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笑ってしまうよ! イスラム軍事政権の文化弾圧で壊滅的打撃を受けたパキスタン映画&音楽界! だが失われた音楽を取り戻そうと立ち上がった男たちがいた! …的なプロジェクトXものなんですがジャズに魂をかけるとかそういうパッションが基本ないサッチャル・ジャズ・アンサンブル。せっかくのニューヨーク公演だろお前らもっとやる気出せよとパトロンでプロデューサーのイザットさんは怒っていたのですが、お金のある経営者は無謀な理想に燃えてお金のない現場の人は淡々と言われた仕事をこなすだけで夢もクソもないっていうギャップと現実感が中島みゆきの激情を寄せ付けません。
そんな『ソング・オブ・ラホール』の感想。
ところで失われたのは伝統音楽だったので地域差はあるのかもしれませんがポップ音楽とかは別に普通にあったりするのでした。仕事がないのでかつての名プレイヤーが変なラップ若造のデパート公演サポートメンバーとして糊口をしのいでたりするそういう状況。タリバンとかイスラム原理主義とかキャッチーなワードが並んでしまうのでもっとドラマティックな悲劇を頭に思い浮かべてたんですが、そんなに遠くない話っていうかわりと普遍的なっていうかむしろ近いっていうか廃れた伝統音楽の復権を目論んでyoutubeにジャズ動画上げて大評判って小林幸子がボカロのカバーしてニコ生出るようなもんだろつまり。
なんか! 急に! 俗っぽく! 世俗派のサッチャル・ジャズ・アンサンブル(色々あるのでしょうが)
ほんでまぁこんな人たちがジャズ界の重鎮(だそうです)ウィントン・マルサリスにお呼ばれしてニューヨーク出張に行くと、果たして公演は成功するんだろかと、そんなお話なのですが合同練習の途中ですごく協調性のないシタールの人があっさりと帰らされて代わりに現地で見つけた音大生みたいな人(あんまり上手くない)が公演直前にバンドに加わったりするのでゆるい。
要するにこの人たちは職人であってアーティストな感じではないらしいので、プロとしてのプライドと技術はあっても別になんか拘りとか表現したいものがあるってんじゃないと。仕事だからやってますけど別にラホールの名を背負う気も音楽革命なんて気もたぶんないのでとりあえずニューヨーク公演つつがなく終わればなんでもいいですみたいな。アフター5は練習しませんよ観光しますよみたいな。
その手慣れたお仕事感ですよね。ジャズっていうか仕事っていうそういう感じの映画だったなこれ。
指揮者のニジャートさんの服がやたら派手なのですがこの人はお調子者でいかにも遊んでいる風。出張に浮かれてしまい夜のマンハッタンを風を切って(タバコ片手に)歩くのでしたが、その時の同行メンバーとの微妙な距離感に仕事上の付き合いを学ぶ。クールな映画ですね。
クールといえば、タブラっっていうらしいですが手でポコポコする小さいボンゴみたいなの、あれ担当のバッルーさんがなんていうかすごくいい加減でダメそうな人に見えるんですけど普段の締まりのなさとプレイのギャップに萌えクール。カッコ良かったなー。
おい大丈夫かよっていうマイペース具合なアンサンブルの人たちもいざ公演になるとちゃんとお仕事、トラブルもあったがとりあえずそれなりのクオリティで平然とやってのけるの職人の矜持って感じよね。タブラ濡れたよタブラ。自分で楽器作る笛の人(雑)もええ感じでした。
一子相伝っていうかサッチャルの人たちはだいたい家業で伝統音楽やってるみたいなんですが、なにかを宿命として受け入れた人が帯びる艶みたいの感じるなこういうな、こういう適当感出てるのにカッコイイ人とか見てるとな。
っていう、なんかそういうやつ。すごくなんでもないお話な気がしてきたのですが、そのなんでもなさが却ってラホール・ミュージシャンの本気を見せつけるって感じなのでした。
※流行りのクラウドファンディングで来日公演の資金募集してるらしい。
(文・さわだきんたま)
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パキスタンが映画大国だったなんて知らなかったよこれしか見たことないよ。殺人鬼とか鉄球とかゾンビとか魔術とか悪魔とか出てきてよくわからないけどきっとこれがジャズ!
あのシタールの青年はIndrajit Roy-Chowdhuryさんといって凄い経歴のシタール奏者でインド人です。
知らなかった…すごい失礼なこと書いてすいません…。
こんなに胃の痛い音楽ドキュメンタリーは初めてでした。あと、「サッチャル・ジャズ・アンサンブル」には内田裕也さんがいました。
サッチャルには色んな人がいそうですね。ムッシュかまやつとか。