【ネッフリ】『覗くモーテル』を見る

《推定ながら見時間:25分》

いやいやいや、違う違う。

こっちが正しい。そして予告編を見ればわかるようにドキュメンタリー。完全に殺人鬼系ホラーだと思って再生したから意表。↑のあれみたいなやつかと…それにしても面白いな『クロールスペース』は! 『覗くモーテル』も面白かったけどね!
ただ面白さの方向性としてはホラーな変態趣味でもドキュメンタリーの珍事実開陳でもなくだいぶ斜めっている。

経営するモーテルを自分と妻だけのひみつの覗き小屋にしてしまった怪人物がいた。ダクトに身を潜めて客のセックスを覗く。なにそれめっちゃこわい。めっちゃ乱歩。『屋根裏の散歩者』ではないか。
だがしかし映画はその乱歩的猟奇者があぁあったねー、やってたやってた、まぁ時効だしねぐらいなテンションで平然と過去の所業を語るところから始まるのだった。聞き役のいやにかくしゃくとした高齢の人も慣れた様子で合いの手を入れて和気あいあい。なんじゃこりゃあ。

その聞き役の高齢の人というのはゲイ・タリーズ、知らなかったがニュージャーナリズムの旗手として一世を風靡した高名なジャーナリストらしい。取材のためヌーディストのコミューンで生活を共にしたりした(セックスもちゃんとした)。ニューヨーク・タイムズの内幕を暴くなどした。と映画の中で言っていた。
田原総一朗みたいなものか。いやいやあぁいう剥き出しの闘争心とか悪党っぽさはない。でも鋭い目つきと隙のない所作は悪党とも渡り合ってきたんだろうなと思わせる叩き上げ感なのだった。

例によってなんの解説にもなっていないネッフリ解説に代わってこの映画がなんのお話か説明するとそのゲイ・タリーズが新著を出したと。それが邦訳も出ている『覗くモーテル(The Voyeur’s Motel )』という本で、件の乱歩的猟奇者ジェラルド・フースに取材したもの。
ふたりの関係は長い。なんと1980年から交友とも取材ともつかない奇妙な関係が続いていたというから驚く。一緒に人様のセックスを覗いた仲はなかなか切れない。タリーズは取材としてフースのひみつ覗き通路に入っていた。
一緒に覗いた思い出は消えない、などと『スナッチャー』のランダム・ハジルも熱く語っていた…。

足掛けウン十年の取材がついに一冊の本にということでドキュメンタリーのクルーが入る。大御所ゲイ・タリーズの集大成出版ときたらそれはもうご祝儀的に情熱大陸しておかないわけにはいかない。
たぶんクルーもタリーズ本人もそういうつもりだったのだが! 事態はあらぬ方向へ向かうのだった。それが『覗くモーテル』という映画。あらぬ方向とは要するに…フースお前なにもの? みたいな事と述べるに留めておく一応。ストーリー即内容のドキュメンタリーのため。

映像に面白い趣向があった。テレビ系のドキュメンタリーとかで再現映像が挿入される演出とかありますが、これは覗くモーテルを再現したかイメージしたジオラマの映像を度々差し挟んでくる。
それで思い出したのは藤子・F・不二雄先生の短編で、街のジオラマ制作に没頭する孤独な趣味人が、理由は忘れたがリアル街とリンクしてしまったふしぎジオラマの中に自殺志願者を発見するという話なのだが、フースはフースでいつものようにセックス覗こうとして殺人を目撃してしまったらしい。

そういえば、実相寺昭雄が乱歩を映像化した『D坂の殺人事件』にも場面場面にD坂のジオラマが出てくる。ジオラマと覗きと殺人。藤子・F・不二雄と実相寺昭雄と江戸川乱歩とゲイ・タリーズ、ニュージャーナリズム。
奇妙な繋がりというのもある。なんの繋がりかと言えばこれはきっと、曇りのない眼差しと厳格なリアルへの志向に不幸にもかどうかは知らないが不条理な幻想がまとわりついて離れない、そういうものの繋がりなんじゃないかとおもったな。

江戸川乱歩には博覧強記と錯乱狂気が同居しているがゲイ・タリーズのばあいは前者だけのように見える。覗きモーテルを隠そうともせずむしろ高名なジャーナリストにコンタクトを取って嬉々として犯行を語る。後者はもちろんフースだがいや待て本当にそうなのか。
映画の冒頭にタリーズがパリッとおめかしして外出する場面があるが、これと鏡写しになったシーンが映画の後半、今度はフース側に用意されていた。だんだんとふたりの違いがわからなくなってくるのが『覗くモーテル』という映画のおもしろいところだった。

覗くものと覗かれるもの、取材するものと取材されるもの、撮るものと撮られるもの、の垣根が消えていくといえば大袈裟で基本的にはええ歳のちょいお茶目ジジィふたりが下らない喧嘩をする(俺の野球カードコレクションを本に書いていいなんて言ってないぞ! 泥棒が入ったらどうする!)しょうもなくて笑える映画だが、与太話に収まらないすこしふしぎな幻想味があってこれは曲者。イイ。

【ママー!これ買ってー!】


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このフースとかいうサングラス常用の覗き親父は肌がツルッツルでファンデーションとか塗ってるんじゃないかと思うがその怪異なる風貌がマダム・タッソーの蝋人形かカーネルサンダースのマネキンのようだ。
『クロールスペース』のデヴィッド・シュモーラーにはマネキン館の恐怖を描いた『デビルズ・ゾーン』もあるわけだから自然体でシュモーラーしてしまうジェラルド・フース。
あとこの人は野球カード以外にも豊富な安物コレクションを蔵する下町コレクターだったがそれもなんかまた…キャラが濃いよ!

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