《推定ながら見時間:80分》
ソダーバーグねぇ~スティーヴン・ソダーバーグのアクション映画って盛り上がりに欠けるんだよね~。だいたい、引退したんじゃなかったの? まぁそのうち戻ってくる予感はみんなあったと思うので驚くこともないがしかしだぜ、せっかく引退撤回して撮ったのがこんな映画じゃあよぉ~ガッカリが無いって言ったら、嘘になるよ。
ソダーバーグしてましたよ。ほらこの人、自分で編集したり撮影したりすんじゃないすか。なんかアクションシーンが戦場ドキュメンタリー的なふらつき臨場感だったから、今回もある程度自分でカメラ持ってるよねたぶん。錯綜カーチェイスをクロスカッティングで見せていくのも如何にもなソダーバーグ趣味だ。
ストーリーも国やプレイヤーを跨いで複線的に進行するのですが、そういう見せ方が並列的すぎて、客観的すぎて、なんか盛り上がらないっていうも典型的なソダーバーグのアクション映画っぽい…『エージェント・マロリー』とか。
そういうわけで俺としてはそんなに楽しめない映画だったが、ただこれだけは言っておかないといけない。映画サイト見たらこの映画ソダーバーグは一切関わってませんでした。なんだったんだ。
ソダーバーグはソダーバーグで『ローガン・ラッキー』なる新作クライムコメディを撮り上げているらしく、『ヒットマンズ・ボディガード』とはアメリカの公開時期が重なってんのでそのあたりの情報が脳内クロスカッティングしてしまったんだろうということでソダーバーグ冤罪事件はセルフ解明されたがだからと言って映画がおもしろくなるわけでもない。
ソダーバーグじゃないなら誰が監督しているんだろうと思ったらパトリック・ヒューズという人物。何者かといえば『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』の監督であった。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! あの人! それはそれで納得感があるのは『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』もすごくこうキャラクターだけ多くて焦点が定まらなくて混戦模様の映像処理が上手くなくて、アクション温度が何故か低い…そこはお前本気の戦闘を見せてくれよってところでコメディ調になるのでガッカリする…俺にとってはそんな映画だったからだ…。
ハーグ国際司法裁判所で繰り広げられるクライマックスの闘い、見ながら『エクスペンダブルズ2』の空港戦を見習えよお前ソダーバーグこの野郎インテリぶりやがって! と思っていたが『エクスペンダブルズ3』の人とわかった今は尚のことそう思うしついでに『エクスペンダブルズ3』におけるスタローンとメルギブの決闘の迫力のなさ、カーチェイスの工夫のなさ、ハリソン・フォードの残念すぎる扱いなどなど忘れていた不満まで再燃してしまったよね。
一応、ストーリーの説明。
元スーパーボディガード、色々あって現在はうらぶれ街道邁進中のライアン・レイノルズの下に元同僚で元恋人のエロディ・ユンから連絡が入る。詳しい事情は言えないが、もうお前しか頼れないから今から言う場所に来い来てくださいお願いします。
実はユンは世界的スーパー殺し屋のサミュエル・L・ジャクソンを護送していたのだった。ハーグ国際司法裁判所で審理中の独裁者の虐殺疑惑の証人として召喚されたのが虐殺に関与したと見られるサミュエル。ユンは2日だか3日以内に届けなければいけないが、案の定内通者多数、独裁者の手先に襲撃されてにっちもさっちもいかなくなっていたのだ。
つーことで、レイノルズとジャクソンのハーグ珍道中が始まる。果たして審理に間に合うのだろうか。その前に殺されたりしないだろうか。現役時代には敵同士だったふたりは仲良くできるのだろうか。ジャクソンのバディものといえばやはり『ダイ・ハード3』だが、いっそのこと新しい『エクスペンダブルズ』もダイハーダーのジョン・マクティアナンに撮ってもらえないだろうか…最後のは関係ない…。
