《推定睡眠時間:40分》
俺はただやれって言われた仕事やってるだけの人間なんで、というのが三池崇史の自己評価なのでたとえ韜晦だとしても作家性云々で外野があーだこーだ言うのはどうなんすかねとは思いつつ、めっちゃ三池じゃんみたいな『無限の住人』。
三池つっても色んな三池があるでしょうがこれは『殺し屋1』。ちょっと久々にあの三池だと思ったよな。呪われた宿命に囚われた人たちの哀歌。
不死の病に冒された木村拓哉の呟くメンドクセェは変態サド殺し屋にも変態マゾ組長にも裏社会からの脱出を夢見て敗れる『黒社会』シリーズの哀川翔にも北村一輝にも通底する三池ワールドの住人の心の叫びのように思われるのだ。
いやだからそのへん三池版『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』についつい良くないことだとは思いつつ確実に裏切られると知りつつ、つつ! どうしても期待してしまうところで吉良吉影、まさにそれじゃあないすか。静かに生きたいけど殺しがやめられない。しかも手フェチの変態。完全に三池ワールドの住人じゃん…!
むしろむしろ今までの漫画原作もの三池映画の中でいちばんこの人の趣味嗜好と合ってるんじゃないかジョジョ四部。いやまぁそこまで言わなくともだよ公開されたら絶対見ようと思えるぐらいには『無限の住人』も面白かったんだよ…寝てるけど…。
『無限の住人』、よかったところ。キムタクさんの不死身浪人よかったすよねやっぱ。いつも疲れてて…体が重そうで…叩きつけるように刀を振り回す…この無様…倦怠…悲愁…超グッとくるじゃないすか…!
なんか途中から佐藤浩市に見えてきたぐらいの疲弊っぷりだよ! 佐藤浩市のような木村拓哉なのか木村拓哉のような佐藤浩市なのかもうわからないな!
キムタクの敵は福士蒼汰の剣豪だったんですけど福士蒼汰、あんまりラスボス感がない。代わって悪の魅力を発散していたのが市原隼人だったな。こいつは酷い。酷くて良い。年端もいかぬ女の子をバンバン殴って半殺しにする。
小物感はあるが市原隼人、『極道大戦争』でも見せたヤクザ気質全開。『悪の教典』の伊藤英明といい体育会系ナイスガイのダークサイド露出に力を発揮する三池演出だ…。
ところでお話は。なんか。うーん。死ねないのつらいキムタクが両親を惨殺されて仇討ちを誓う女の子の用心棒買って出る。そしたら変なのいっぱい襲ってくる。うわぁ。たいへん。…以下、睡眠のため委細不明。
原作も読んでいないのでもうもうストーリーに関してはなにも言えないというかほぼわかっていないのですが、まぁ大筋『殺し屋1』みたいな感じなんじゃないですか。ヤクザの内部抗争権力闘争とその裏で暗躍する変態殺し屋集団の構図を時代劇に置き換えたらこんなもんだろう。終盤の混沌とした展開は極めて三池ヤクザ映画的に思われる。
このパターン『アイ・アム・ア・ヒーロー』なんかそうだったなぁって感じですけどキムタクがザクザク人を斬ってってたーのしーみたいなやつじゃ全然なかったな。爽快感とかほんと無いな。
まぁそういうつもりで見に行ってもいないというのは三池度が高い映画ほど陰鬱度も高いの法則があるからで、それこそ『殺し屋1』(何回言うんだ)だって陰性の映画ではあった。
三池映画はくらくてかなしい。『殺し屋1』の原作との最大の相違点はSABU演じるシングルファーザー下っ端ヤクザを実質的な物語の中心にしたことにあったが、否応なしに血に塗れた世界に引きずり込まれて後戻りできなくなってしまった普通の人の哀しみというのがグチョグチョの変態合戦の中に三池が見るものなんである。
というわけなので『無限の住人』もラスト30分ぐらいまでは鬱々とシリアス超低空飛行なのだった。なんか色んな刺客でてきますが。すごい強いらしいがまったく強そうに見えない戸田恵梨香が襲ってきたりしますが。まるでテンション上がらない。元祖人斬りマシーン山崎努の登場に瞬間的にテンションが沸点に達するが。…ええそこで出番終わっちゃうの! みたいな。
これも三池的と言えるのか。たしかにいつも抑揚とかあんまりないよなほら『DEAD OR ALIVE FINAL』とか…で、ラストで急に沸点超えて温度計突き破るっていう。いちばん最後のキムタクの目にはなんとなく『龍が如く』の岸谷五朗がダブる。
『龍が如く』を引き合いに出すということはこれでも三池映画としては幸せな終わり方ということで、いやネタバレになったらいけないから言わないけれどもちょっと感動的でしたね。
なにがって希望の表現の慎ましさが。そこに三池崇史の照れと詩人を感じた『無限の住人』なのだった。
【ママー!これ買ってー!】
メンドクセェ連発のキムタクはこの北村一輝に近いと思ったよなの『黒社会』シリーズ最終作。めっちゃ切ない。
↓その他のヤツ
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