映画『ラサへの歩き方 祈りの2400km』観ましたので祈りながら感想書きますズシャー!

《推定睡眠時間:15分》

イイ顔してるなこの巡礼農民連中と思ったら地元の素人さんたちだそうです。ははぁなるほど。妊婦さん役のリアル妊婦さんの土の香りリアリティなんて素晴らしいのですが、そういえばこの人の出産シーンがあれ実際に出産してるようなのですが危ないなぁ役者さんを危険に晒す鬼撮影だなぁと思っていた落石シーンも実際に撮影旅行の途中で遭遇しちゃったのでとりあえず撮っといてストーリーに組み込んだものとのこと。
先般亡くなられたアッバス・キアロスタミと近いかもしれないドキュメンタリーとフィクションのボーダーライン。流れに逆らわない仏教映画です。

ほんでまぁカッカッカッ! ズシャー! ってな具合にこう五体投地というそうですが仏教で一番丁寧な礼拝方法を律儀に守りまして小さな村の人たちが長い長い巡礼の旅。脚本がないうえ(プロットはあるらしい)劇伴とか付けないで淡々と道路そして道なき道を祈りながら歩いてるだけみたいな映画なので睡魔の一つや二つ襲ってもくるが延々と反復するカッカッカッ! ズシャー! のリズムとお経が着実に脳に刻まれ段々とアガってくる。
これはテクノこの感覚はテクノ。クラブDJはレコードを回すものですがチベット仏教徒もマニ車を回しますからテクノは祈り、祈りはテクノ、五体投地はダンスです。カッカッカッ! ズシャー!

あのそれでですね映画終わったらトークショーがありましてですね字幕監修の在日チベットの人がいらっしゃる。超ぬくもるチベットの人。私の村は標高4000メートルとかですから低地の日本だとぐったりしちゃいますねー、だから調子悪くなると富士山登るんですよあははー…とのこと。超ぬくもる。超ぬくもる!
しかし映画の方はのんびりあったかロードムービーかと思いきやのむしろチベットの人の不屈ファイティングスピリットを感じざるを得ないアクション映画でありまして嘘つけどこがアクションなんだよと思われるかもしれませんが超絶サバイバルアクションです熊とイケメンが出てこない『レヴェナント』(2016)です。

どこが、と申されますとあそこで確信しましたよねほら五体投地巡礼の途中で農民たち道路の浸水に遭遇のとこね。おいこれじゃ五体投地で進めねぇじゃねぇかどうすんだよと立ち往生の農民たちに引率的な人が一言。「五体投地で」。
ならしょうがない。濡らさないように五体投地用前掛けを取り払って敢然と前進する農民たち。カッカッカッ! 水ブシャァァァ! たぶん相当寒いとはいえ川を渡るだけだったのですが一言の愚痴も漏らさず五体投地を続ける農民たちの姿にただならぬやってやろうじゃねぇよ精神を見る。あるいは『ワイルド・バンチ』(1969)とか。

これがロッキーで言ったらリング上でロッキー初ダウン、そして思いも新たに魂の咆哮と共に立ち上がったところ。スイッチ入る。脳内麻薬放出開始。絵的には田園地帯ですとか市街地ですとか神々しや山々なんか(とてもとても美しい)を背景に農民の人たちが途中で誰か巻き込んだり事故ったりしながらも相変わらずの淡々も淡々でカッカッカッ! ズシャー! カッカッカッ! ズシャー! カッカッカッ! ズシャー!
ただただ祈りながら巡礼の旅を続けてるだけなのですが無表情と無言の中に魂の死闘そして多幸感あり。反復の退屈を超えて五体投地が強靭な生の躍動を宿します。これぞ精神のダイハード。信仰心のランナーズハイ。

字幕監修のチベットの人によりますと10日目ぐらいまでは五体投地巡礼死ぬほど筋肉痛とかで辛いそうですがそれを超えてしまえば、とのこと。チベット寒いですから五体投地してるとあったかくていいんですよあははー。
こういうことを普通のテンションで言ってしまえる仏教国の人は絶対に敵に回してはいけないというのはトニー・ジャーで学んだはずでしたが…たぶん刃牙とかで最終的に一番つよいことになるのはこういう人たちですよねほら板垣描いてたしね土下座最強漫画とかね。

