《推定睡眠時間:0分》
ドキュメンタリーと勘違いしてた。正しくはドキュメンタリーっぽいタッチのフィクション映画。ブラジル産。
神童神童と持て囃されて育ち音楽の道に進むも諸般の事情により仕事が取れない、あぁ大人の現実は厳しいなぁと溜息のバイオリニストがスラムの学校に赴任。クラシックを教えることになったがこいつ無駄にプライドだけは高いのでバカで汚いガキ楽団どもと衝突してばかりで大変なのでしたとかそういうお話です。
最近観た映画っつーとこれの他は『ソング・オブ・ラホール』とか『ハート・ビート』とか『ソング・オブ・ザ・シー』とかなので、なんだか音楽映画ばかりやっている気がするし音楽映画ばかり観ている気がするのですがやっぱ夏だからなんすかねこういうの。
夏か…あぁそういえば『青空エール』もそうだなあれ吹奏楽部の映画だもんな、と白々しく連想するのですが同じガキ楽団ものといっても『ストリート・オーケストラ』の方はあちらとは対極のスーパー意識低い楽団なのでその分だけ音楽をやることの感動の振れ幅が大きくちょっと震えてしまうというか、いやそもそも『青空エール』は肝心の演奏シーンがロクに出てこないのだった…!
それでおもしろかったのが、なんかすごく荒っぽい筆運びってとこですね。なんつーか起承転結の承が基本的にない。あぁ音楽の授業してるな、赴任直後で全然コミュニケーションとれなくて大変だな、学校から帰った後のガキどもの生活も大変だな、あぁまた授業の場面になった、翌日ぐらいかな…と思ったら主人公、ガキ楽団に怒鳴る。「もう一年も教えてるのに全然進歩がないじゃないか!」。
気付かないうちに物語内時間が経過している(または思ったより経過してない)映画なので三年間ぐらいのお話な気もするのですがそんな感覚ゼロ。それでじゃあ変化がないのかというと違くて変化のあるところはすごく変化があるんですけど、その過程っつーのを説明しないで急に結果だけバンバン出してくる感じなんすよこれ。
ほんでこういうの前に見たことあって。アナーキスト奥崎健三の『ヤマザキ、天皇を撃て!』、こん中に奥崎が南方戦線での戦争体験を長々と語る部分があるんですが、それほど混乱してる叙述ってわけじゃないのに時間感覚が全然ない、でも実際はニューギニア渡ってから終戦までだから何年も経ってると。
なんかね、生きるか死ぬかの極限状態を後から回想したときってたぶんこんな感じになるんじゃねぇかと思うわけですよ。特定の出来事だけが強調されて階調とか連続性が失せてしまうので人が聞いたら散漫で支離滅裂、みたいな。
そういうところっつーのを『ストリート・オーケストラ』にも感じたわけですよ俺は。だからすごい舌足らずで消化不良に思える荒っぽさが、これ監督自身もファベーラ出身の貧困層の人らしいんですけど、ファベーラ生活の爪痕とリアリティを感じさせて良かったんですよねなんか。音楽だけが希望だよっていうのが語りの上手さじゃなくて乱暴さから伝わるっていうのがね。
さてガキ楽団は教室すら使わせてもらえないので辺りを売人がうろつくようなバスケットコートで超雑技法を披露してるんでありますが、こんな人たちでも継続は力なりというわけで主人公の指導の下なんかそれなりに上手くなってくる。いつの間にかバスケットコートから聴こえてくるそれなりに美しい音色に耳を傾けるのが近隣貧民の日課と僅かばかりの癒しになっていた。泣ける。部分部分に良いシーンがいっぱいある映画だった。音楽も染みます。
なんですか、つまり恩師ものではないし青春ものではないし感動っぽい感じも別にない。絆がどうとかエールがどうとか青空がどうとかそういうのは無い。けれどもそんなのはいらないんであって、ぶっきらぼうな語りの随所で炸裂するへっぽこ演奏、お勉強演奏、たのしい演奏、鎮魂の演奏、怒りの演奏…音楽を奏でることが感情の表現でありストーリーそのものなのだとまぁそんな感じで、よい、大変よい魂震わせ系音楽映画だったように思う。
(文・さわだきんたま)
観ました。沁みました。オリンピックは終わったけど、これもブラジルの姿ですね。
こういうのいいですよね。チェロを背負ってファベーラにチャリを走らせるメガネ少年の画とかグッときました。
一昨日の仕事帰りに観ました。
仰る通りで、命がけではあるものの、スラムの「日常」が淡々と描かれていて、疲れてた身としてはちょうど良かったですね。シン・ゴジラよりかは気楽に観られました。
全然関係ないんですけどギャレス・エドワーズの『モンスターズ』が怪獣に蹂躙されたメキシコの日常を描いた怪獣ロードムービーで、あれ面白かったです。