《推定ながら見時間:45分》
運び屋ものでカメラは同乗。つまりPOV、的手法。ポール・ウォーカーのPOVカーアクション『逃走車』とテイストは近い。タイトルも近い。あとタイトルが近いと言ったら車関係の映画てこういうタイトル多すぎない『ジャンクマン』とか『ハイウェイマン』とか。なんかパチモノみたいなタイトルになってしまった。
別に嫌味とか言いがかりとかではなくパチモノぽいタイトルは内容を端的に示していたんじゃないだろうかってのが言いたかった。ホイールマンというのは主人公の役名。運び屋/ドライバー映画の伝統、車の匿名性と物質性の殻に閉じこもって心を閉ざした男の話。『ベイビー・ドライバー』然り。見ていませんが。
この無個性なパチモノ性。誰でもない男。誰にもなりたくない男。どこにでもいるような男。どこかで見たような男。犯罪的な過去とか、悪い連中とか、破綻した家族関係の切っても切れないしがらみから逃亡しようと夜の街をあてどなく走り続ける男。
そういうわけで『ホイールマン 逃亡者』だ。ぴったりのタイトルじゃあないですか、こういう物語には。
「お客様」二人組との名前を巡る会話がいい。お前名前は? 名前なんてどうでもいいだろ。どうでもいいってことないだろ。どうでもいいよ運転するだけなんだから俺は。そうか、じゃあこっちのことはマザーファッカーって呼んでくれ。おいよせよ。なんでだよ、呼べよマザーファッカーって、ホイールマン。
むかし、意識高めの接客バイトに応募したらオープニングで、オリエンテーションの場で自己紹介の時間が設けられた。愛称とか得意なことを教えてください。同期の合コン慣れしてそうな学生バイトどもがなにか言っていく。俺の番が来たから言った。ゴミクズって呼んでください。
あの時の学生(女)のうーわっていう表情が不意に蘇った。うーわ。思い出させてくれてありがとうホイールマン。それは呼び覚まさなくてもよかった記憶かな。ホイールマンもカミさんと電話しては喧嘩してなんであんたいつもそういうこと言うわけ的にどやしつけられていた。電話の向こうでうーわって顔してただろうなカミさん。
派手なカーアクションとかがあるわけでもない。ノワール風味の犯罪劇。ホイールマンのフランク・グリロ一人芝居の趣もあるからトム・ハーディの車上一人芝居『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』とは親戚のようなもの、かもしれないがこちら未見。
地味だが、地に足の着いたちょっといい映画。地に足の着いたというか、地に足を着けて歩き出すまでの映画か。ほんのり沁みる。あまり面白くはない。
【ママー!これ見てー!】
『ホイールマン』は途中からカメラが車外に出るが(ちなみにその瞬間の琴線振動はなかなか)『逃走車』は徹頭徹尾の車中カメラ。そのくせアクション度数サスペンス度数は高いので酔狂。ポール・ウォーカーっぽいのかもしれない。