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こんなろくでもなさそうな邦題を持つ映画の前売り特典がニコラス・ケイジうまい棒という時点で既に噴飯不可避なのに後にニコケイのエージェントから怒られて配布撤回という流れが映画以前に面白すぎたからその面白さを当の映画が超えることは絶対ないだろうと油断していたため今年最後のニコケイに完全憤死。
主演では『ヴェンジェンス』『ドッグ・イート・ドッグ』、助演では『キング・ホステージ』『スノーデン』と今年もむやみやたらと公開されたニコケイ映画だったがこの映画でニコケイ史上最低の怪演を目撃してしまったためどのニコケイも全部吹き飛んだぞおい。
『ヴェンジェンス』のシリアスケイジなんて素晴らしかったけどこれがあまりにも酷いから上書き消去されてもう思い出せないよ!
でもあれだな、『ヴェンジェンス』も『オレの獲物はビン・ラディン』も自警または私刑の法の一線を踏み越えた、狂気を帯びた義憤と使命感テーマと考えれば『ヴェンジェンス』のシリアスケイジも『オレの獲物はビン・ラディン』底抜けケイジも表裏一体なのかもしれない。
とにかくなんだこれはな映画だ『オレの獲物はビンラディン』。時は9.11の傷も未だ癒えぬイラク戦争泥沼突入中の2004年、ホームセンターで買い物中の見知らぬ人たちにアメリカ製品以外は糞だから買うなと叫び人工透析を受けながら見知らぬ人たちにアメリカの素晴らしさを説きメキシコ人は泥棒だらけだと罵り夜は星条旗に包まって現場で眠るほどの超愛国狂信人種差別的大工さんゲイリー・フォークナー(ニコラス・ケイジ)が神さまイエスさまを幻視する。
ビン・ラディンを探し出して生け捕りにしろ! この神さまイエスさまは腕に墨が入ってるしすごい筋肉あるし理屈より根性タイプですぐ怒鳴ったり理不尽な要求をしてくるし気を抜いてると不意に現れるのでこわい。
全知全能なのになんでビン・ラディンの居場所を教えてくれないのかと恐怖にゲロ泣きしながら冷静に指摘するフォークナーにそれはお前自身が成長するためだからだよ! 神は自らを助くる者を助く! ヤンキー上がりのラーメン屋店主か。
大工の息子要素をフィーチャーした現場主義的ガテン系イエス像としてある意味超正統な描写なのかもしれないが…。
神さまイエスさまの命令には逆らえないし愛国者なのでたった一人ビン・ラディン捕獲作戦を開始するフォークナー。まずはラスベガスに寄ってカジノを満喫。ショッピング番組を見てたら対ビン・ラディン用サムライソードが売っていたので即購入。パキスタンに向かうため空港に行ったら刀は機内に持ち込めないと断られた。
ネバーギブアップ。あたまはたぶんおかしいが幸か不幸か正義感と行動力と底抜けの楽天性と誰とでも打ち解ける外向的な性格はあってしまったフォークナーなのでそんなことでは少しもめげず打倒ビン・ラディンに益々燃えてしまうのだった。飛行機がダメならハンググライダーでパキスタンに行くぞ! ラジカセを買おう!
全然意味がわからないし国境移動手段としてハンググライダーを採用するとか『たけしの挑戦状』でしか見たことないよ。
だがしかしいやしかしこれがもしくはこの脚本が賞レースに絡まないのがふしぎでふしぎでならないふしぎ。単に制度的に選考対象になってないとかそういう話かもしれないけれどもこういうのを逃すっていうか、正面から評せないってもうなんかダメなんじゃないですか。
失笑苦笑甚だしいまったくわけがわからないとんでもバカ道中は見終わったら感銘しかないわけでなんで感銘って安全な落としどころに逃げてない本気の批判精神があったんだよいやほんとに! シドニー・ルメットばりにストイックな超社会派だったよ!
オバマ政権下でのビン・ラディン奇襲殺害と妄想の神の命令でビン・ラディンを正々堂々生け捕りにしようとすることのどちらが倫理的な行いと言えるのかと! テロとの戦いとはなんだったのか!
映画の冒頭、これは本当の話かもしれないし本当の話じゃないかもしれないが事実に基づく云々とふざけたテロップが出るのはフォークナーの妄想戦記(?)を原作としているからだが!
これが生半可な社会派気取り映画ではないというのは、そのテロップがビン・ラディンの輸送中の水葬にもかかってたりするからだ…あるいはそのことの残酷な(または幸せな)波及効果をシニカルに見据えようとするからだ。
現代版『殺人狂時代』のような『独裁者』のような映画に思うがそこに『地獄の黙示録』パロディとか『インディー・ジョーンズ』みたいのが入ってくる。
妄想の神と見えざる敵に苛まれながらイスラマバードで無為の日々を過ごす(全然ビン・ラディン見つからないため)サムライ・フォークナーはやがて自らにビン・ラディンの影を見出すのであった、が。
これこれの何重にも層を成した皮肉と批判を腐れ頭でうまくまとめられる気がしないので適当に分かったことにして受け流しておきたいがこういう仕方でビン・ラディン暗殺とか9.11の爪痕とかCIAの無策とかオバマ大統領の時代とかその後に広がるナショナリズムと排外主義ブームまでニコラス狂人に託した90分のバカ映画とか結構とんでもねぇのではないかとおもったよな。
尚のこととんでもないのは、こんな仮借ないアメリカ批評が『ドン・キホーテ』的わくわくシュール冒険記の中でゆかいにほがらかに平和に展開されてしまうことで、バツイチのシングルマザーと交際を始めたフォークナーは大冒険から帰るたびに必ず脳性まひの娘におみやげを持っていくのだがそんなファンタジー要素(ビジュアル的な意味ではなく)まで神いや加味されちゃったら絶対に物事を一つの方向から単純には見せねぇぞみたいな作り手の強靭な批評的知性に確かに、うまい棒とかにしてごめんなさいって謝りたくはなるよね。
暫定、今年いちばん笑ったし衝撃を受けた映画。あとうまい棒はやっぱりほしかったです。
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ありえないぐらい本気で正確にビン・ラディン暗殺映画『ゼロ・ダーク・サーティ』と対になってしまう。
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