《推定睡眠時間:20分》
戦後日本で海賊王になろうとした人の映画です。仲間に加わって新たな事業を立ち上げようと苦心していたビリビリの実の大男・ピエール瀧は海賊王に言いました。「なぜ…銀行から融資が受けられないのでしょう…」。海賊王(岡田准一)は言いました。「熱が足らんッ! んんん熱ッ!」。
そういうテンションで戦後復興期の荒波を乗り切る。下を向いてる暇はない! 舟出せぇ! 油持ってきたけぇぇぇぇ!
石油王になろうとした人の映画です。ドンッ!
なんでしょう。なんて言ったらいいかわからない映画で、おもしろいかおもしろくないかと言われたら無駄にテンション高くて面白かったのですが、これはなんかこういうのはいいのだろうか。
そのあの原作が百田尚樹。百田尚樹といえば探偵ナイトスクープの人。原作の方は読んだことがないのですが映画を見るとナイトスクープ様式。つまり、この岡田准一さん演じる国岡鐡造という人は出光興産の創業者・出光佐三をモデルにした架空の存在なのですが、あたかもノンフィクションのように描く。ナイトスクープがあくまでドキュメンタリーの体裁を崩さないのと同じ。
探偵ナイトスクープは大好きなのですが、とはいえあれを演出なし台本なしのドキュメンタリーと考える人はたぶんそんなにいない。みんな作られたバラエティだと分かって楽しむわけでしょ。
この『海賊とよばれた男』は冒頭に「事実に基づく」とテロップが出るので…どうも伝記と思っている人もいる。出光佐三のワードで検索をかけてみると。『海賊とよばれた男』をソースにした「出光佐三の」記事が出てくる。
倫理的にどうかと思うが…まぁ売り方としては上手いのかもしれない。ファンタジーなので堅苦しさがなくてたのしい。たのしいのに実話(風)なので真面目な映画を見た気になるわけです。
それはさすがにナイトスクープの構成作家と『ALWAYS 三丁目の夕日』の監督の職人技だなと思いましたね。プロパガンダなんですけど。
最高なのはやっぱり岡田海賊王の血管浮き立つ松岡修造的大熱演なのですが松岡修造はあれで恫喝とかは絶対しない褒めて育てる主義の紳士というからこの形容は正しくないかもしれない。基本的に怒号&根性論の岡田海賊王であった。パワーワードの連続に濡れる。
映画は海賊王の一代記であるから30~90歳ぐらいまでを岡田准一は演じ分けるわけで、これよくやるなと思ったな。戦前の駆け出しヤング海賊王はともかく戦後復興期のシニア海賊王も声の濁りでそれっぽく感じるのですごい。
その岡田海賊王の下に漁師の息子(?)とか陸軍中野学校出身者とか次々と個性的な仲間たちが集まってくる某ピース的な展開を辿るというわけなのですが、中でも吉岡秀隆。これがもうコメディリリーフとして圧巻のおもしろさ。
海賊団の中でもとりわけ海賊王に忠実な南方帰りの兵隊さんが吉岡秀隆なのですが、忠実なだけに一番理不尽な目に遭うのも吉岡秀隆というわけで復員して泣きながら海賊団に戻ってくるやさっそく石油タンクの底浚いをさせられる(危険と薄給のため人足は逃亡した)
忠誠は誓っているが感情の起伏が激しい。さっきまで揉み手で「店主ゥ~」みたいな感じだったがその店主(海賊王)が店員の命を危険にさらすイランとの取引を独断したときには「あんた戦争に行ったことねぇじゃねぇかァァァ!」と急に掴みかかって側近に殴り倒される。
ちなみにそのとき海賊王は手を差し伸べるとかそういうことは一切しなかったっていうかそもそも見てなかった。
出光といえば昭和シェルとの合併に際してのゴタゴタがニュースになったりして、その時に出光の大家族主義の理念がクローズアップされたと思いますが、そういうのは美化された形で『海賊とよばれた男』の多くを占めるので勉強になる。
海賊王の考える大家族主義とはなにか。海賊王がいちばんえらい。海賊王だけがただしい。従っていわゆる日章丸事件の際には拿捕どころか撃沈の恐れすらあったにも関わらず海賊王の一声で店員たちはイランに赴くことになるが、その航行中に艦長・堤真一は衝撃の一言を発する。
「諸君には黙っていたが、これよりイランのアバダンに向かう」
ひな壇芸人たちだったら一斉に立ち上がって反乱を起こすパターンですが兵隊上がりの店員たちはおもしれぇやってやろうじゃねぇの店主のために! とむしろ士気が上がる。大家族主義の賜物である。
ちなみによくある映画だとある問題が設定されて主人公がどうそれを解決するか、という過程がドラマになりますがこの映画では過程が省略されているため海賊王が壁にぶち当たると海賊王なにかパワーワード怒鳴る、そして次のカットで問題が解決しているというハイテンポな構成になっている。問題と答えの直結した即尺のような映画である。
戦前から戦後の街並みなんかのビジュアルを作り込むことに力点が置かれているところも含めて…まぁこういうのは『マッドマックス/怒りのデス・ロード』(2015)みたいなものだと思えばいいんじゃないでしょうか。イモータン・ジョー視点の。
【ママー!これ買ってー!】
世界を救った海賊の実話です。
↓その他のヤツ
海賊とよばれた男(上) (講談社文庫)
マルクスが日本に生まれていたら (著・出光佐三)
ホワイトエレファント(著・出光真子)