《推定睡眠時間:0分》
ティム・バートンの映画は久しぶりに見たのであまりどうこう言うこともできませんがただこれはめっちゃ確実に間違いなく事故ってると思っていてどのくらいの事故物件かというと畳に人型の黒い染みが残ってるぐらいの隠しようがないしお前隠すつもりもねぇじゃねぇかよっていう事故物件だと思います。
たのしいよね事故物件! たのしいけどでも事故ってる絶対事故ってる。
そういう『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』の感想です。
学校に馴染めない孤独ティーンのジェイクくんは判で押したようなティム・バートン世界の主人公。ある日のこと認知症を患い妄想まみれの妖怪大冒険を垂れ流す典型的ティム・バートン老人の祖父に会いにいったら祖父・惨死。死体から目玉が盗られている大事件っぷりだ…。
ショックからか現場で目玉喰いの怪物を幻視してしまったジェイクくんは父親とともにウェールズ癒しの旅へ。なぜウェールズ? 実は生前、祖父がよくウェールズの小さな島での思い出を語っていたのをジェイクくんは聞いていた。
なんでも“スペシャル”だった祖父は第二次大戦中にポーランドからウェールズの島にある特別な施設に疎開したらしくそこはスペシャルな超能力をもった奇妙なこどもたちが暮らす施設で…あぁそうかボケてきてるから記憶に変なノイズが入ってるがあのジジィはナチに迫害されて国を追われた悲しい過去があったんやと大人なジェイクくんは悟ったのでその地をダークツーリズムしようと思い立ったのだったが果たして祖父の言っていたことは本当だったのでウェールズの小さな島にX-MENみたいな超能力or妖怪キッズたちがちゃんと住んでました。ジェイクくん仰天。
かくして奇妙なこどもたちとジェイクくんの大冒険が始まるというわけなのですがとにかく情報量の多い入り組んだ話なのでメモ的に基本的なところを整理してみる。
・奇妙なこどもたちは大戦中のある一日を延々ループして歳を取ることなく暮らしている
・ループは結界のようなものなので範囲が決まっており、どこにでも作れるわけではない(らしい)
・ループの外では普通に時間が流れているため、ずっとループの中にいると浦島太郎状態になってしまう
・ループさせる能力を持っているのがこどもたちの面倒を見ているペレグリン先生
ファンタジーっぽく見えて実はこれはかなりSFだったの意外性なので祖父のホラ話が本当だったことを知ったジェイクくんと同じような衝撃。なんとなくウェス・アンダーソン風に始まって祖父のホラ話が『ビックフィッシュ』(2003)を彷彿とさせたのではいはいそういう感じねとタカをくくっていましたがその後は設定に次ぐ設定の読んだことありませんがイメージだけで言えば西尾維新の面倒くさいラノベみたいになっていって過去の改変・空襲・妖怪の襲撃・沈没船での船出などなど理解を追いつかせることが一苦労な怒涛の展開を経て最終的にサミュエル・L・ジャクソン率いる目玉喰い妖怪軍団と奇妙なこどもたちのカーニバルな超能力とんち合戦になだれ込みますから一言で言えばティム・バートンによるスーパーヒーロー映画またはジョジョ4部~6部。
おい三池、先にやられちゃったよ! ティム・バートンにやられるとは誰も思わなかったでしょうが…。
事故と断定したのはこんなこんな情感のない慌ただしいストーリーテリングとチャカポコした編集のリズムと特徴のない猛々しい音楽にティム・バートンのかけらも感じられなかったというのもありますがクレジットの4番目くらいにルパート・エヴェレットの名前がありルパート・エヴェレットといえば、秘密の花園『アナザー・カントリー』(1983)に閉ざされた死霊の町『デモンズ’95』(1994)。
鬱屈を抱えてある一点から先に進めなくなってしまった人のイメージがたまらなくティム・バートン世界の住人な気がしたので果たしてどんなケミストリーがと思ったら出演が都合3分ぐらいだったのでき、切られてる…これは編集でバッサリ切られてる…! とおもう…。
そう考えれば諸々納得のしようもあるというもので、超能力こどもたちの一人であるネクロマンサーが死肉と適当な余りものを接ぎ木した不気味なミニチュア合成生物を作って殺し合いをさせる多分に『死霊のしたたり2』(1989)のオマージュだろうというシーンがあったのですがここが本家に倣ってわざわざストップモーション・アニメ。
なんでよりによってそのオマージュ持ってきたんだよの暗黒マニア感と無駄な拘りが強烈にバートン性を感じさせたのですがクライマックスにはなんと『アルゴ探検隊の大冒険』(1963)が! ここも当然ながらというかむしろこの場面こそストップモーションを使いたかったのは明白に思われるのでそこから逆算してせめてコスト的に可能な『死霊のしたたり2』だけでもストップモーションでという事情だったんじゃないかのバートンほぞ噛み疑惑。
オマージュといえば、バートンはヴィンセント・プライス大好き監督。ゾンビ界隈でのプライスの代表作『地球最後の男』(1964)がここには隠し味的に含まれているんじゃないかという気もする。
色々雑多な要素を持ち込んではいるのですが死を免れるために僻地の屋敷に隠れていたこどもたちが凶暴な妖怪に見つかって襲われる的なプロットに『地球最後の男』と被るところがあり、なにより目玉喰いジャクソンのビジュアルが『地球最後の男』二度目の映画化『地球最後の男 オメガマン』(1971)の吸血ゾンビとよく似ていた。
こういう部分部分のバートン成分の濃さと全体的な無個性のアンバランスに事故をひしひしと感じ。たぶんスーパーヒーロー映画みたいのを求めるスタジオ側と『ビッグフィッシュ』的な哀感ファンタジー(第二次大戦の記憶など含め)を構想していたバートンで折り合いがつかなかったとかじゃないすかね。
スーパーヒーロー映画というには怖すぎる妖怪と…4時間のランタイムを半分にしたような詰め込み感と…B級オマージュと…とにかく奇妙な映画で謎しか残りませんがでもおもしろかったですしそしてもはや十八番といえるサミュエル・L・ジャクソンの調子に乗った若者に鉄槌を下す体制の代弁者芸も確認できましたのでぼくは満足ですというわけで感想ループを閉じます。
to be continuedなエンディングなので映画の方はループを閉じませんが。
追記:エヴァ・グリーン演じるミス・ペレグリンは瞼に描いたような開きっぱなしの目がこわい。
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これじゃティム・バートンじゃなくてティムール・ベクマンベトフじゃねぇかよと言っている人がいてなるほど感があったのですがこのゴッタ煮っぷりベクマンベトフのこれっぽいですよね色んな妖怪出てくるし。
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