《推定睡眠時間:20分》
アメリカ中を放浪する(させられる)ぶさいくなダックスフンドの何人目かの薄幸の飼い主がダニー・デヴィートで、下着姿でベッドにゴロンと横たわる場面があるんですがすごいもうなんていうかダルマみたい。
考えてみればダニー・デヴィートだからペンギン(『バットマン・リターンズ』)なわけで当たり前の異形だった。裕福な家庭に生まれたはいいがイレギュラーに醜かったため育児放棄&投棄の憂き目に遭い下水を漂っていたところ人間に恨みを持つペンギン群団に拾われやがて怪人化という蛭子の如しダニー・デヴィートが、月日と作品を跨いで天涯孤独のダックスフンドの飼い主になる。
こういうのたぶんトッド・ソロンズのやさしい茶目っ気なんじゃないすかねぇとそんな感想。
それにしても不思議なつくり。さいしょ小児がんの少年のために買われたこのダックスフンド、その後いろいろあってあんな人こんな人の悲喜こもごもを通過していくのですが途中でインターミッションが入った。
戻ると。さっきまでダウン症の夫婦に飼われていたはずなのに売れない脚本家兼映画学校講師のダニー・デヴィートの家にいた。いったいインターミッションの間になにがあったのか。
そして気付いたら爆弾チョッキを着せられて爆弾処理班の人と対峙していた。いったい俺が寝ている間になにがあったのか。それはべつに映画の作りのせいじゃないが、インターミッションを境に急に話の流れが掴みにくくなるのは確か。なんなんだろうこれは。
トッド・ソロンズの映画はほとんど知らないのですが『おわらない物語 アビバの場合』(2004)は観たことある。ひとりの少女の人生遍歴を女優さん24人くらいで演じ分ける変な映画だったと思いますが、それを踏まえるとそうかこれも似たようなものなのかぁと腑に落ちた。
ダックスちゃんの最初の飼い主だった小児がんの少年と最後の飼い主になる末期がんの老婆(エレン・バースティン)は同じ存在を別角度から見たものと思われ、そのエレン・バースティンの娘の恋人である駆け出しコンテンポラリー・アーティストの男は売れない脚本家ダニー・デヴィートのペルソナのひとつだろうし、このカップルは冴えないジャンキーのキーラン・カルキン(なんとマコーレー・カルキンの弟だった!)がダウン症の弟コナー・ロングに話す異母兄妹の化身なのではないか、という具合にどうもこれは前半と後半のキャラクターがトポロジカルに繋がっていた。その繋がりが表には現れないので分かりにくかったんじゃないか。
ほかの人の感想を読むと別のソロンズ映画のキャラクターが再利用されているとか書いてある。トッド・ソロンズは個体的にじゃなくて位相の変化として人間を見る人のようで、するとあのダックスちゃんも必ずしも特定のダックスちゃんというわけではなく無数のペットたちの形象と考えることもできるかもしれない。
これきっと最初の方で小児がんの少年に母親ジュリー・デルピーが語り聞かせるような残酷ベッドタイムストーリーなんだろうな。なにはともあれイデア的なものはあるのだからと言っているかどうかは知らないがダークサイド人生を余儀なくされた人ばかり出して容赦なく突き放すブラック・コメディのわりには、そういうわけで慈しみさえ感じたりするのだった。
誰ひとりとしてひとりじゃないよ、ダメなのは君だけじゃないよ、みたいな。
いやしかしタイトルロールなのになにもしないダックスフンド。完全に置物。雨が降ろうが矢が降ろうがでろんと横たわって運命甘受。拾われて捨てられてまた拾われてとか繰り返した幾歳月の末にやおら自分の足で歩き出したら棒に当たって笑う。生生流転。
グレタ・ガーウィグの地味、個人的ドツボ。カルキン弟との微妙なカップルっぷり素敵だったんじゃないですかねなかなか。素敵といえばダニー・デヴィートのパートが枯れた味わいでウディ・アレンの都会派ロマンスみたい。コナー・ロングとブリジット・ブラウンの甘さと苦さ。
そういうこともやる意外にメロウなトッド・ソロンズ。いや、みんな悪趣味悪趣味言うから動物殺してオナニーする人だと思ってたんで…まぁマコーレー・カルキンの弟に落ちぶれジャンキーをやらせるわけだからそれは確かに悪趣味ではあるな。
こういう優しさの極限にある悪趣味と非道っていうのでハーモニー・コリンが連想されましたがマコーレー・カルキンがハーモニー・コリンと仕事をしていたの記述をみつけ、本当にどこまでも続くな人生うまくいかない人間の輪は、とおもう。
あとちなみにダミアン・ハーストの名前が出てきたのでもしやこれは牛の…と最悪のオチを想像していたのですが松本人志『さや侍』(2011)を彷彿とさせる穏やかなオチでよかったです。よかったです?
【ママー!これ買ってー!】
持ち主に不幸をもたらすというか自滅させる呪いのダッチワイフが云々のあらすじからは想像しにくいファンタジックな悲喜劇だったためそのギャップからやけに良い映画に感じマイカルトになっているのですが見直したらたぶんつまんないやつ。