《推定ながら見時間:計240分程度》
1シーズン8エピソード完結の精神分析系ミステリーで、意外性に逃げない淡泊なドラマツルギーを誠実さと取るか地味さと取るかでだいぶ印象かわりそう。
それなりに面白くは見たもののながら見時間がたいへんなことになっている。どぎついショック描写とかびっくり展開で無理矢理画面に視線を戻してくれる瞬間とかは基本、ない。
お話は凡なしあわせ毎日を送っていた凡妻ジェシカ・ビールが突如見知らぬ男をメッタ刺しにして殺すところから始まる。いったいなぜ。家族はもちろん警察も本人さえも理由がよくわからず困惑。にも関わらずこの人は罪状(求刑は終身刑)を認めてしまったので更に大困惑。その理由もやはりこの人自身よくわかっていないのだった。なーぜ。
でそんなジェシカ・ビールが気になって仕方が無い刑事が病気で痩けたフィリップ・シーモア・ホフマンみたいな風体のビル・プルマンなんですがー、このビル・プルマンがすごい。最初のエピソードからマゾプレイをしている人なのだがそのマゾっぷりに力が入りすぎている。
これはこわい…被虐願望が本気も本気で眉間に血管浮かせて震えながら痛みを求めるがこうまで強烈な被虐の要求は求められる側にしたらむしろ加虐。リストカットが対自的には自傷でも対外的には威嚇行為になり得るのと一緒。自縄他縛、自暴他棄。
だからビル・プルマンはピンと来たわけだ。俺が殺人的なドマゾならこの殺人女も内奥にドマゾを抱えているのでは。俺たちは同類なのでは。そうかどうかは知らないが(本当は全部見たから知ってるけどな)ともかくそのシンパシーに取り憑かれたピル・プルマンはジェシカ・ビール殺人事件の真相究明に乗り出すとそういうお話が『THE SINNER』、従って記憶を埋めるのは女というかビル・プルマンなのであった。
展開的にはテンションと塩分と品数が控えめなのでありったけのメニューを並べるこってり系が強い米ドラマの中にあってはなんだか見ているだけで健康になってきそうな粗食感があるが粗食といっても創作粗食で、なんか南青山とかで味噌汁一杯だけ1200円で出したりするようなそういう、そういうでいいのか自信がないけれども物語を語るに必要最小限のヒト・モノ・背景をよくよく選んでそれだけ配しているんだろうなぁという絵面。
グラデーションのない画一的な心象風景的背景や対話の場でのフィックス一点透視図法の構図、肉が裂ける音や皮膚が破れる音の慎ましやかな不穏、などなどモダン美学な映像が知的にうつくしく画も音も丹念にデザインされていて好感触ではあるがそれがまぁたぶんうまくいっているからつい安心してながら見が誘発されてしまうという罠。
出来すぎているとか居心地が良すぎるのも考えものということか。毎日1時間ずつ1週間見るのもいいが、2時間の映画として腰を据えて見てみたいという気持ちもある。
【ママー!これ買ってー!】
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妻メッタ刺し殺人事件によりドグラマグラに陥ってしまった『ロスト・ハイウェイ』のビル・プルマンがメッタ刺し犯ジェシカ・ビールの記憶の回復を通してドグラマグラを脱しようとするのがこれと考えるとちょっとイイ話になる。なんとなく似た場面もおおい。
↓原作あるらしい
記憶を埋める女