こういう映画はいいですね。政治がないですからね。だからチベットに関して意見が違う人でもみんな一緒に楽しく観れます。中国の人もみんな観れます。大事なことです。お互いを理解することがチベット問題を対話で解決する糸口になりますからね。
字幕監修のチベットの人(いい加減に名前出しますがロディ・ギャツォさんという人です)がそう言っておられましたが柔和な笑顔の下にロッキーと山田辰夫の顔をもう見てしまった後のことでしたのでチベットの人がまだ寛容の精神を保っているうちにどうか穏便な解決の道を探って頂きたいと思ってしまいます。
仏の心にアイ・オブ・ザ・タイガー。ひとたび不殺の誓いを捨ててしまえばこの人たちはトニー・ジャーもかくやの鬼神と化すだろうと巡礼農民の若手のキレた動作と眼差しに思わざるを得ないのであれなんか意外とヒリついた感じあるなこんな平和な映画なのに!

五体投地したまま起き上がらない巡礼屠畜人に仲間が声をかける。「なにしてんの?」「ほらそこ、虫が歩いてるから踏みつぶしちゃいけないと思って」。ラサの床屋で巡礼の若手その2が美容師の女の人(やたら可愛い)と出会う。回転イスでくるくる回りながら巡礼の再開と別れをふわっと告げる若手その2。山奥で休憩中に村に残った家族とスマホ通話の巡礼少女(電波届くんだ!)。意外と適当な感じに五体投地してたら引率的な人に巡礼農民たちやんわり怒られるの図。
…などなど、生活に根付いたチベット仏教およびチベット仏教徒の実相っぽいやつをワンダーかつのほほんユーモラスに垣間見。つつも、なにがなんでも五体投地をし続ける農民の姿になにやら激しいものを見出さずにはいられない。

中国の人がこんな映画を撮ってしまえるというだけでも感動的ではありますが。これは結構、強烈なパンチ力ある。こういうの中国本土で公開できんのかな共産党の鋭い人だったら体制批判の可能性を嗅ぎ取るんじゃないかなといらん心配が出るもそんなことより他者を想え他者のために祈れ怒るんじゃねぇ祈るんだよ! とお経と五体投地用の板みたいなやつで殴りかかってくるような映画なので私もみんなのために祈ります。
カッカッカッ! ズシャー!

(文・さわだきんたま)

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こちらはヒンドゥー巡礼ドキュメンタリーでしたがこれはこれで何も起こらない感じがとてもドラマ、なんでもないところがすごく感動で神聖とかそんな感じではあったななんか。ババァがですねババァが、巡礼ババァがアイス食べてたら溶けてきて手がベチャベチャになっちゃったの図で涙腺爆発そして魂浄化ってそんな映画あるかよなんだよそれ! でもそういう映画なのでした。超おもしろいんじゃないかこれ。

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Stantsiya_Iriya
Stantsiya_Iriya
2016年9月21日 9:20 PM

私の日記でこちらの冒頭の、街の画像を紹介したいのですが、URL貼るのもどうかと思いますので、こちらの方のブログにこの街の画像があるよ、という形で書きたいのですが、いかがでしょうか。私の日記URLは下記です。
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20160921/1474458194
…ではでは

さわだ
さわだ
Reply to  Stantsiya_Iriya
2016年9月22日 8:29 AM

こんにちは。日記、記述の専門性が高くてとても面白かったです!この映画はなにも知識がない状態で見たのでわからない部分が多々あったのですが、これで全体像をなんとなく掴めた気がします。ありがとうございました!

画像は予告編のリンクを貼ると自動的にサムネイルとして出力するように設定したものなので、よろしければ予告編の方からお願いします。感想文のリンクは無くて構いません(自分の無知が恥ずかしいので…)