幼女化に説得力があり、シェルター生活を満喫しお菓子かなんかポリポリ食べながらクラシックなホラー映画ビデオ観てる光景に微か幸せを感じてしまったので危ない。
シェルターにはジョン・グッドマンを慕う地元のアホ的な若い男、ジョン・ギャラガー・Jrもいた。こいつジョン・グッドマンが言う宇宙人陰謀説を全部間に受けてしまうネットDE真実みたいな人だったが邪気がないので微笑ましく思えてしまいこちらも危ない。
だいたい閉鎖空間閉じ込められ映画だと食糧危機と欲求不満から食うか食われるかヤルかヤラれるかとエグくなるが、かねてより宇宙人の侵攻を危惧していたジョン・グッドマンなので準備万端、シェルターから出られなくなってもずっと平和に暮らせるよう空調設備も水道設備も食料もオモチャも全部用意していた。
そんなわけでメアリー・エリザベス・ウィンステッドもジョン・ギャラガー・Jrも無垢なお子様となって一緒に人生ゲームしたりお菓子食べたり古い映画VHS見たりして平和で楽しいシェルター生活をエンジョイ。みんなのパパ、ジョン・グッドマンが秩序を守ってくれるので諍いもなく本能剥き出しのエグさとか皆無だが…これはこれで違う意味でエグい!
なんだかニートの楽園みたいなグッドマンズ・シェルターだったがこれはあれだろJJの願望だろ。あぁ好きなSFとかホラーのVHSに囲まれて仕事もせずにずっと遊んでいたいなぁ、あぁ屋根裏部屋とか秘密基地で空想に浸っていたあの頃に戻りたいなぁ、という…いやそれはよく分かるぞ死ぬほど分かるぞ俺もあのシェルター行きたいぞ早く宇宙人来いよ文明壊滅させろよ!
そのあたり、『クローバーフィールド』(2008)というより『スーパー8』(2011)と実に地続きのボンクラ趣味映画の感。個人的懐古に終わらず昔に戻りたい願望がジョン・グッドマンを通して物語の推進力になってるわけですが。
このネタならシャマランにやらせろよとの声も挙がってるが確かにこれはM・ナイト・シャマランのズッコケ巨編『サイン』(2002)と通ずる。JJ映画なのでどんなびっくり展開かと思ったら全然びっくりじゃなかったのが逆にびっくりになってたが、これはどんでん返しが無いのがどんでん返しとして機能していたシャマランの『ハプニング』(2008)を思わせたりもすんのだった。
JJもシャマランもスピルバーグの影響を大いに受けたというからなんとなく指向性が近いのか。しかし弟子筋がこんな懐古趣味の山師みたいな人ばかりのスピルバーグは恐ろしいなまったく…(※イイ意味です)
これ以上なんか言おうとするとオチに絡まざるを得ないので以下ネタバレ。
地上は宇宙人の毒ガスで汚染されてるのでもう住めないとパパ・グッドマン。だがそれは嘘だったのだ。いや宇宙人テクノロジーの過大評価だったのだ。確かに宇宙人は侵攻をかけてきたし毒ガスも撒いたが毒ガスは風に流され無毒化されていたし大体宇宙人はそんなに強くなかったのだ!
…陰謀論者は0か100かでしか考えられないが現実は26ぐらいなんですと言われればまぁそんなもんかもしれないが、散々もったいぶった末にその26を見せられてもへぇそうなのかぁとしか言いようがないだろ!
こう、これならもう取ってつけたよなメアリー・エリザベス・ウィンステッドと宇宙人のバトルなんていらなかったんじゃないかとちょっと思うが、なんかそのショボさにワビサビを感じたのでまぁいいのか。
あっさり宇宙人と宇宙船を倒して(なんと火炎瓶一つで!)旅立つメアリー・エリザベス・ウィンステッド。標識がカメラに映る。「クローバーフィールド10番地」。この無意味さは最高じゃないのか。
そして地球人レジスタンスの通信を受信したメアリー・エリザベス・ウィンステッドは新たな戦いに赴くのであったというオチはフランク・ダラボン『ミスト』(2007)の原作『霧』のラストみたいな感じだったが、ダラボンもキングもJJもシャマランもそして昔のスピルバーグもお前らはそんなに目の前の現実がイヤなのかと…その気持ちが凄くよく分かってしまうので面白かったがなんかいたたまれない!
(文・さわだきんたま)
【ママー!これ買ってー!】
バカって言った方がバカなのでこういう面白い映画をバカ映画呼ばわりするヤツがバカなんだよバーカとシャマランの気持ちを勝手に代弁して幼児退行を起こしたくなる『サイン』です。