面白かったところの話をするとジャクソンの恋人役がサルマ・ハエックなんですが、ジャクソン逮捕のためにハエックが利用されたんで、愛妻家のジャクソン怒り心頭。ぶっちゃけベラルーシの虐殺独裁者なんざ興味のないジャクソンが法廷に出ることを決意したのもハエックの釈放をチラつかされたからで、もとから無実の人間を釈放か、白いやり方だな! 怒っている。
とてもハエックが不憫になる、が、実はハエック、どういう人かといえばバーでチンピラどもに絡まれた際に一歩も引かず男どもをぶん殴り床に押し倒してマウントを取り腕十字固めを決めビリヤードのキューで突き刺しその喧嘩の様子を眺めていたサミュエルの手からビール瓶を奪い酒を飲み干した後、瓶を割って満身創痍のチンピラの大動脈を切り裂く! ジャクソンが惚れるだけあるワンダーなウーマンであった。ていうか無実なのだろうか。
そういう、キャラクターの面白さで救われてるって部分はある気がしたな。ジャクソンの殺し屋はいつものアレ感ですがー、レイノルズのどっか抜けた落ちぶれボディガード、味あるなぁ。『デッドプール』の延長線上のダメ人間キャラだ。本気を出せば結構強いってのも同じ。あくまで真剣に演じてるのになんとなく締まりがなくて可笑しいアクション、独特で良いっす。
それとベラルーシの虐殺独裁者、ゲイリー・オールドマン。終盤、虐殺してなにが悪いと開き直って演説をぶつ場面は恐かったな~。目に光も迷いもない人の役、上手いよね。
アクションつまんねぇよの文句を先に言っちゃったが中盤のアムステルダム市街戦、これが中々工夫が凝らしてあって…なんかでも迫力が本当になくてノリが悪くて『エクスペンダブルズ2』だったらなぁとかまた思うが! それは言わないことにして(言ったが)、ジャッキー映画ばりに狭い街路を縦横無尽に駆け巡る多層構造のコミック的カー/バイク/ボートチェイス、大いに見所。
商店に場を移してのレイノルズVS暗殺者軍団のダーティバトルは『デッドプール』的バイオレンス・コメディの趣向で、こちらもたのしい。
部分部分は面白いのに妙に抜けが悪く感じられるのは実は監督のせいじゃない気もしてきた。なんでもハリウッド目利きの間ですごい評価されていたらしいこの映画の脚本は元々シリアスを想定して書かれたものらしく、大した掘り下げもないのになんでベラルーシの独裁者設定? というのはそのへんに起因しているように思われる。たぶん社会派脚本だったのだ。ソダーバーグ的な。
まぁそういう齟齬も含めてトータルで考えると、面白いは面白いけど確かに、未公開映画っぽいなぁって感じはあるかもしれない…都内3館とかで2週間ぐらい掛けて新橋文化に落ちてくるタイプの映画の臭いがする…新橋文化で2本立てで見たら妙に面白かったりするがストーリーやタイトルは他のアクション映画とごっちゃになってすぐ忘れてしまうタイプの映画である…。
ライアン・レイノルズとサミュエル・L・ジャクソンのBな顔合わせも新橋テイストに貢献しているな。要は肩肘張らんでビール飲みながら見る映画ってことか。そしたらきっと、良い感じ。
【ママー!これ買ってー!】
ヒットマンズものといえば『ヒットマンズ・レクイエム』が渋い逸品で好きなんですけどこれもオリジナルな脚本が評判を呼んだらしい。ふーん。
主演コリン・ファレル。コリン・ファレルといえば…ファレルとサミュエル・L・ジャクソンがゾンビの如く沸いて出るチンピラどもを蹴散らしながら麻薬王を護送する『SWAT』! うーん、繋がるな。
あとそれとは関係ないのですがコリン・ファレルの渋い逸品つーたら『ロンドン・ブルバード』というのもあるが副題がラスト・ボディーガードなのでひとりヒットマンズ・ボディガードなコリン・ファレル。
ヤードバーズの「Heart Full Of Soul」を大胆に使ったオープニングが格好いい映画だった。