《推定睡眠時間:0分》
2017年の恋愛青春映画に出てくる告白シーン個人的暫定ベストは他に青春恋愛映画を見てないんですが『ぼくごは』の体育祭で告白です。タイトルを略すと北斗の拳で人が惨死するときのセリフみたいになる。
体育祭で告白。なんですかなんか、絶対勝てるはずのないリレーで主人公イエスこと中島裕翔さんが好きになったクラスメートの新木優子さんのために頑張って走ったら一着になってしまって息を切らしながら俺おまえのこと好きなんだよぉ! みたいな。音楽盛り上がってスローモーション、歓喜のクラスメートにもみくちゃにされつつも新木さん満面の笑顔で私もぉ! …みたいな。
いやそういう青春ぽいやつじゃなくてこの告白は中島さんと新木さんの無様な米袋ジャンプ競争が終わって画面の後ろのほうでは優勝したクラスが誰か知らない人を胴上げしたりして超盛り上がってるが中島さんと新木さんは全然興味がないしクラスメートの方も二人の存在を忘れかけている中で無表情のまま「好きなんだけど」「ええ」「中学の頃から」「そうなの」「モテたんだよ結構」「いや知らなかった」。
お前らちょっとは嬉しがったり恥ずかしがったりしろよ。でもそれがいいんですけど。
よくあるやつだとそこから江の島デートに行ったりすると思いますがこれはとくに遠出するとか珍しい出来事に遭遇したりとかなくまったくロマンティックなことも楽しそうなこともないが別に嫌というわけじゃない太鼓判の平凡を押した普通恋愛なので新木さんがインフルエンザになったら中島さんが家にお見舞いに行くがノートの写しを忘れてしまった。はぁ? なんで忘れんの?
この恋愛はそういう他愛のないエピソードばかりですから夢がないなほんとうに。
なんとものんびりした空気の漂うエッセイのようなオフビート映画で、見た目に似ている感じでもないのですがなんとなく北野武『あの夏、いちばん静かな海。』(1991)の香りがあったような気がする。
二人が潰れかけたデパートの屋上遊園地から見る町の日常風景の、別に面白くはないがどこか間が抜けているところ。あぁこれこれ、という感じ。で、それ眺めながら相変わらず二人とも仏頂面なわけです(おかしい)
なんとなく付き合ってなんとなく恋愛してなんとなく別れる。はいあの平静を装ってますが見てるときはですねあまりに唐突に別れてしまうのでしかもそのシーンがまたサラサラっと流れてっちゃうので、ど、ど、ど、どうなんのどうなんのこれ! すごく動揺。
ゆるいムードもその後の展開を妙にスリリングに感じたのは中島さんと新木さんが決して世界の中心で愛を叫んだりする立場にないことを見ている方としては知っているからなのかもしれないなぁとおもう。
とくに誰にも祝福されずに始まって惰性のまま漂うありきたりな恋愛に約束された結末はないもんな。
『あの夏、いちばん静かな海。』にこういうシーンあったと思うんですが、恋人の大島弘子と一緒にバスに乗ろうとして乗りそびれた真木蔵人が初めそのまま諦めて帰ろうとするが突如として踵を返して走り出す、で次の停留場まで行って大島弘子と再会する。
すごくドラマティックに撮られたシーンなんですけどでも別にドラマティックじゃないじゃん全然。明日になればまた会えるし。…っていうところがしかし市井の人々の記録されないみみっちい恋愛世界ではクライマックスになり得るという庶民的な感覚を、『ぼくごは』もまた大事にした映画だったようにおもう。
ちょっとこういうのは懐かしい味わい。
映画は中島さんと新木さんの高校時代から始まってその後の十年間ぐらいを追う。なんすかね十年あったら色んな出会いとか大事件とかありそうなもんですけどねなんにもないなマジなんにもないなこいつの十年。
ないっていうかそこ省略してしまう。高校時代に友達のいなかった中島さんも大学に入るとようやく友達ができるがその出会いとか描かれないし、だいたいイエスと呼ばれる経緯だって二言三言セリフで語られるだけなので(あれそれ大事なところじゃなかったの…)と密かに思う。
個人的には中島さんはイエスっていうかブッダの方だと思います「聖☆おにいさん」基準ですが。
省略とあとカット尻の収まりの悪さっていうのも印象に残ったりして、後から考えると結構これは変った映画だった。
セリフ、原作準拠なんでしょうが固有名詞頻出。音楽、劇伴ほとんどなし。演技、無表情棒読み気味。カメラ、やや長回しで間をたっぷりとる。たぶんあまり演出をつけないでナチュラルに演じてもらってるぽいので(タイ旅行の場面なんか完全にプライベートフィルム)、なんかドキドキしてお芝居に見入ってしまう。
小劇場的というかあるいは、あれほどスタイルに固執する感じはなくても相米慎二っぽい意匠があんのかもしんない。ラブシーンなんかは別にないんですけど美山加恋が中島さんに抱きつくシーンなんかいやに生々しくてエロかった。こういうカテゴリーの映画でこういうエロがあるとはっていう驚き。
中島さんのバイト先がおしぼり工場。よく見ると不気味なカーネル・サンダース。新木さんの睨みに興奮(趣味)、片桐はいりのワンポイント起用が効いていて、などなど…地味っていうかこれは滋味。
こういうのは何度も見たいとは思いませんけど大事にしまっといて十年後にもっかい見直したいなぁって思いましたね。
【ママー!これ買ってー!】
いま気付いたんですけどタイトル末尾に句点がついていた。
↓その他のヤツ