《推定睡眠時間:0分》
感想書こうと思って胃薬を飲む。胃が痛いと気力が削がれる。感想だって気力がいる。つまり胃が痛いと感想が書けない。だが時間が異常をきたしていて、あれと思うと白紙のまま一時間経っていて、その間なにしてたんだろう、という記憶はあるといえばあるのだが客観的時間と一致しないように思われる。
わかった。いつも服用している胃薬と睡眠薬はパッケージの色合いがなんとなく似ているし、どちらも同じぐらいの大きさの錠剤だ。間違えて飲んだんだろう。その証拠に立ち上がると足が軽くて遠い、背が高くなった気がするし通常の一歩が体感的には1.5歩の倍速。本気を出せばどこまでも走っていけそうで恐ろしい。
また、走り出したくなってしまうだけの楽しさだってあるのだ。布団の中で眠りを待ちわびているといつのまにか全身のあちこちを搔きむしっているが、そのときはリズムの中にいるわけで、足はドラムだし頭は二胡、全身掻くのは合奏なわけだ。
文字だってふわふわ泳ぎだして呪いのビデオみたいになります。ハイになっている。灰になっているのはエルキュール・ポアロの脳細胞だ。色に留まってはいるが。
副作用はこわいので睡眠薬は注意書きをよく読んで用法容量を守って自分に合ったものを飲もう『トレスポ2』感想。
なんか気持ち悪かったすよ冒頭、ウニョニョっとしてる坊主のユアン・マクレガーがサブリミナル的に入ってきて前作の、前作ラストで笑ってるレントンなんですけど。あのアンダーワールドかかるとこ、ボーンスリッピー。
ボーンスリッピーそういえばこっちでもちゃんと流れた。そのタイミングな。切なかった。だいたい前作ラストのボーンスリッピーだって切ないでしょ。あぁこいつ絶対なにも変われねぇなって思わせるじゃないすか。クスリ絶って定職に就いて悪い仲間から距離を置いてこれからは平和な真人間、そんなわけないよね。結局失敗して元の鞘に戻っちゃうんだよ。
そのtwo monthsどころじゃない休眠期間を経ての続編はところがスポーツジムでランニングするレントン、から始まったのでどうせドン底人生だろうと思いきやまんざらでもないのだった。
もうダメだ人生終わった、人生っていうか世界終わった。右見てもゾンビ左見てもゾンビ後ろ見たら暴力軍人な終末にザ・絶望したキリアン・マーフィが空を見上げると飛行機雲が…というのは同じダニー・ボイルの(そして『ムーンライト』のナオミ・ハリスの)『28日後…』で。
『28日後…』と並んでゾンビジャンル再興の契機となった『バイオハザード』の、ボイルと同時代の映像派(映像派だったのだ!)イギリス人新鋭監督ポール・W・S・アンダーソンも長編処女作『ショッピング』で似たようなシーンをやっていた。
盗みと抗争に明け暮れる貧困ヤンキーのジュード・ロウが遠い上空を通り過ぎていく旅客機を眺めながらヤンキー恋人とこんな会話を交わす。「飛行機、乗ったことある?」「ない」「俺も」。一生、地元でショッピング(=盗み)するしかない人たちなのだ。
なんの話かというと。故郷を離れてまんざらライフのレントンだったが。ふらりエディンバラ帰郷を思い立って飛行機に乗る。飛行機に乗る…!
島国的届かぬ未来の象徴だった飛行機がもはや何の象徴にもならない…20年の時はどこか新天地に行くための希望の手段を元の場所に帰るための諦めの手段に変えてしまった…!
入国管理とホームの概念がそのあり方を根本から揺さぶっている昨今のEU情勢であるから殊更このフライトは重いが時間にして10秒ぐらいのシーンだしだいたいこれまだ始まって5分ぐらいなのですが…要するに20年間の空白が5分に凝縮された! わぁすごい! そんな『T2』だったよなッ!
でも個人的には世代じゃないのでノスタルジーとかは別になくあぁよく出来てるなぁ面白いなぁっていうだけの映画なわけで前作の姿が辛うじて当時の記憶として刻まれているのは渋谷を舞台にした実写取り込みの名作サウンドノベル『街』の、スクランブル交差点の場面。その背景に映り込んでいたのが例のズブ濡レントンのポスターなのですが、それにしたって98年発売のゲームだし俺がやったのその4年後ぐらいすからね。思い出的なやつは一切ないもう一切。
そういうの、ある人ない人でだいぶ見え方違うんだろうなあ。説明的な描写というのは無いも同然なので前作見てる人向けであるし思い出の片隅にトレスポがある人向けつーことでレントン怒りの中年の主張なんである。人生を選べ! スマホを選べ! 食ったものはSNSに投稿しろ!
やはり、映画と一緒に齢を重ねた人ならひとかたならぬ感慨があるんでは(それにしてもまるで『江分利満氏の優雅な生活』のような場面だ。実験的ポップ感覚が似ているかもしれないダニー・ボイルと岡本喜八)
相変わらずカッコいいシックボーイ、しかし段々とLEONでモテようとする人みたいに見えてきて寄る年波の悲哀。007談義はなかったがクレイグ・ボンドをどう思っているのか気になる…。
スパッド、お前はやっぱり良いやつだ…! 地元残留組でいちばん信用できる真面目な生活ぷりだったが歳とってもアホは変わらないので辛酸舐めまくりの不運。ほぼほぼ彼が主役だったので『T2』っていうか『がんばれスパッド』。または『レイジング・スパッド』。
ベグビー…生きてたのか…ていうか前作の最後でよく殺されなかったなシックボーイもスパッドも。暴力沙汰で臭い飯20年のベグビーがどうトレスポ同窓会に絡んでくるかというとこれが強引も強引でレントンとの電撃邂逅なんてあり得ないバカバカしさ、そのシークエンスの選曲がまた!
しかしそのへんにあのトレスポの続編の意味があったよなの仕掛け。戯曲のような…舞台劇の映画化のような印象もあったのですがそれも仕掛け。前作みたいに走れなくなった中年は経験と知恵とテクニックで勝負。そんなこと言ったら原作のアーヴィン・ウェルシュは前作の執筆時点で中年だったはずではありますが…それも元公務員の。
ところでアンダーワールドと並んでイギー・ポップでしょうトレスポを象徴するモノつーたら。で、ルー・リードの『パーフェクト・デイ』でしょう。そしたら間にあるのはデヴィッド・ボウイじゃん。ボウイはでもたぶんサントラで使ってなかったんですけど、それで思い出すのは『★』のひとつ前の『ザ・ネクスト・デイ』の、『ヒーローズ』の肖像を塗り潰したジャケットで。
それはまったく偶然ではあろうけれども偶像化された「あの頃」を振り返りつつ笑い飛ばして、そんなことより情けない明日に進もうとするこの中年賛歌は間接的なボウイ追悼だとも感じたなあ。『パーフェクト・デイ』から『ネクスト・デイ』へ。
安易な企画とか言ったのは誰だ。これはまったく重層的な映画。おい泣かせるなダニー・ボイル…やっぱ最高!
【ママー!これ買ってー!】
『トレスポ』といえば渋谷、渋谷といえば『街』。90年代後半の渋谷全面ロケ(スチル)は貴重な風俗資料。
これ『T2』方式で20年後の続編なんてあったらめっちゃ面白いのでまだ『街2』待ってるのでなんとかしてなんとかおねがいしますよ『クーロンズゲート』だって復活したこの頃じゃないですか…!
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